変身しまくる魔王と勇者と姫と

にゃべ♪

ラストバトル

 突然の魔族の侵攻に対抗して王の命を受けた勇者パーティーは、長い冒険の末についに魔王城に到達。ラストバトルに突入した。最後の戦いに勇者達も切り札を惜しみなく投入して、玉座に座った魔王を追い詰める。

 絶妙なタイミングで勇者の必殺剣技が炸裂し、魔王は倒れた。ついに長い戦いに決着がつくと思われたその時――。


「ふふふ、これで勝ったと思ったか?」


 なんと、魔王はまだ死んではいなかったのだ。復活した魔族の王はゆっくりと起き上がると、その姿を変容させる。サキュバスのようなセクシーおねいさんから、ガチムチムキムキおねいさん、いや、姐さんの姿に。身長も一気に倍の3メートル超えだ。


「くそっ、変身系の魔王だったか! もう一度倒してやるぜ!」

「お前ら、今の我の姿が最後だと思っているのではなかろうな? まだまだ変身を残しておるぞ」


 魔王は不敵に笑うと、その剛腕をブンブンと振り回してきた。パワー系の攻撃を主体にしたバトルスタイルだ。物理には魔法と言う事で、勇者側も戦略を変えて果敢に戦いを挑む。マジックポーションのストックをかなり減らしながら、ギリギリでこのバトルにも勝利する。

 しかし、またしても魔王は立ち上がった。


「くくく、流石は勇者だと褒めてやろう。この姿になるのは300年ぶりか?」


 今度の変身で魔王は更に巨大化する。10メートルほどになったその姿は、魔王と言うより怪獣と言った方が相応しい。見た目もヒューマノイドからゴジラのようなスタイルに変わる。

 その明らかに異様な姿を見た勇者は、絶望感に打ちひしがれた。


「なんてインチキな!」

「そろそろ蹂躙してやろう。覚悟はいいな、勇者共!」

「俺達は負けないぜ! 行くぞみんな!」


 怪獣魔王はテンプレ通りに口から火炎を吐き出す。僧侶の防御結界で防ぎつつ、魔道士が魔法弾で攻撃。炎が途切れたタイミングで剣士が切りつけ、隙が出来たところを勇者が必殺の勇者剣技で弱点を突く。

 何度かそれを繰り返し、何とか怪獣魔王を打ち倒す事が出来た。


「ハァハァハァ……厳しい戦いだったぜ……」

「そうか? 我は楽しかったぞ」

「な、何ィ?」


 倒れた怪獣魔王の背中が避け、そこからまた新たな姿で魔王が復活。今度の魔王は背中に大きな羽を生やした蝶のような姿をしていた。身長も1メートルくらいに縮んでいる。


「今度は妖精魔王かよ」

「気を付けて! ああ言うのこそ凶悪なの」


 僧侶の指摘通り、弱そうな見た目に反して妖精魔王は強かった。恐ろしく素早くて物理攻撃も魔法攻撃も当たらない。勇者パーティーは絶滅寸前にまで追い詰められたものの、カウンター攻撃をメインに戦略を組み直して反撃。

 この時に打ち込んだ拳士の会心の一撃で、何とか妖精魔王の撃破に成功する。


「ワシに任せて正解じゃったろ?」

「ああ、助かった。拳士様々だ。今回はマジでやばかったぜ」

「うむ、さっきのはいいパンチだったぞ。次はどうやって楽しませてくれる?」

「嘘……だろ?」


 ましたしても起き上がった魔王は、ブヨブヨの巨体に変身。見た目が醜くなった事で僧侶が絶叫する。


「キャー! キンモー!」

「さあ、我を楽しませてくれ給えよ」

「こうなったら総力戦だぜ!」


 その後も魔王は何度も倒れ、そして復活。勇者パーティーの道具袋は空っぽになり、満身創痍になりながらドラゴン形態の魔王を倒す。


「こ、今度こそ終わりだろ……。そうであってくれ……」

「もう回復アイテムもない。あんなに買い込んだのに……」

「これで勝てても帰り道がヤバいよな」

「その心配の必要はないぞ。我がお前らを全滅させるからな」


 魔道士の究極魔法で消し炭になったはずの魔王は、間髪を容れずにまたしても復活。今度の姿は腕が10本になった神々しい神の如きスタイルだった。


「なんだ? 我らの神、千手神アウラにそっくりだぜ……」

「よく見て! 肌が真っ黒。私達の主神とは違うものよ!」

「勇者共よ。よくここまで戦い抜いたな、褒めてやろう。この姿こそ我の最終形態。真の姿の我を果たして今までと同じように屠れるかな?」

「で、出来らあ!」


 売り言葉に買い言葉、ボロボロの勇者パーティーは無謀にも真の姿になって体力が全回復した魔王に挑んでいく。

 最初に飛び出したのは、破邪の大剣を振るう剣士。しかしその絶技を振るう前に彼は勢いよく弾き飛ばされた。魔王が新しく生やした手が全てを拒絶する魔法の壁を生成したのだ。


「この姿の我は物理攻撃も魔法攻撃も防御も回復も全て同時にこなせるのだ。どうだ? 絶望したか?」

「何てチートだ!」


 勇者は嘆くものの、それで戦いが有利になったりはしない。パーティーはこの完璧魔神の隙を突こうと様々な手を尽くすものの、そのどれもが失敗に終わった。最初に防御の要の僧侶が倒れ、拳士が倒れ、剣士も剣と心が折れて戦闘不能に陥った。

 対する魔王はノーダメージ。勇者に授けられた対魔王用の奥義や魔法も、真の魔王の前には全く意味をなさなかった。


「お前達はよく頑張った。称賛に値する。だが終わりも見えた。これで最後だ」

「くそっ、ここまで来て……」


 圧倒的な力量差に、流石の勇者も心が折れる。その時、同じく死にかけていた魔道士が邪悪な笑みを浮かべた。


「もうこうなったら最終手段しかありませんね……」

「まだ奥の手があったのか? 何故それをもっと早くに……」

「超魔導コアを使います」

「な、何だって……」


 超魔導コアとは、魔導科学者が研究の末に作り出した究極の魔導爆弾。これを使うと半径10キロが確実に廃墟になると言う禁断の兵器だ。そのあまりの威力に使用が禁止され、無許可で持っているだけで死刑になると言うヤバい代物。


「何でそんな物持ってんだよ」

「研究者の僕のおじさんが渡してくれたんだ。最後の手段に持っとけって」

「それを使ったら魔王は倒せるかも知れないが、俺達も全員巻き添えを食うんだぞ!」

「いいじゃないですか。勇者パーティーは全滅しても王の力で復活出来るんだし」


 そう言うと、魔道士はその究極兵器を発動させた。その瞬間に爆発する膨大な魔導エネルギー。超魔導コアはスペック通りの性能を発揮し、魔王城を中心に半径10キロを一瞬で蒸発させる。





「おお、勇者。死んでしまうとは情けない」

「はっ、ここは……。俺達は死んだのか」

「そうじゃ。余が蘇らせなければ……」

「ま、魔王は……?」


 勇者の言葉に王は魔法鏡を差し出した。任意の景色を見る事が出来る魔道具だ。映し出されていたのは魔王城周辺の景色で、そこには超魔導コアで蒸発した爆心地が映っていた。

 魔王城は跡形もなく消滅し、黒焦げで汚染された死の大地が広がっている。


「余もこのような決着は望んではいなかったのじゃがな……」

「しかしこれで魔王の脅威は去ったんです。僕達の勝利ですよ!」


 ドヤ顔の魔道士は王の前で胸を張る。手段はどうであれ、魔王を倒した事で城内はお祝いムードになった。城下街ではパレードが繰り出され、この偉業を成し遂げた勇者一行は一躍国の英雄になる。魔王討伐成功を記念したお祭りは3日続いた。

 その日の昼下がり、周辺監視の兵士が国に向かってくる何かを発見。すぐに王に報告がなされた。


「何だと? 魔界から我が国に何かが向かってきている?!」

「正体は分かりません、ですが……」


 その何かは魔王城があった場所から飛んで来たと予測され、王城到達まで後1時間を切っていると言う事実も明かされる。これは確実に魔界側からの復讐だと城内はざわつき始めた。

 王は、この問題を打開する唯一の作戦を実行する。


「勇者だ! 勇者一行を呼べ!」


 こうして、魔界の復讐作戦に対抗するため、再び勇者パーティーが集められた。集まった5人には最新最高の装備を与えられ、迫りくる脅威に対処する事になる。


「今度はもうあの奥の手は使えないぞ」

「僕だって首都を滅ぼすような事はしませんよ」

「この装備があれば問題ない。返り討ちにしてやる」

「何が来ても全力を尽くす。それだけだ」

「あわわわ……。怖い……」


 僧侶が弱気な所が不安材料ではあるものの、彼女以外がやる気を出しているのを見て王は満足げな笑みを浮かべた。


「うむ、今度も任せたぞ!」

「「「「王よ、我らにお任せあれ!」」」」


 その頃、この国の姫は一足先に魔界からの訪問客がやってくる予想地点に向かっていた。事態を把握して1人で街を守ろうとしていたのだ。


「わたくしが被害をゼロに抑えてみせますわ!」


 姫はずっと空の一点を見つめている。魔界から飛んでくるモノがそのルートを辿るのだと言う確信があったのだ。

 彼女が軽く身構えていると、そこに勇者一行が駆けつけてきた。


「姫様! 危険です。城にお戻りください!」

「そうは参りません。私はこの街を守る義務があります。それに……」


 姫がその主張を全て言い終わる前に、空から何かがものすごい勢いで落下。着地の勢いで爆弾が爆発したに等しい爆風が舞い上がる。


「キャ……」

「姫様、お下がりください。あいつは俺達が倒します」

「あいつ?」


 爆風の勢いが収まり、落下した何かの正体が判明する。それは肌が真っ黒で手が十本のモンスター。そう、勇者達が苦戦の上に倒したはずの魔王だったのだ。


「まさか、超魔導コアですら仕留めきれなかったとは……」

「今度こそ俺達で倒すぜ!」

「お前達では我の相手にすらならんわ!」


 魔王は姫を守るように前面に出てきた勇者一行を一撃で空の彼方にふっとばす。最新で最高の装備は、最終形態の魔王の前には何の意味もなさなかった。


「そんなバカなぁ~っ!」

「ふん。あの程度で我を倒せるつもりでいたとは、おめでたいわ」


 魔王は視界から消えゆく5つの影を一瞥すると、すぐに顔を正面に戻す。この場に一人残っている少女の正体を見極めるためだ。


「貴様は何者だ? 何故逃げぬ」

「わたくしはこの国の姫です。国民を、国を守る義務があります」

「ほう。この姿を見て逃げぬとは肝が座っておるな。それとも恐ろしくて足が動かぬか?」


 魔王は姫を挑発する。その圧に少しも怯む事なく、姫もまた魔王を凝視した。


「あなたは本当に我が神と姿が似ておりますね。まるで鏡写し」

「神だと? だから何だと言うのだ。この場にいない神など……」

「いいえ。いるのですわ。今から見せて差し上げます」


 姫はそう言うと、手にしていた王家の杖を地面に軽く当てる。その瞬間に複数の光が走り、一瞬の内に魔法陣が形成されて何かが浮上してきた。最初は半透明で物質化すらしていたかったものが、完全に浮上したところでその形を定着化させていく。

 完全に顕現化したその姿は魔王の完全体と瓜二つの姿をしていた。唯一違うのはその肌の色だけ。黒の魔王に対し、姫が召喚したそれはまばゆいほどの白さ――。


「なるほど、それが千手神アウラか。確かに我と瓜二つだが……」

「力も同等のはずですよ。同じ姿なのですから」

「これは面白い。試させてもらおうか」


 魔王の十本の手とアウラの十本の手ががっぷりと組み合い、力比べが始まる。実力が拮抗しているのか、圧倒的な力を持つ魔王もアウラを屈服させる事は出来なかった。


「まさか、我を押し留められるものがいようとは……」

「わたくしも驚いていますよ。我が神と同じ姿の存在に」

「我には記憶が欠けているが、そう言う事なのか?」

「それについては分かりません。わたくしも力を借りているだけですから」


 巫女である姫はアウラと契約し、その力だけを一時的に行使する事が許されている。今はその権利を使っているだけであり、彼女とアウラ自身の意識はシンクロしていない。

 つまり、魔王と神の間に関連があったのだとしても、彼女はその事情については何も知らないのだ。


「しかし、これでは何も出来ぬ」

「何もさせませんわ。このまま大人しく帰ってくださいませ」

「それは出来ぬ相談よ。城を壊し、部下達を殺した責任は取ってもらわねば」

「わたくし達も多くの国民と国土が犠牲になっておりましてよ?」


 魔王の10本の手にはそれぞれの特殊能力があるものの、姫の召喚したアウラによって全て封じられ、単純な力比べも互角。事態は千日手の様相を見せ始めていた。

 バケモノ同士の取っ組み合いの力比べが始まって1時間。衝突する力はお互いに打ち消しあって、何の進展も見られない。やがて、姫を心配した王と兵士達が集まったものの、ただならぬ場の雰囲気に何も出来ないでいた。


「姫、無茶をするでない。神の召喚は命を削るのだぞ」

「お父様。そこで黙って見ていてください」

「ギャラリーが増えたか。虐殺したいのに出来ぬのがもどかしい」

「魔王、あなたは何も出来ない。わたくしがさせない」


 姫の決意を込めた声に、魔王は初めて恐怖を覚える。更に1時間が経ち、勝てないと悟った魔王は力を緩める。それを感じ取った姫はこの復讐者に笑顔を見せた。


「これで分かったでしょう。あなたはわたくしを倒せませんし、わたくしもあなたを倒せないと言う事を」

「では、どうすればいいのだ。何を持って決着をつければ……」

「話し合いで解決しましょう。わたくし達は対等なのですから」

「た、確かに……そうかも知れぬ」


 こうして姫の説得により初の魔族と人間の会議が行われ、魔界と人間界に境界線が敷かれる事になった。お互いに干渉しないと言う条約が結ばれ、戦争は集結。人間界に平和が戻る。魔界と正式に国交を結び、文化の交流で国は更に豊かになった。

 激闘を繰り広げてお互いの実力を認めあった魔王と姫は、週イチで女子会を開くほどの仲になる。その後も様々な英雄譚が生まれ、姫と魔王の物語は人々の間で末長く語り継がれていくのだった。



(おしまい)

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