第2話
その青いゼリー状の生き物は不気味に動いているが、そこまで大きくはない。
私はこの生き物を知っていた。
「スラ……イム……よね?」
そう、この生き物はスライムである。
こういったRPGや異世界とかでは、最弱のモンスターであり負けない理由がない。
私は、少し悩んで考えた。
そうか、私は異世界に来ている。
それ即ち……転移特典があるのではないだろうか?
そう考えると急に残業の疲れが吹き飛ぶようだった。
少し考えると、スライムは地面をバウンドして私にぶつかってくる。
腕でガードするのだが、これが恐ろしいほど痛かった。
「い……痛い!なんで……スライムでしょ。」
スライムといえど、質量はかなりのものだ。
粘着質な体なのに、ぶつかってくる時は鉛のように重くて、腕が折れてるのではと錯覚してしまう。
私はスライムから距離を取る。
……嘘よね?絶対……何かあるよね?
「わかったわ!私パワー系じゃないもの!普段は営業事務の女……きっと呪文特化なんだ!絶対そうだ!」
意味不明な独り言を発してから……呪文を唱える。
そう、こういう時は炎を出すイメージをすればいい……。
そう、中学生の頃に遡る黒歴史もとい、戦いの記憶……これさえあれば魔法だって具現化できるはずだ。
よし、イメージが湧いてきた!
あとは思うがままに呪文を唱えるのだ!
「ラ〇デイン!!」
悪しき魂を浄化する……聖なる雷!!
そんなイメージを相手にぶつけるのだった。
………………。
「あ……あれ?」
しかし、そんな思いも虚しく……雷どころか空気が1ミリも動くこともなくて、スライムはただの威嚇だと思い怯んでいたが……何も無いことを察すると襲いかかってくる。
「ぎゃああああ!!助けてーー!」
しかし、そんな思いも虚しく私はスライムにボコボコにされていた。
体当たりで腕と肋骨は折れて、そしてうつ病のせいか体が鉛のように動かなかった。
カバンで応戦するも……スライムに効いたかどうかすらも分からず、私は少しずつ景色が揺らいできた。
スライムから逃げても……ほかのスライムは出てくるし、それどころかカラスにさえも襲われて……私は既に意識が朦朧としていた。
カラスに髪の毛を蝕まれて何本か抜けてきた時に少し感じた。
ああ……私死ぬんだ。
突然そう悟ると、抵抗を辞めてしまう。
よく捕食される生き物の動画を見かけることはあるけど……きっとこんな感じなのかもしれない。
人生……何もいいことはなかった。
小中高では孤立してゲームをしてばかりだった。
そして、大学生では親友に好きな人を奪われてたっけ。
仕事を教えてくれたイケメンの先輩にはただのセフレ扱いをされて……同僚に恥ずかしい写真にされていた。
まって!私の走馬灯なんでこんなにまともなのないの!なんか無いの!?
……でも、きっとこれも運命なのかもしれない。
そう諦めた時だった。
突然、雷が走り……先程の魔物が一瞬で消し炭になっていた。
そして、その先には……金髪碧眼の男性が麗しくも冷徹な目で敵を一掃していた。
…………助かった?
「……君、そんなとこにいたら……危ない。」
「あ……ああ……ありがとうございます〜!死ぬかと思いました〜〜!!!」
私は、ホコリとスライムの粘液まみれのスーツで男にしがみついた。
なんだろう……ちょっと人見知りの感じがするけど、人にやさしくしてもらうのは久しぶりだった。
☆☆
「うう……ひっく……えっぐ。」
「ほら……落ち着いた?食料のパンしかないけど。」
「ありがとうございます……。」
私は、味気の無いパンを食べる。
日本の菓子パンとは違い……一瞬で口の水分を持っていかれてむせ返ってしまった。
パンが全くの歯切れの悪さから……日本で食べ慣れてるパンはいかに洗練された味なのかを思い知らされていた。
でも、とにかく今は久しぶりに人にやさしくされたこと自体が嬉しいのか……そんなことがどうでもいいくらいには心が暖かくなっていた。
「……僕はニコ。君は?」
「星七海といいます……。茅ヶ崎不動産商事で勤めてる営業事務です。」
「……ん?そ……そうか。」
ニコと名乗る男性は、以下にも勇者と言わんばかりの見た目をしていた。
肩パットの着いた鎧から、マントが下げられていて不気味なほど長い大剣を背負っている。
それなのに、身体がしなやかな細マッチョでまるでメン地下かコスプレイヤーのようだった。
「……どこから来たの?」
「え……っと、埼玉県です!」
「……サイタマケン?初めて聞くね。」
日本では聞きなれた単語のはずなのに全く伝わらない。
その反応だけでも異世界にいることを裏付けるようでもあった。
そして、しばらく無言が続く。
いけない!何話せばいいんだろう!
えっと……まずはアイスブレイクして、そこからヒアリングをして……ちがう!これは営業マニュアルだった!!
「ごめんなさい!!私……ニコさんに助けられて分かりました!とにかく頑張ってみようと思います!!ありがとうございます!」
「…………あ、そこ行くと、スカルパンサーの巣に着いちゃう。毒を持っていて、噛まれるとドロドロに溶けちゃう。」
「ごめんなさい!やっぱ一緒にいてもいいですか!」
どうしよう、死にたいなんて仕事中に考えていたけどやっぱり私の心は死にたいなんて微塵も思ってはいなかった。
金髪碧眼の美少年はクスリとニヒルに笑う。
完璧な見た目なのに、ふとした瞬間に見せる油断のある姿に私は心を撃ち抜かれそうだった。
いけない!七海……私は過去にもホストとか、マルチとかでイケメンに騙され続けた猛者!見た目がいい男は全員クズだった誰かが言ってたんだ!
それに面接官がイケメンだから今の会社に来たのを忘れたの!
そう自分に喝を入れ、言い聞かせる。
するとそんな私に優しく手を差し伸べると、ニコは不器用ながらも優しく話し続けてくれた。
「……なら、案内するよ。僕で良ければ。」
「あの……その……お願いします。」
私は、またいい男に流されていく。
でも……この男は信じてもいいのかも、なんて淡い期待をまたもや抱いていた。
日本とはちがう草原は、乾いた風を優しく吹き鳴らしどこかそこが春を感じて心地よかった。
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