第3話
ニコは恐ろしいほど強かった。
時折魔物が現れ、襲いかかってくる。
ある一定の山を超えると生態系は大きく変わり、スライムなんか目じゃないゴブリンの群れが現れるようになってきた。
ゴブリンもゲームの世界ではスライムとはどんぐりの背比べもいい所だけど、私にとっては最早イノシシと戦うようなものだった。
「ひ……ひい!」
私がひのきのぼうでぶん殴るが、少し傷が着く程度でゴブリンはニチャァ……と笑いかけてナイフを構える。
絶体絶命……なんて思うとニコが目玉の着いた禍々しい魔剣を振るうと、あっという間にゴブリンは灰のように木っ端微塵になっていた。
「……ナナミ、危ない。」
「ご……ごめんなさい。」
相変わらず、ニコは顔はいいけど仏頂面で何を考えてるのか分からない。
ただ、怯える魔物を殺す時も表情を変えなかったのでその時は……少し怖いなと思っていた。
「……日が暮れる。」
「ごめんなさい!山道とか……魔物とかで対応できなくて。」
「……大丈夫、今日はここで野宿しよう。」
どうやら、キャンプポイントというところがあって魔除の魔石があるところでは宿泊ができるようだった。
私は、硬いパンにかじりついて静かに食べていた。
ニコは……ずっと先を見ている。
……かっこいい、顔が良すぎる。
これ、顔だけで食べて行けるんじゃないだろうか?
それくらいニコは美しかった。
「あの!ニコってすごく強いじゃない!もしかして勇者なの?」
そう聞くと、ニコは苦笑した。
「……そんな大それたものじゃない。僕はただのニコだよ。それ以外の何物でもない。」
とは言いつつ、魔剣の切っ先を見る様子は明らかに勇者のそれだった。
「家族は?」
「……いない。」
「そっか。」
どうやら、話す内容は必要最低限みたいでまだまだ距離を感じる。
でも、守ってくれるだけ私には有難かった。
「ねえ、どこに向かってるの?」
「……セントブルグの街。この地域ではギルドもあるし、政治も安定してるからそこまで行ったらお別れだ。」
「えー、私ニコとならいちばん安全な気がするけど。」
そういうと、ニコは少しだけ怖い顔をしてこちらを睨んだ。
「ひっ!ご……ごめんなさい!迷惑……よね?」
なんというか、一瞬だけニコが悪魔以上のなにかに見えたけど、少し落ち着くとまた美麗な仏頂面に戻る。
「……ナナミ、僕が怖くないのか?この魔剣を振るったら、君を殺しかねないんだよ。」
「ぜーんぜん!ニコは確かに怖いけど悪い人じゃない気がするもん!」
まあ、私の基準は前働いていたブラック企業の人間が基準になるからそれに比べたら優しいんだけどね。
あ〜、部長何してるかな。
退職代行使った時は家まで入り込んできた時は生きた心地しなかったな〜。
「……もう寝よう。」
「そうね!」
そう言って、お互いに背をむけて眠る。
草原が柔らかいのだが、ベッドに慣れた私にとっては寝心地は最悪そのものだった。
該当のない夜は不気味なほど暗く、焚き火のパチパチとした音が静かに過ぎ去るのだった。
☆☆
……あさのひざしが目に当たるのに、私は起きるのが遅かった。
疲れがどっと来たのかもしれない。
寝れないと思っていたけど、そう思う前に私は爆睡していた。
そして、何やら不穏な雰囲気じゃないことに気がつく。
周りに4~5人ほどの人間に囲まれていた。
「……おはよう、ななみ。」
「ニコ!?どうしたの!?」
「……。」
ニコは私の声を無視して、相手の撃った矢を切り裂いた。
私はそれを見て青ざめる。
「きゃーーーー!?」
「……落ち着いて、ナナミ。」
「いや!起きたら命狙われてるってどういう状況よ!!」
私がテンパってると、1人の怪しい男が二ヘラと笑い近寄ってくる。
「見つけたぞ〜?特定S級モンスター……魔剣士ニコ。」
「え……特定……?」
「お嬢ちゃん!こいつから離れて俺たちに来いよ〜!こいつは……魔王の末裔で10億ゴールドの賞金がかかってるんだ!」
私は、頭の中がフリーズする。
え、ニコが魔王の末裔……?
でも、魔剣は不気味に蠢いてるし、ニコ雷の閃光は紫がかっていて確かに不気味さはあった。
「ニコ、ホントなの?」
「………………。」
ニコは俯いていた。
まるで攻撃されること自体が悲しくてしょうがないように、長いまつ毛を瞬きさせていた。
「なーに、お嬢ちゃんも降伏すれば助けてやる!へっへっへっ!」
男は舐めるような目でこちらを見ていた。
これは……嘘をついてる目だ。
利用するだけ利用して、手柄を自分のものにする部長と同じ目をしていた。
「……いい、僕は追われる身だ。君が狙われるよりかは遥かにマシだ。」
ニコは……覚悟を決めるように、でも少し寂しそうにこちらを見ていた。
まるで冷たいように見えたけど私の身を案じるその姿に少しだけ悩む。
でも、私の声は1つだった。
「お断りよ!私はニコといるわ!!」
「……は?」
笑顔の男が満面の笑みで首を傾げる。
目だけ笑ってなくて、その表情にはゾッとさえしてしまった。
「……やめた方がいい、君も狙われることになるぞ!」
「そんなの!知ったことですか!あっかんべー!」
すると、男は目を血走らせて怒りを露わにする。
「てめぇ!!黙ってれば奴隷程度で済んだものを!!」
すると、男は手で全員に合図をして構えた。
「やっちまえテメェら!」
「ヒャッハー!」
凄い……治安のクソもない世紀末だった。
そして、彼らはまるでゾウに踏み潰されるアリのごとく一瞬でニコに消し炭にされてしまった。
「……は?」
リーダーの男は目の前のことに理解できず、焦ってしまった。
「ま……まて!わかった!今回は見逃してやる!この女の身も担保するから!たすけ」
すると、ニコは男を袈裟斬りにして、男からは内臓が散らばり草原は1箇所だけ血に染まる。
そして、ニコの雷で消し炭になり無に帰してしまった。
「…………どうして、僕を信じた。あの男の言うことは……本当だったんだぞ!」
ニコは珍しく私に怒鳴りつけた、殺意は無い……仮初の叱責だ。
本人も怒り慣れてない感じが妙に可愛かった。
「いいじゃん、私は世の中の事とか知らないけど……信じたい人を信じた、そんだけ!」
そう言ってニコは少しだけ呆然とすると、少しだけクスリと初めて笑顔をニコッと見せた気がした。(ニコだけに)
「……ナナミは、面白いね。きっと、まだ後悔するよ。」
そういって、私たちはキャンプ地を後にする。
初めて会った時は歩くスピードは全然会わなかったけど、少しだけニコはゆっくりと歩いてくれるようになった。
この男の正体はまだ、ハッキリとは分からないけどまだもう少しだけ信じようと、前に前にとゆっくり進んだ。
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