第9話 破壊神顕現
かつて平和を謳歌したマライカの海岸線は、いまや帝国が吐き出した重油の黒煙と、シュテルツァーが踏み荒らした砂塵により、鉛色の闇に閉ざされていた。
帝国軍
第8特務師団(ヘルハウンド師団)及び第210重装機動歩兵団(ティターン師団)
総兵力
シュテルツァー250機
V-09 "Groz-Kvar" (グロズ・クヴァル/狙撃特化型)
V-12 "Zul-Duga" (ズル・ドゥガ/重武装近接型)
V-05 "Raz-Vey" (ラズ・ヴェイ/軽装格闘型)
V-22 "Mort-Kaba" (モルト・カバ/自走砲撃型八脚)
V-18 "Skad-Viz" (スカド・ヴィズ/誘導ミサイル特化型)
V-10 "Vulk-Aks" (ヴルク・アクス/汎用ライフル・ソード装備)
V-14 "Brak-Shel" (ブラク・シェル/散弾銃・大盾装備)
V-11X "Gor-Bane" (ゴル・ベイン/双腕パイルバンカー型)
V-08 "Gat-Riz" (ガト・リズ/重機関銃装備型三脚)
V-SP01 "Gaja"(ガジャ/特務エリート専用機四脚)
V-15 "Gran-Bak" (グラン・バク/榴弾砲装備型四脚)
大東亜経済広域圏
第12救援混成師団(八百万の盾)
総兵力
シュテルツァー120機
戦車50台
装甲車85台
混成歩兵団36000人
Type-74改「叢雲」(ムラクモ/盾・ライフル装備)
Type-79「不知火」(シラヌイ/対物狙撃特化)
Type-81「雷電」(ライデン/重機関銃装備)
Type-61「足軽」(アシガル/単発長射程銃)
Type-80「火龍」(カリュウ/擲弾砲装備)
Type-75「金剛」(コンゴウ/近接砕棒装備)
第一艦隊の揚陸艇が接岸し、バウ・ハッチが荒々しく叩きつけられた瞬間、波打ち際は鉄と血が混じる地獄へと変貌した。
「敵影、二百四十超え! 伏撃だ! 囲まれているッ!」
ヤマトの主力シュテルツァー「叢雲」が、上陸と同時に帝国軍の集中砲火を浴び、次々と火柱を立てる。
救援に来たはずの百二十機は、砂浜を数メートル進む間にその数を半分にまで減らしていった。
歩兵や戦車などは、シュテルツァーの前では玩具にすらならなかった。
その絶望の極致で、帝国の陣営から一筋の「漆黒」が爆発的な加速で飛び出した。
「……ミナ。今、すべてを終わらせる」
漆黒の試作機『Y-S01w アスラ』のコクピット。
カイの瞳からは生気が消え、代わりに底知れぬ計算機の輝きが宿っていた。
マンガニスリアクターの同調率は臨界を突破。
計器の針一本の振れさえもが、自分の血管を流れる拍動として伝わってくる。
カイはまず、自らの指揮下にあった帝国軍重装甲中隊の背後へローラー走行で回り込んだ。
帝国兵たちが「味方のエース少佐」の接近に安堵したその瞬間、アスラの右腕、大質量パイルバンカーが獣のように唸りを上げた。
ドォォォォォンッ!!
新型パイルバンカーが、指揮官機「ズル・ドゥガ」のマンガニス反応炉を背後から一撃で貫通。爆発の衝撃波を背に受けながら、カイは収容所本部へとアスラを突き走らせた。
「なっ、少佐!? 貴様、乱心したか……ッ!」 「裏切りだ! 少佐が寝返ったぞ!!」
「裏切りじゃない。……最初から、あんたたちの仲間になった覚えなんて、一度もないッ!」
アスラが跳躍する。
空中で機体をひねりながら、左腕の144mmライフルを三連射。
収容所の監視塔と通信アンテナを、狙撃ですらない「通りすがりの一撃」で正確に粉砕した。
わずか三十秒。
収容所の支配構造を完全に無力化したカイの前に、一機の真紅の重装甲シュテルツァーが地響きを立てて降り立った。
帝国技術技研特務機V-SS00 "Ignis-Rex"
(イグニス・レクス/緋色の王)
「やはり、飼い犬にはなりきれなかったか。イサギ・カイ少佐」
外部スピーカーから響くのは、あの粘つくような、しかし愉悦に満ちたヴォルフ・アシュラフ大佐の声。
「だが残念だよ。その『神の機動』を、我が帝国の新型機で披露してくれるのが、私への反逆であるとはな!」
大佐機「イグニス・レクス」の両腕ガトリングが火を噴く。
弾幕がアスラの装甲を削るが、カイは一歩も退かない。
ローラー走行のピッチをミリ秒単位で調整し、弾丸の軌道を「予読み」して、弾雨の隙間をすり抜け肉薄する。
「大佐……あんただけは、この手で殺すと決めていた!」
アスラの脚部ブースターが絶叫を上げ、機体の輪郭が霧に溶けた。
「速……ッ!?」
大佐が反応するより先に、カイは敵の死角、真下から突き上げた。
ライフルの銃身で大佐機の腕を強引に撥ね上げ、無防備になった胸部装甲へ、パイルバンカーを突き立てる。
「これは、ミナの足の分だッ!!」
ガシュゥゥゥンッ!!
至近距離での炸薬炸裂。
超硬質の杭が「イグニス・レクス」のコクピットを、アシュラフの傲慢な魂ごと貫き、機体背面へと突き抜けた。
爆圧と鉄の軋む音が、大佐の断末魔を赤黒い液体ごと吹き飛ばした。
爆炎の中から、漆黒の破壊神が再び戦場へと躍り出る。
復讐を果たしたカイの指先は、今や純粋な「守護」の力へと変貌していた。
海岸線では、大東亜経済広域圏軍が全滅の危機に瀕していた。
そこに、後方から迫るアスラの猛威が襲いかかる。
大佐機「イグニス・レクス」の残骸から杭を抜き放った瞬間、アスラの機体各所の排熱スリットが限界まで開放された。
強制冷却用の冷媒ガスが真っ白な蒸気となって噴出し、漆黒の機体は霧の中に溶ける。
「……残り、二百十七」
カイの意識は、アスラの「神経」と完全に融解する感覚に浸っていた。
背面のマンガニス・ブースターが重低音の唸りを上げ、脚部の独立駆動系が火花を散らす。
押し寄せようとした帝国軍の「ズル・ドゥガ(重武装型)」中隊の直前で、アスラが「爆発」した。
3機の帝国軍の機体がカイ機を捕捉した刹那の出来事であった。
地面を抉り、衝撃波で周囲の粉塵を吹き飛ばしながら、漆黒の巨体が垂直に跳ね上がる。
15mが限界の戦場で、アスラは20m、50m、100mと、物理法則をあざ笑うかのように加速を続け、数秒もかからずに雲の底、高度210mへ到達した。
下方の敵機からは、もはやアスラは視認できない。
「消えた……!? どこだ、どこにいる!」
「あり得ない!消えたのか!!」
カイは空中で機体を反転させ、重力加速度を味方に付けた「死の急降下」を開始する。
落下中、肩部のミサイルパッドから4発の有線ミサイルが射出される。
通常なら直進するはずの弾道が、カイの指先の微細な入力により、独立した意志を持つ蛇のようにのたうつ。
ミサイルから伸びる極細のワイヤーが朝日に煌めいた。
戸惑い、未だカイを見失っている帝国機「スカド・ヴィズ(ミサイル特化型)」4機の背後に回り込み、燃料タンクを精密に射抜いた。
着弾を確認する前に、カイは爆砕ボルトを起爆。
空になったパッドをパージし、機体重量を数トン分軽量化させる。
地上30m。
アスラが脚部スラスターを逆噴射させ、落下のエネルギーをすべて右腕のパイルバンカーへと転換する。
狙うは、防壁を築いていた「ブラク・シェル(大盾装備)」の密集陣地だ。
「貫け……ッ!!」
ドォォォォォォンッ!!
炸裂音が海岸線の空気を震わせ、真空状態すら生み出す。
通常兵装パイルバンカーの1.8倍の炸薬によって撃ち出された超硬質の楔は、敵の重装甲盾を紙細工のように貫通。
衝撃波は盾の裏側にいたパイロットを圧死させ、機体構造を内側から爆散させた。
アスラの右腕には、発射の反動を逃がすための高圧蒸気がスリットから噴き出し、ボルトが悲鳴を上げながらも「神の指先」がその反動を逆スイングで相殺する。
「次!」
着地の衝撃をローラー走行の超高速移動へ変換。
左腕の144mmライフルが、2秒間に1射の脅威の発射間隔が猛威を振るう。
このライフルの「重心バランスの悪さ」は、カイにとっては「反動を利用した次弾への旋回加速」に変換される。
狙撃ではない。
それは「敵への線」を引く作業だった。
「ラズ・ヴェイ(格闘型)」のコクピットが、次々と柘榴のように弾け飛ぶ。
カイの視線が捉えた熱源反応は、コンマ数秒後には鉄の残骸へと変わっていた。
パイルバンカーの薬室が自動で排莢され、熱を帯びた巨大な空薬莢が砂浜に転がる。
カコンッ、ガシャン!
と次弾が装填される重厚な装填音。
その音の数だけ、帝国軍の誇る「鋼鉄の猟犬」だった者たちは、首をへし折られ捨てられた犬のぬいぐるみのように転がっていった。
237機を撃破するのに、一時間もかからなかった。
パイルバンカーの杭は赤熱し、ライフルの銃身は熱で歪みかけていたが、アスラはその「渇き」を満たすように、最後の一機のコクピットをパイルバンカーで突き破った。
ドゴオォォォォォン
最後の轟音が轟く。
朝日が粉塵のカーテンを割り、赤く染まった砂浜を照らし出した時。
そこには、二百五十機の帝国軍の残骸が、文字通り「粉砕」された状態で転がっていた。
パイルバンカーによる攻撃は、内部から圧倒的な力での破壊をもたらしていたのだ。
静寂。
波の音と、過熱したアスラの空液冷ハイブリッドファンが激しく回るキーンという高周波音だけが響く。
大東亜経済広域圏、第12救援混成師団の生き残り達はあまりの光景に硬直していた。
自分たちが救出に来たはずの戦場は、自分達を遥かに凌駕する強敵であり、「自分達の処刑場」ですらあったのだ。
しかし、一機の「破壊神」によって覆されてしまったのだから。
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