第六章:SNSの奥の顔

土曜の朝、ミクは自宅でコーヒーを淹れながら、スマホを開いた。


『年下男子好きな38歳、日々是冒険』


このアカウントは、彼女のもう一つの顔だ。


実名も顔写真もない、完全匿名のアカウント。


ここでは、等身大の自分をさらけ出している。


《今日の気づき:年下男子と話すとき、彼らの目がキラキラしている瞬間が好き。社会人としての自分を見失いそうになるけど、その新鮮さがたまらない》


投稿から1時間も経たないうちに、数十の「いいね」とコメントが集まっていた。


《同感です! 私も35歳で年下好きに目覚めました》


《学生時代とは違う、大人の女性としての自分を再発見できる感じですよね》


《ミクさんみたいに上手くいかなくて…どうやって距離感をとってますか?》


フォロワーは学生から会社員、主婦(おいおい!)まで様々。


共通しているのは、皆がどこかで「普通」の恋愛観から外れている自覚があることだ。


結婚適齢期を過ぎても未婚、既婚ながらも年下にときめく、あるいはミクのように複数の相手と自由に付き合う――それぞれの事情を抱えながら、このコミュニティで安心できる場所を見つけている。


ミクはコメントに丁寧に返信する。


だが、一つだけ守っているルールがある。


それは、自分と同じように「不特定多数と交友関係を持つこと」を決して勧めないことだ。


それは自分の価値観がニッチなことだと自覚しているからだ。


《ご相談ありがとうございます。でも、私のスタイルが正解とは限りません。一番大切なのは、ご自身が後悔しない選択だと思います》


彼女自身は「純愛」を信じていないわけではない。


ただ、自分の生き方を選んだだけ。


他人にそれを押し付けるつもりは毛頭ない。


アカウントを始めて1年。


当初はただの独り言だったが、今では小さなコミュニティが形成され、フォロワー同士で盛り上がる場にもなっている。


時には恋愛相談を受け、時には励まし合う。


匿名だからこそ、言える真実がある。


「…ふう、また一つ成長したかな」


ミクは微笑みながら、新しい投稿を考え始めた。


(続く)

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