第16話 普通
「……湊。今日の部活、もう終わり?」
弓道場の外、片付けを終えた僕に声をかけてきたのは、野球部の健吾だった。練習着のままだけど、どこか落ち着いた雰囲気を持っている。彼は野球部のエースでありながら、クラスでも浮つくことのない、冷静で優しい男だ。
「ああ。健吾こそ、まだ練習あるんじゃないのか?」
「今日は早上がりなんだ。……あ、ほら。あいつ、もうあんなところにいるし」
健吾が指差した先、校門の近くの植え込みに腰掛けているのは、軽音部の大和だ。
首にはいつも通り大きなヘッドフォンをかけ、リズムに合わせるように小さく頭を揺らしている。僕たちに気づくと、大和はヘッドフォンをずらし、何か面白いことでもあったのか、ニカッと笑って手を振った。
「湊、健吾。遅いよ。……これ、今の新曲のデモなんだけど、めちゃくちゃいい感じに録れたんだ」
「またその話? まあ、後で聴かせてよ」
健吾が苦笑いしながら応える。大和は自分の世界を持っているけれど、それを他人に押し付けることはない。ただ、自分が楽しいから笑っている。そんな彼と一緒にいると、こちらの肩の力も抜ける。
「……で、これからどうする? 湖の方まで歩くか。まだ日は高いし」
大和が提案し、僕らは特に目的もなく歩き出した。
「いいな。……湊、最近ちょっと忙しそうだったし、少し歩くのはいい気分転換になると思うよ」
健吾がさりげなく僕の様子を気遣ってくれる。彼はこういう、押し付けがましくない優しさを持っている。
「そうか? ……まあ、そうかもな」
「だろ? 湊は考えすぎなんだよ。ほら、もっとこう、今の風の感じとか楽しめばいいのに」
大和が空を仰ぎながら、また自分だけの音楽を鳴らすように指を動かす。
屋上の彼女との不思議な時間や、家での賑やかな会話。
それも大切だけど、こうして男友達と何でもない話をしながら、影が伸びる道を歩く時間。
それが僕にとっては、一番「高校生」に戻れる瞬間だった。
「……帰り、湊のバイト先寄ってもいい?」
「またかよ、大和。健吾にまた栄養バランスがどうのって怒られるぞ」
「いいよ、今日はポテトくらい許すよ」
三人の笑い声が、夕暮れの湖へと続く道に穏やかに溶けていった。
幽霊の落とし物、未練のち晴れ @qwertyqwerty
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