センス

すずめ屋文庫

センス

鉛筆の行方が気になる。


次はどこへ行くのか…。



その日は、子供の幼稚園の発表会当日だった。私とママ友のAさんは、園庭のフィールドの横に並び、我が子の可愛い活躍や成長を温かい目で見守っていた。


その時である。


ふいに背の高い、かなり目立つ雰囲気の男性が現れた。どうやら同じクラスの保護者らしく、近くにいた奥さんを見つけて近寄っていった。


ここまではまだいい。どこにでもいる夫婦だ。私もAさんも、そこまでは気には留めなかった。


では、何が問題か。


彼の片方の耳に、斜めに鉛筆が挟まっていたのである。


最初にそれを見つけたのは私だった。「耳に鉛筆挟む人、久しぶりに見たわ〜。」私はそうAさんにこっそり言った。Aさんは、それを目視し、少しだけにやっと笑い、こらえ、「たぶん、大工さんか工事関係のお仕事をされてて、この発表会の後にお仕事に行くんじゃないかしら。」と言った。


なるほど、確かに彼は、がしっとした体格で、無駄な贅肉がないように思われた。棟梁と言われても納得できる様な風貌だった。そして、凛々しく、背筋も伸び、普通の会社員には到底見えなかった。

しかしながら、彼の服装は、この後仕事に行くような格好ではなかった。


では、なぜ鉛筆を…。


目は我が子を追っているのに、頭は鉛筆から離れない。それはAさんも同じだったらしく、時々、角度するどい鉛筆が彼の耳から地面に落ちやしないかと、2人で心配したりした。


発表会も中盤になり、子供達全員での可愛いダンスに目を奪われている間、再び、ちらりと鉛筆に目をやった。そして、私は心の中で「あっ」と思った。


消えてる…。


急いでAさんに鉛筆が消えた事を伝える。Aさんも非常に驚いていた。

では、あの鉛筆はどこへ行ったのか。


我が子と鉛筆の両方の行方…。


見なければいけないものが多く、しかも片方は相手にバレないように盗み見る、という高度な目の動きをしなければならない。私とAさんは忙しかった。


「あっ」


今度は思わず声が出た。


鉛筆を見つけたのである。

それは、彼の胸ポケットに移動していた。


安堵と共に、笑いが私とAさんの中で沸き起こる。しかし、バレてはいけない。私達は今、非常に失礼な事をしているのだから。彼の鉛筆の行方を追う、という…。


その後、鉛筆は右へ左へ、大忙しだった。ある時は右耳、ある時は左耳、時折念入りに角度を変えられベストポジションに収まったかと思いきや、最終的にズボンのポケットに入った。


肩を震わせる私達。

一体私達は何をしに幼稚園へ来たのだろうか。

心は完全に鉛筆に奪われていた。


そして発表会は最後の演目になった。

気を取り直して、カメラを我が子に向け、私とAさんは真面目な顔に戻る。


数カ月前までの我が子と比べ、こんなにも子供というものは成長するものか…と普遍的な感動を覚えていた時、はたまた事件が起こった。


今度こそ、アレが完全に消えたのである。


今まで移動したどこにも見当たらない。両耳、胸ポケット、ズボンの後ろ…。


一体どこに…。


最後に見つけたのはAさんだった。


「彼の手の中を見て。」


急いで彼の指先を追う。



撫でていた。優しく。愛おしく…。



Aさんはそっと呟いた。


「もしかして…宝物なのかしら…。」


私の腹筋は崩壊した。

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