明けないクリスマスツリー

水定ゆう

第1話

「遅いな、拓未たくみ


 私、柊結那ひいらぎゆなは、待ち合わせ場所でずっと待っていた。

 ここは駅前にある、もみの木の下。

 つい一ヶ月前にはクリスマスツリーとして色鮮やかに飾り付けを施されていたものだよ。


「もうこんな時間だよ」


 私は拓未を誘ったんだ。

 何って、その、えっと……恥ずかしくて言えない。

 一人モジモジしてしまうと、顔が真っ赤に赤面していた。


「うーん」


 チラチラ周りを見回した。

 男の人や女の人が一緒に楽しそうにしている。

 同年代の男の子や女の子も一緒だ。

 あれだよね、デートってことだよね。


「みんな、凄いな」


 大胆だなって思っちゃった。

 あれが出来たら、今頃私はこんなことで悩んでないんだ。

 でも、私にはどうして無理なんだよ。


「私は勇気が出ないよ」


 勇気が湧いて来ない。

 あんな大胆に人前で手を繋ぐなんて、私は恥ずかしい。本当は手を繋ぎたい、でも恥ずかしくて出来ないんだ。お姫様抱っこはされたのに……情けない。


「ううん、ダメ。羨ましがってちゃダメだよ!」


 でもこんなことで羨ましがってたらダメだよ。

 だって、それだといつまで経っても進展しない。

 私は、私は絶対にやってみせるよ。


「私も拓未君に、うーっ」


 顔が真っ赤になっちゃった。

 どうしよう、この調子で拓未に会ったら、もっと顔が赤くなる。


 拓未とは小さい頃から一緒。

 家が隣同士で所謂幼馴染って奴。

 何だろう、気が付いたらいつも一緒で、それでこの間までは何てことなかった。


 でも最近になって気が付いたんだ。

 私は拓未のことが好きなんだって。

 それからかな? 拓未のことを変に避けちゃってた。


 もちろん恥ずかしいから。顔を直視出来ないから。

 でもそんなことをしてたら、友達から心配されちゃって。本当のことを伝えたら、この場所のことを教えてくれたんだ。


「このもみの木で手を繋いだ人は、想いが通じ合う」


 この街には不思議な噂があった。

 その一つが、駅前のもみの木の下で手を繋いだ男女は、想いが通じ合うって話。


「そんなことあるのかな?」


 そんなことが本当にあるのかな?

 ただ手を繋いだだけで、叶うのかな?

 なんとか効果みたいな話。分からないけど、そうかも。


「だって、ただのもみの木だよ? なんの不思議も、魔法も掛けられていないのに」


 このもみの木には魔法が掛けられていない。

 ただのもみの木で、別に不思議なところは無いよ。


 私、こう見えても魔法のことは少しだけ分かるの。

 でもこのもみの木からは、魔力を感じられない。

 何か不思議なパワーがある訳でもないのに、本当に想いが通じ合えるのかな?


「はぁ」


 溜息を付いちゃった。

 やっぱりダメだよね、もう無理なのかも。

 諦めそうになると、それを余計に助長させる白い粒が空から舞い下りた。


「あっ、雪」


 パラパラと雪が降り始めた。

 小さな雪の粒で、粉雪みたい。

 綺麗だな、って思うけど息が白くなる。


「寒くなって来たよね」


 さっきよりも一段と寒くなって来た。

 私は着ていたダウンコートをギュッと寄せる。

 真っ赤なマフラーも更に巻き直す。


「やっぱり、来てくれないよね」


 あれから三十分が経った。

 だけど拓未は一向に姿を現さない。

 やっぱり来てくれないのかも。


「そうだよ。だって、ずっと私が避けてたから」


 これは私への罰なんだ。

 だって、いつも通りカッコよく接してくれていた拓未。そんな拓未のことを、私は意図的に避けていたんだ。


「あれは緊張していたからで……言い訳だよね」


 結局は言い訳なんだよね。

 私は拓未のことが好きになった。好きになったから顔を合わせられないなんておかしいよね。

 でも緊張していたんだ。緊張していたから……ううっ、情けない。


「こんなことなら、好きにならなかったらよかったのかな?」


 私が拓未のことを好きにならなかったら、こんなことにならなかったのかも。

 そう思ってしまうと、心がスッと軽くなる。

 如何して? もしかして私、拓未のことが好きじゃなかったのかな?


「はぁ、もういいよ。帰ろ……痛っ!」


 諦めて帰ることにした。

 きっと来てくれない。だって私が避けていたから。

 そう思うと納得出来ると、一歩踏み出す。


「えっ?」


 寂しい手を棒に振った。

 するとゴツン! と体がぶつかる。

 なににもぶつからないのに、何故となる。


「あれ、なにこれ、壁?」


 何故か私の目の前には見えない壁。

 行手を阻むと、もみの木の下から出られない。

 あれ、おかしい。さっきまで変なことはなかったのに、不思議な魔力が溢れていた。


「でも外は普通で、なんで壁?」


 ドンドンと叩いてみた。

 何だか透明な何かがある。

 これが壁だとして、景色は普通にある。


「もしかして私、閉じ込められた?」


 如何してこんなに冷静なのかな。

 それは私が少しだけ魔法について知っているから。

 これはあれだ。結界って奴だ。私は何故かもみの木に張られた結界から出られなくなっちゃった。

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2026年1月17日 13:12

明けないクリスマスツリー 水定ゆう @mizusadayou

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