第7話 何が出たのか

 30メートルほど進むと、前を歩いていた菅原君が立ち止まった。


「どうしたの? 何か見つけたの?」


 僕が尋ねると、菅原君が笑顔で振り向いた。


「これ、祭壇かも」


 菅原君の足下には、地面が不自然に盛上がってできた土の塊があった。その上には木の葉や枝が大量に置かれている。いかにも何かが隠されている感じだ。


 菅原君はしゃがんで木の葉と枝を取り払い、土を崩した。すると、中からブルーシートが出てきた。ブルーシートを土ごと剥がすと、そこに現れたのは、なんと棺桶かんおけだった。


「間違いない。これが祭壇だよ」


 菅原君は何の躊躇も無く棺桶のふたに手をかけ、開け放った。が、中には何も入っていなかった。


「やっぱり死体は無しか。生き返らせる死体は供物をすべて置いてから持ってくるつもりだね」


 神崎君が尋ねる。


「ホントにこれが祭壇なのか?」


「そうだよ。ここを見て」


 菅原君が棺桶の蓋を指さして言う。そこには小さな赤い丸印が四つ付けられていた。縦と横に二つずつ、等間隔に並んでいる。


「さっき言ってた祭壇の印だよ。犯人が自分の血で付けたんだ。まだ一つも塗りつぶされてないから、今のところ犠牲者は薰ちゃんしかいないってことだね」


「じゃ、まだ儀式は始まったばっかりってわけだ」


「そういうこと。早く犯人を止めないと」


「どうやってだ?」


「次の満月の夜に、犯人は印を塗りつぶすためにここへ来る。そこを捕まえるしかないね」


 僕はおどおどと尋ねた。


「ぼ、僕らがやるの?」


「当然。警察とマスコミに騒がれでもしたら、犯人が儀式を中断して雲隠れしちゃうよ」


「心配すんな」と神崎君。「どんな奴が来ても俺がぶっとばしてやる」


「そうそう、神崎は一流の武道家だから、心配しなくていいよ。オレ達の手で、新たな犠牲者が出るのを防ごう」


「そう上手くいくかな……」


 僕が沈んだ声で言うと、菅原君の目が怪しく光った。


「何事もネガティブに考えちゃダメだよ、菊池君。それに、いいことだってある。薰ちゃんには悪いけど、この一件のおかげで、ソイノメ様が実在する可能性が極めて高いことが分かった。異界と眷属の存在が確認できたし、それに、さっき菊池君はここから嫌な気配がするって言ってたでしょ? それは、おそらくソイノメ様が放つ邪気だよ」


「邪気?」


「そう。祭壇は儀式の中心地、つまりはもっともソイノメ様の異界と近い場所になってる。儀式が完了すれば、ここに異界と現世を繋ぐ入り口ができるはずだ。今はまだその入り口が開ききってないけど、そこからソイノメ様の邪気が漏れ出てるんだと思うよ」


「そっか。じゃあ、やっぱりソイノメ様はいるんだね。本当に……」


 菅原君が興奮して目を見開く。


「ああ。この目で確かめるまでは断定できないけど、その可能性が高い。これは世紀の大発見だよ。ゾクゾクするね」


 神崎君が呆れ気味に言った。


「ゾクゾクするのはお前だけだ、変態。化け物の実在なんてどうでもいいから、とにかく犯人を止める方法を考えるぞ」


 菅原君が力強い口調で言う。


「もちろん。ソイノメ様の召喚は絶対に許しちゃいけない。できればこの目でソイノメ様を見たいけどね。儀式は絶対に阻止しよう。ホントは見たいけどね」


「えいえい、おー」


 薰ちゃんがかけ声と共に拳を突き上げるが、僕以外には気づかれていない。


 菅原君がふと尋ねる。


「あっ、そうだ。もし犯人を捕まえられたら、薰ちゃんは成仏できそうかな? どう、薰ちゃん」


「うーん……」と、薰ちゃんは腕を組んで、「一番の心残りは犯人だからね。警察に逮捕されれば成仏できるかも。そうなったら家族にも私が死んだって伝わるだろうし」


 僕は頷いて伝言した。


「犯人が警察に逮捕されれば、成仏できそうだって」


「よし。じゃあ、新たな犠牲者が出ないようにするためにも、それから薰ちゃんを成仏させるためにも、オレ達の手で犯人を捕まえよう」


「で、次の満月はいつだ?」と神崎君。


 菅原君がスマホを取り出し、ネットで調べる。


「五日後だって」


「もうすぐだな」


「そんな、まだ心の準備が」


「だから、お前の準備は一生終わらないだろ」


「てことで五日後、また三人、いや薰ちゃんと四人でここに来よう。ああ、あと、山を出る前に祭壇は元の状態に戻しておかないとね。オレ達が来たことが犯人にバレるといけないから」


「おい、それって首も木の上に戻せってことか?」


「んー、そうだね。その方がいいよ。お願いね神崎。オレは木登り上手じゃないから」


「チッ、またアレにさわんのかよ」


 神崎君が舌打ちすると、薰ちゃんが背中におぶさった。


「お、重っ。おい村井ふざけんじゃねーぞ!」


「謝ってくれないと離れなーい」


「謝らないと離れないだって」


「なんでテメーが被害者面なんだ! 絶対謝らねーからな!」


「菊池君、祭壇を元に戻すの手伝って」


「うん、分かった」


「おいっ、お前らも無視すんじゃねー!」


 僕は菅原君と祭壇を元の状態に戻し、その代わりに神崎君が薰ちゃんの首を木の上にくくりつけた。


 こうして、僕達は五日後にまた祭壇がある場所に来ると決め、楔山を出て家に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る