第6話 戦い
「……っ、来るな!」
咆哮とともに、三体の魔物が一斉に飛びかかってきた。
武器なんてない。あるのは、彼女が大切に抱えている一冊の古書だけだ。
「佐藤くん、危ない!」
彼女の叫びに応えるように、僕の手が自然と本に触れた。その瞬間、本のページが猛烈な勢いでめくれ、眩い光の粒子となって僕の右手に集まっていく。
光が収まったとき、僕の掌には、透き通ったクリスタルのような「剣」が握られていた。
刀身の中を、物語の一節が文字のまま流動している、美しくも鋭い武器。
「これ、本が……剣に……?」
驚いている暇はなかった。魔物の鋭い爪が、僕の肩を深く切り裂く。
「あぐっ……!」
熱い痛みが走る。現実世界では味わったことのない、生々しい「死」の予感。
それでも、僕が膝をつけば、後ろにいる彼女が傷つく。
「やめて、もういい! 佐藤くん、逃げて!」
彼女の泣き声が聞こえる。でも、僕は一歩も引かなかった。
ボロボロになった制服、血の滲む腕、絶え間ない激痛。
たくさん傷ついて、息が切れて、視界が滲んでも——彼女の温もりを知ってしまった僕の手は、もう二度と彼女を離したくなかった。
「……逃げない。君が、この世界でやっと笑えたんだから……僕が、君を守るんだ!」
僕は叫びながら、言の葉の剣を振り抜いた。
剣が空を切るたび、本に刻まれていた「勇気」や「希望」の言葉が光の残像となって魔物を切り裂いていく。
一匹、また一匹と魔物が霧散していく中で、僕の体も限界に達していた。
最後の一匹を倒した瞬間、剣は光の粒となって消え、僕はその場に崩れ落ちた。
「佐藤くん! しっかりして!」
彼女が駆け寄り、僕を抱きしめる。
冷たいはずの彼女の体が、今は驚くほど熱い。彼女の流す涙が僕の頬に落ちて、傷口に染みた。
「……バカだよ、どうして……。私はもう、死んでるのに……」
「……死んでるとか、関係ないよ。今、君はここにいて……泣いてるじゃないか」
僕は震える手で、彼女の頬を拭った。
傷だらけの体はひどく痛むけれど、不思議と心は、晴れ渡った空のように清々しかった。
「悲しくて、ボロボロだけど……。なんか、楽しいな。君と一緒にいるの」
僕の言葉に、彼女は泣き笑いのような顔をして、僕の胸に顔を埋めた。
その時、二人の周囲を、あの白うさぎが静かに見守るように回っていた。
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