第二話 不思議なお店

「こちのお席にどうぞ」


 テーブル席に案内され、大地は女性に会釈をし、背もたれ付きの椅子を引く。座面にゆっくりと腰を下ろし、テーブルに置かれた白色表紙のメニュー表を開く。そこには、メニューの名と美味しそうな料理をうつした写真が載せられていた。


 メニュー表を開いてから二分後、大地はハンバーグセットを注文し、料理の到着を待つ。


 灰色の瞳をした女性が注文を受け、キッチンに足を踏み入れると、大地は店内を見渡す。


「見た目は普通のお店なんだけどなあ……」


 大地は理由は分からないが、違和感のようなものを覚えていた。その違和感はネガティブなものではない。


 大地の視線は、キッチンに向く。


「あの人しかキッチンにいない。あの人が経営してるお店なのかな……」


 キッチンに目を凝らすが、灰色の瞳をした女性以外に人の姿はなかった。


 大地はジーンズの右ポケットにしまったスマートフォンを抜き取り、再びマップアプリを開く。この日宿泊する宿の場所を確認した後、検索バーにこのお店の店名を入力する。だが、マップ上に店名の表示はなかった。


「不思議だな……」


 大地は首を傾げると、マップアプリを閉じ、スマートフォンをジーンズの右ポケットにしまう。


「お待たせしました」


 注文してからおよそ十五分後、女性のやわらかい声が聞こえ、ハンバーグの香ばしい匂いが漂ってきた。


 テーブルには、プレートの上で湯気を出すハンバーグと、セットの皿に盛られたライス、小さな器に盛られたサラダ、そしてわかめスープが並んでいた。


「ごゆっくりどうぞ」


 灰色の瞳をした女性は会釈し、キッチンに歩んでいく。


 彼女がキッチンに足を踏み入れたところで大地は手を合わせ、右手にナイフ、左手にフォークを持つ。


 縦に刻んだハンバーグを口に運ぶと、肉とソースの旨味が口いっぱいに広がり、大地の頬が自然と緩む。


 意味もなく正面を向いた大地の視線の先には、テーブル方向を見つめる黒髪でショートカットの女性の姿があった。


 彼女と遠目から視線が合うと、ハンバーグの湯気がわずかに色濃くなった。

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灰色の瞳をした美女店主 Wildvogel @aim3

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