第4話
「三人とも、お疲れ様。練習の途中で悪いけど、練習メニューはどうやって決めてるんだ?」
オレの存在に気付いてそれぞれが会釈してくれる。一番近かったからか、オレの質問には緩奈ちゃんが答えてくれた。
「練習メニューなんてないですよ。各自でやってるだけです」
「そのノックは誰が言い出したんだ?」
「私です」
緩奈ちゃんがそっと手を挙げた。それにしても、この子は表情の変化がほとんど見られないな。姉とは大違いだ。覇気がないとは違うが、淡々としていて、素っ気ない。
「そこのノーコンにせめてフィールディングはまともになってもらおうとしたら、絢郁もやりたいと言ってきたので」
しかもちょっと毒舌だ。こうした冷静さと性格の悪さを兼ね備えているところは、捕手向きだなと思う。彼女のように遠慮なく相手の弱点を指摘してくれる存在がいれば、選手間でも互いに高め合えるんじゃないか?
「ちょっ、誰がノーコンよ!」
「あんなリードし甲斐のないのは初めて」
キャッチャーにそこまで言われるってことは、高瀬さんのコントロールが悪いのは事実なんだろう。それを自覚しているのか、高瀬さんはそれきり何も言わず、おとなしく腰を落としてグラブを構える。
ノックを続けながら、緩奈ちゃんは淡々とチームの現状を話してくれた。
「集まってる素材は悪くないと思うんです。ただ、まとまりがないだけで。美聡先輩も、これ以上人減ってほしくないから、強く言えないんだと思います」
ああ、ようやく合点がいった。だから彼女はあんなに周りに気を遣っているのか。マネージャーのようなこともやっているようだと聞くし。ただ、チームの現状や昨年の様子を踏まえれば、そうなっても仕方ないのかもしれない。
そこへ、着替えを終えた遥奈ちゃんがやってくる。愛嬌のある彼女がやってくると、途端に場が少し明るくなる気がする。
「お待たせ~」
「やっと来たわね。二番手ピッチャーさん」
「エース様の間違いじゃなくて?」
やってきて早々、遥奈ちゃんと高瀬さんの睨み合いが再発した。やれやれ、また始まるのか……。
「ちょうどいい機会です。監督に二人の投球を見てもらいましょうか」
ふと、緩奈ちゃんがそんなことを言い出すと、いがみ合っていた二人も急に意気投合したようにこちらにやってくる。
「そうね。それで判断してもらいましょう」
「ふふん、いいよ。どちらが真のエースか、はっきりさせてやるんだから!」
これはオレにとって、監督としての最初の選択だ。これからオレは、何度も何かを選び、代わりに何かを選ばない。その選択が正しかったのかどうかを、オレはずっと問い続けるのだろう。それが監督という道を選んだ、オレの宿命なのだ。
緩奈ちゃんがプロテクターをつけている間に、ようやく他の部員もやってきていた。キャプテンの綾羽さんとムードメーカーの倉沢さん、それともう一人、この間は見かけなかった茶髪の少女が来ていた。彼女がもう一人の二年生だろうか。背が高く、身のこなしも軽やかで、他の上級生二人と比べても身体能力は高そうに見える。
「なになに、面白いことやろうとしてるみたいじゃん」
「ああ、
彼女がサボり常習犯であることは、下級生にも周知の事実らしい。もはや緩奈ちゃんも怒ることなく淡々と流している。すると何を思ったか、緩奈ちゃんは結衣と呼ばれた少女に金属バットを差し出した。
「ちょうどよかったです。結衣さん、打者やります?」
「え、いいの? やるやる~!」
オレとは初対面のはずだけど、まるで眼中にないのか何なのか、気に留める様子もなく彼女はバットを受け取って打席に向かう。そこでようやくオレの存在に気付いたのか、少し驚いたような様子を見せて、にこやかに手を振ってきた。
「あ、新しい監督さんだっけ? あたしは
オレの返事を聞くこともなく、軽々とバットを担いだ結衣は、緩奈ちゃんの左前、右打席に立つ。まあ、話は後でもいい。ついでに結衣の打者としての能力も見れるなら、一石二鳥だろう。
「絢郁はそのままセカンド、香撫さんショート、美聡さんはサードに入ってもらえますか?」
「はーい」
緩奈ちゃんの指示で、それぞれがグラブを手に守備位置につく。これでは誰がキャプテンなのかわからないな。
「監督は審判お願いしますね。まずは結祈から投げるんで、防具つけた方がいいですよ」
「お、おう……」
コントロールが悪いって、そこまでなのか。防具をつけるようということは、言われる緩奈ちゃんが捕れないくらいの暴投があり得るということだろう。
「私は?」
指示をもらえなかった遥奈ちゃんが、一人きょろきょろと手持無沙汰そうにしていると、緩奈ちゃんが呆れたように言う。
「遥奈は元々ファーストくらいしかできないでしょ?」
「は、はい……」
少し落ち込んだような様子で、遥奈ちゃんはファーストミットを取ってきて一塁守備についた。確か緩奈ちゃんの方が妹だったと思うが、遥奈ちゃんは妹には頭が上がらないのだろうか。なんて、プロテクターをつけながら微笑ましく思う。
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