Ep.6 友が求める君を聞かせて ―― *Ayame
「好きなものを共有できるのっていいよね。
友達、か。……友達ってどこから友達なんだろう。
それに、友達にはそんな、個人的な苦労や悩みなんて、話すものじゃないと思っていた。そんなことを話されたって、何も楽しいことはないだろうに。詩遠さんのような人たちの間では、これが普通なのだろうか。わたしにはわからない。
「何で、そこまで……。それって詩遠さんに、何の得があるんですか?」
「得かぁ……あたしにとっては、彪雨ちゃんとお話しすること自体がもう得なんだけどな。強いて言うなら、あたしとは違う考えで、あたしとは全然違う人生を歩んでいる彪雨ちゃんのことを、もっと知りたいから、かな」
そう言って笑う詩遠さんは、わたしにはとても眩しく見えて――でもきっとそれは、わたしが気にすることじゃないんだと思った。わたしは詩遠さんみたいに輝いていないけれど、そんなわたしだから、詩遠さんからしたら不思議だったり理解できないこともあるだろう。わたしも、詩遠さんの考えはすべて理解できるわけではない。
だけれど彼女は、そんな違いを知っていきたいと言っている。だからわたしは、むしろそのままでいいのだ。このままのわたしだから、詩遠さんにとっては面白いのだろう。
何だか笑えてきてしまう。こんなにおかしな自分を、こんな形で肯定されるなんて。これは、喜んでいいことなのだろうか。
「詩遠さんがそう言うのであれば、わたしもお友達になりたいです」
「ホント!? じゃあ早速、連絡先交換しよう!」
家族以外の連絡先は、これで
すると、メッセージの通知が来た。こんな時に来るとなると、
「目の前にいるのにわざわざ送ったんですか?」
「いいから、お返事ちょうだい?」
言われるままにメッセージに目を通す。
〈クッキーの他にも、彪雨ちゃんの好きなもの教えて?〉
わざわざ名前を漢字にしてくれている。こんな読みづらくて覚えにくい字を。
「色んな話を聞かせてよ。彪雨ちゃんの好きなもの、嫌いなもの、楽しかったこと、嫌だったこと、大変だったこと、頑張ったこと、どうでもいいこと。何でも聞かせて? そういうので一緒に笑ったり、喜んだり、悲しんだり怒ったり。あたしはそういうことができる関係になりたいの」
「それが、友達……」
友達という関係において初心者過ぎて、わたしは右も左もわからない。だからそうして言葉にしてくれるのはありがたかった。漠然と友達と言われてもどうしたらいいのかわからなかったけれど、これならわたしでもちゃんとできるかもしれない。
「ほらほら、お返事は~?」
呆然と感慨に耽っていると、物欲しそうな詩遠さんの言葉で我に返った。
顔を見て話すより、文字の上で話す方が得意だ。相手の顔が見えないから緊張しないし、考える時間もある。だけれど今は、相手の顔も見えるし、それほど考える時間があるわけでもない。
わたしは思い付いたままに文字にして、彼女に送信した。
「へぇ、彪雨ちゃん、紅茶も好きなんだ! っていうか、一口に紅茶って言っても色々あるんだね。あたし、知らなかったよ」
「そうなんです。個人的にはですけど、ダージリンは少し渋めでミルクティーに合います。アールグレイは少し酸味があるのでわたしはあまり好きじゃないんですが、クッキーとかマフィンとか、焼き菓子に入れると美味しいですよ。飲みやすさとしては、セイロンやアッサムは飲みやすいかもしれないです。一緒に合わせるお茶菓子なんかにも依ると思いますが」
気が付けばわたしは、長々と一人で話してしまっていた。自分の好きなものを勝手に長々と語っていても、興味もない話は聞いていて面白くもないだろう。もう嫌だと思われたりしていないだろうか。
そう思ってちらと詩遠さんの方を見れば、彼女はむしろ、目を輝かせてわたしの話を聞いてくれていた。
「……つまらなく、ないですか?」
「つまらなくなんてないよ! だって好きなこと話してる時の彪雨ちゃん、すごく楽しそうだから。聞いててあたしも楽しくなっちゃうよ」
そういうものなのだろうか。でも、好きなことを好きなように話していいというのは、わたしも楽しい。それに、詩遠さんの好きなものも聞きたいなと思えてくる。もっと彼女のことを知りたいと思えてくる。
そうか、これが彼女が言っていたことの意味なのだろう。これが友達というものなのだろう。
それからわたしたちはもう少しお話をして、今日は遅くならないうちに帰ることにした。また遅くなると、弟たちに迷惑が掛かってしまうから。
「今日はありがとうございました」
この間も今日も、わたしは彼女に良くしてもらってばかりだ。今日はお礼に来たはずなのに、気付けば彼女に元気付けられていた。
「ええっ?! いいんだよ、そんな畏まらなくて。敬語じゃなくてタメ口で全然いいし。あれ、そういえば彪雨ちゃんっていくつなんだっけ?」
「高二です」
「いくつって聞いたんだけどな~」
なんて、煽るような笑みを向けられる。詩遠さんのこういうところはちょっとだけムカつく。でも確かに、聞かれた通りに答えていないのはわたしの方だから、何も言い返せない。
「……十六です」
「そっかぁ。あたし一個上だけど、気にしないでね」
やはり思っていた通り、彼女の方が年上だった。気にしないでと言われても、年上相手にタメ口というのは躊躇われる。彼女はそうしてほしいのだろうけれど。
「ほら、あたし妹だから年齢の割に子どもっぽいというか。逆に彪雨ちゃんはお姉ちゃんだからか、歳の割にしっかりしてるよね」
「それとこれとは別です。では詩遠さん、今後ともよろしくお願いします」
「ねぇ~彪雨ちゃ~ん! 敬語やめようよ~!」
詩遠さんはなりふり構わず駄々をこね始めた。確かにこれは、妹だからなのだろうか。むしろここでわたしが姉らしく振舞ってしまったら、詩遠さん自身の成長には逆効果なのではないだろうか。きっと今後もこういう態度を取ればどうにかなると思ってしまうのではないか。
「じゃあ、今日はこれで帰りますので」
わたしは詩遠さんに一礼して、部屋を出ていく。と、すぐに詩遠さんも追いかけてきて、何だかんだ言いながらも見送ってくれた。
何だかこんなやり取りも楽しい。これが友達か。本当に、詩遠さんには感謝しないといけないな。
帰り道の途中、ふと思いついたことを、詩遠さんに送ってみた。これが顔を見ずに送る、初めてのメッセージ。
〈春雨に とけてゆらゆら 流るれば 君がすくいし 願わざりしを〉
するとすぐに既読が付いて、返信がある。
〈どういう意味?? 春雨食べたいの?〉
〈違います。内緒です〉
これを話せる時にはきっと、わたしはもう雨になりたいなんて思わないのだろうな。
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