第4話 2027年
あれから二年の月日が経ち、今僕は施設にいる。
巷では高校生と呼ばれる年齢になった。身寄りがなく、また半世紀近い時事問題を何も知らない僕は、晴れて保護対象となったのだ。
この時代に降り立った時、皆が所持していて驚いたスマホだが、僕はまだ持っていない。この施設は必要最低限度の生活が保障されているだけで、僕はスマホのひとつも契約できないのだ。どこへいっても、世界は我慢の連続だと知る。
今ではスッカリこの時代の便利家電や電子機器を使い、身の回りのひと通りの準備を熟せるようになった僕だ。
人間の順応性の高さに驚きつつも、大学受験に向けた資格取得の勉強をしている。
折角なら医学部を目指したいと思うのは、父への当てつけか。
今更やる気を起こしたところで、結果を見届ける父は、この世界のどこにもいないのに。褒められたいのかな、見返したいのかな。
両親の消息を調べるため、記憶にある菩提寺を訪れたが、別家の墓が建っていた。話しを聞くべく住職を探し、何度も足を運んだが、遂には会えず終い。
この時代には存在しないはずの僕だから、他者との関わり合いについても、見えない力で制限されているのかもしれない。
戦後のベビーラッシュに沸くあの時代に珍しく、僕はひとりっ子だったから、親戚も遠方だった両親には僕以外、墓の守り手がいなかった。
そんな僕までいなくなり、墓じまいをしたのだろう。
今なら解る。ひとりっ子だからこそ、僕は期待を一身に背負ったのだ。
兄弟姉妹がいれば分散されたかもしれない親の愛情を、僕は独り占めしていた。
とても幸せなことだったのに、今更気づいた遅すぎる僕は、最悪の親不幸者だ。
かつて自宅のあった場所は、周辺一帯タワマンが聳え、父の病院があった場所も今や、大型ホームセンターに変わっている。
休日は多くの買い物客で賑わう、地域住民の拠り所だ。
ネット検索を僕は幾度も繰り返したが、知りたい内容は半世紀も前のこと。
つまり何も判らなかった。
『あらいたの、おかえり』
今となっては懐かしい、母の「おかえり」の声が蘇る。
僕がどれだけ失敗しても、腐ってヤル気を失っても、母は僕の味方だった。
いつも寄り添い、励ましてくれた。
エアコンから排出される人工的な送風が、優しく僕の髪を撫でる。
窓から差し込む西日が眩しくて、僕は目を細め立ち上がる。
レースのカーテンを閉めた。
予定調和のこの世界において、僕の存在だけが異質だ。
この世界に相応しくない僕は、やがてこの世界に弾かれるだろう。
その時、僕は消えてしまう!
今頃になって母の温もり……僕の背中を何度も摩ってくれた、母の掌の暖かさをまざまざと思い出すなんて。嫌だ、消えたくない、生きていたい。
僕はもう一度、タイムマシンを作りたいと思っている。
消えるが先か、完成させられるのかは分からない。
偶然の産物だったのかもしれないけど、諦めない。
家に帰る、玄関に立つ、母がひょっこり顔を出す。
ただいまって僕が言う、おかえりって母が言う。
そんな未来(過去)を願って、今日もひとり呟くんだ。
「ただいま、母さん」って。
ただいま 母さん 深夜(みや) @miya_nyx
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