第七章:容姿の自覚と努力

月曜日の朝、ミクは鏡の前でじっくりと自分を見つめた。


38歳。


肌には少しずつ年齢の跡が刻まれ始めている。


目元の小じわ、たるみ始めた頬。特別醜いわけではないが、かといって美しいとも言い難い。


客観的に「中の下」――そう評価されても反論できない。


「…よし」


ため息ではなく、決意の吐息だ。


ミクは化粧水を手に取り、丁寧に肌になじませる。


美容液、乳液、日焼け止め。


基礎化粧のステップは一日も欠かさない。


次にメイク。


ナチュラルだが、ポイントを押さえた仕上がりを目指す。


アイラインは細めに、リップは控えめなピンク。頬にはほんのりとチークを。


「男受けするメイク」とは、派手さではなく「清潔感」と「親しみやすさ」のバランスだ。


ミクは何年もかけて、自分の顔に合ったメイク法を研究してきた。


服装も同様だ。


総務部に配属されているという立場を考え、シックなワンピースにカーディガン。


だが、アクセントとして首元に細いネックレスを一つ。足元はパンプスだが、つま先が少し見えるデザインを選ぶ。


「隙」の見せ方――これがミクの最大の武器だ。


完全無欠な女性は近づきにくい。


かといってだらしないのも魅力がない。


ではどうするか? あえて小さな「隙」を見せることで、親しみやすさと可愛らしさを演出する。


例えば、書類を運んでいるときにわざと少しよろめくふりをする。


その瞬間、近くにいた男性が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。


あるいは、難しい書類を見ながら首をかしげ、困った表情を一瞬見せる。


それを見た年下の同僚が「ミクさん、わからないところありますか?」と寄ってくる。


全ては計算だ。


だが、その計算が自然に見えるように努力する。


そして自分自身が無理なく疲れないよう、自然におこなえてる。


何年もかけて磨いた技術が、今のミクを作っている。


「…今日も一日、頑張ろう」


鏡の中の自分に微笑みかけ、ミクは家を出た。



(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る