第8話

「ゴリアテ3」



 ――面接は、終わった。


 そう思った直後、俺は気づいた。

 違う。まだだ。


 評価は終わっていない。

 撃ち合いが終わったからといって、試験が終わるとは限らない。

 むしろ――ここからが本番だ。


 “理解できているか”。

 その一点を、最後に見られている。


 森は、静かだった。

 都市部のように、崩壊音も、燃焼音もない。

 ただ、風が葉を擦り、遠くで鳥が逃げる気配がするだけだ。


 だが、その静けさは自然のものじゃない。

 意図的に作られた、空白だ。


 ゴリアテは、確かに厄介な兵器だ。

 小型。低シルエット。

 塗装は苔や湿った土の色に溶け込み、輪郭を目で追うことすら難しい。


 だが――万能じゃない。


 履帯装備とはいえ、その走破能力は高くない。

 舗装路や固い地面なら問題ないが、

 この森じゃ話が変わる。


 一定以上の太さの丸太。

 複雑に絡み合った木の根。

 ぬかるみと倒木が重なった場所。


 ――越えられない。


「……そうだろ」


 俺は、わざと足場の悪い場所を選んで進む。

 WFの脚部が根を踏み、土を噛み、わずかに姿勢を揺らす。


 ゴリアテは小さい。

 だから森に溶け込める。

 だが、小さいがゆえに、越えられない障害もはっきりしている。


 あいつらは、俺を追い立てているようで、

 実際には――“道を選ばせている”。


 ジャミングによる撹乱。

 断続的に走るノイズ。

 距離感を狂わせ、位置を誤認させる。


 機体の小ささ。

 巧妙に塗装され、地形と一体化した外観。


 視認しづらい。

 意図的に、見つけにくく作られている。


 だが――


「結局、頼ってるのはカメラだ」


 メインカメラ。

 光学と赤外線の複合。

 音響センサーもあるが、補助程度。


 つまり、**“見る兵器”**だ。


 地形を記憶しない。

 踏みしめた感触を覚えない。

 人間みたいに、「嫌な場所」を勘で避けない。


 ……いや。


 俺は、そこで一瞬、考えを止めた。


「……違うな」


 動きが、妙に人間臭い。


 倒木を前にした時の、わずかな停止。

 左右に首を振るような、逡巡。

 回り込むルートを探す、その遠回りな探し方。


 ――考えてる。


 全てがAI制御という訳じゃなさそうだ。

 もっと、昔ながらのやり方。


「リモコン操作……か」


 判断の遅れ。

 決断した後の、ほんの僅かな強引さ。


 どれも、

 人が操作している時の癖だ。


 そして――


 俺と、このWFと、

 ゴリアテのメインカメラが、正面で合った、その瞬間。


 機体が、微かに揺れた。


 撃てる距離。

 撃ってもおかしくない角度。


 それでも、撃たなかった。


 その代わりに、

 ほんの僅か、動きが乱れた。


「……戸惑ったな」


 まるで、

 “想定していなかったものを見た”みたいに。


 操作している人間の緊張。

 躊躇。

 判断が遅れる、あの感じ。


 それが、機体越しに、

 はっきり伝わってきた。


 撃たない理由は、ここにもある。

 爆発させれば、視界が失われる。

 証拠が残る。

 舞台が壊れる。


 だがそれ以上に――


 中に人がいる。


 いや、正確には、

 遠くで、これを“見ている”人間がいる。


 だから、撃てない。


「……なるほどな」


 評価は、機体だけじゃない。

 操作する人間も含めての“面接”だ。


 俺は、進路を選んだ。


 太い丸太が斜めに倒れ、

 その下に根が露出している場所。


 WFなら越えられる。

 だが、ゴリアテは迂回せざるを得ない。


 実際、ノイズが一瞬、乱れた。


「……回ったな」


 遠回りした。

 それだけで、配置が崩れる。


 ゴリアテは連携している。

 だが、視界を共有するには、

 わずかなタイムラグがある。


 森では、その“わずか”が致命的になる。


 俺は、あえて動きを止めた。


 丸太の影。

 カメラの死角。


 ゴリアテは、止まったまま動かない。


 ――見えていない。


「小さいくせに、慎重すぎる」


 それは、機体の性格じゃない。

 操作している人間の性格だ。


 人間が操縦している以上、

 見えないものには、手を出さない。


 それは、弱点だ。


 俺は、森を見渡す。


「……つまり」


 静かに、だが確信を持って言葉を落とす。


「ここは、あんたらの得意分野じゃない」


 ゴリアテのノイズが、さらに薄くなった。


 評価が、また一段変わった。

 ――理解した。


 そう言われている気がした。


 ゴリアテは優秀だ。

 だが、あくまで“人を狩るための道具”だ。


 地形を使い、

 感情を読み、

 判断を揺らす。


 だが逆に言えば、

 判断を捨てる人間には、通用しにくい。


 俺は、歩みを進める。


 丸太を越え、

 根を踏み、

 あえて足場の悪い場所へ。


 ゴリアテは、ついてこない。


 いや――

 ついてこれない。


 森は、再び静かになった。

 視線は、もうない。


 それでも、俺は理解している。


 あいつらは、また来る。

 より洗練された形で。

 より、人間を隠した形で。


 だからこそ――


「次は、もっと厄介だな」


 独り言が、森に溶ける。


 俺は、歩き続けた。


 疑問を抱いたまま。

 人間でいるまま。


 それが、

 この面接で、俺が出した答えだった。

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二足歩行型兵器――《WAR FRAME(ウォーフレーム)》 Q&F てきてき@tekiteki @tekiteki_daihon

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