第2話 王族会議という名の公開解体
王族会議は、通常であれば儀礼的なものだ。
形式を確認し、問題がなければ拍手で終わる。
だがこの日の空気は、最初から違っていた。
長卓を囲む重鎮たちの視線は、ただ一人。
王太子アーヴィンに突き刺さっている。
彼は落ち着かない様子で椅子に座り、何度も喉を鳴らしていた。
扉が閉まる音に肩が跳ね、誰かが咳をするたびに視線が泳ぐ。
国王は、疲れた声で切り出した。
「はぁ…昨夜の件について、説明してもらおうか」
王太子は立ち上がり、勢いよく口を開いた。
「ぼ、暴力です!王太子に向けて、得体の知れない武器を使った!」
言葉は強い。
だが声が裏返っている。
「彼女は危険だ!感情を制御できていない!」
その瞬間、ウルスラが静かに立ち上がった。
「陛下。発言の前に、確認を」
彼女は一礼し、机の上に書類を置く。
それは重ねられた紙の束。
それだけで、王太子はびくりとした。
「これは、昨夜の出来事を時系列で整理したものです」
淡々と、事実だけを並べる声。
「王太子殿下は、初夜において『真に愛する者がいる』『既成事実が必要だ』…などと発言されました」
宰相が頷く。
「侍女と護衛、双方の証言とも一致しています」
「続けます」
ウルスラは一切感情を込めない。
「私は、接触を拒否しました。その後、王太子殿下は私の腕に手を伸ばしました」
「嘘だ!」
王太子が叫ぶ。
だが、すぐに宰相が遮った。
「殿下。伸ばしていない、という証言は一つもありません」
会議室が、静まり返る。
ウルスラは間髪入れない。
「そこで私は、威嚇射撃を行いました」
「威嚇だと!?人に向けて撃つことが」
「頬をかすめただけです」
ウルスラは王太子の言葉を遮る。
「致命部位ではありません。角度、距離、反動、すべて計算済みです」
軍務卿が低く唸る。
「……確かに、殺意は感じられない」
王太子は、顔を真っ赤にした。
「だが!僕は被害者だ!王太子だぞ!」
その瞬間、宰相が口を開いた。
「殿下。地位は、免罪符ではありません」
冷たい声。
「拒否された接触の強要は、犯罪未遂に該当します」
王太子の喉から、かすれた音が漏れた。
「……は?」
国王が、重く息を吐く。
「アーヴィン。なぜお前は、自分が悪くない前提で話している?」
その問いに、答えはなかった。
誰もが声を上げない。
王太子は、初めて泣いた。
誰一人として王太子を庇わなかったからだ。
真の愛は「気になる程度」だった。
男爵令嬢リリア・フォールが会議室に入った瞬間、王太子の顔が明るくなった。
「リリア!君だけは分かってくれるだろう!」
だが、彼女の足取りは重かった。
視線は伏せられ、指先は小刻みに震えている。
ウルスラは、彼女を見て一つだけ確信した。
…この子は、加害者ではない。
国王が静かに問いかける。
「リリア嬢。あなたの魔法について、説明してほしい」
彼女は、唇を噛みしめてから答えた。
「……魅了、です」
会議室がざわつく。
王太子が、勝ち誇ったように言った。
「ほら見ろ!彼女の魔法に操られていたんだ!」
だが、次の言葉がすべてを壊した。
「ただし……とても弱いものです」
リリアの声は、小さい。
「なんとなく気になる、話してみたい気がする。それくらいで……」
宰相が、即座に確認する。
「意思を奪う?」
「ありません」
「逆らえなくする?」
「ありません……」
沈黙。
つまり。
王太子は――
自分で惚れて、
自分で盛り上がり、
自分で運命と名付けただけだった。
「フォール男爵令嬢」
ウルスラが、初めてリリアに向き直る。
「あなたは、王太子妃になりたいと望みましたか?」
リリアは、首を振った。
「……怖かったです」
その一言が、致命打だった。
王太子の口が、開いたまま閉じない。
「僕は……愛していた……!」
リリアは、涙を浮かべながら答えた。
「正妻を押し倒してでも既成事実を作れ、なんて…そう言う方を、愛しているとは思えません」
会議室が、完全に凍った。
国王は、ゆっくりと宣告する。
「真の愛、か……それは恋ではない。責任を伴わない、自己陶酔だ」
王太子は、椅子に崩れ落ちた。
この日を境に、彼の口からの…真の愛という言葉は、嘲笑の対象になった。
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