『インターミッション』 彼女は、もう知っている
夜の格納区画は、昼よりも静かだった。
照明は落とされ、非常灯だけが床と機体の輪郭を浮かび上がらせている。
並ぶ魂夢はすべて沈黙し、蒸気音すら止まっていた。
一色涼は、その中央に立っていた。
モニターに映るのは、先ほどの訓練データ。
特定の数値だけが、異様に突出している。
「……やはり」
低く、誰にも聞かせない声。
高瀬拓真。
シンクロ率――想定上限を、超過。
偶然ではない。
測定誤差でもない。
彼女は、かつて見たことがある。
同じ数値を。
同じ“反応”を。
(……早すぎる)
まだ一年生だ。
心も、身体も、覚悟も。
何もかもが未完成な子どもたちだ。
一色は、拳を強く握りしめた。
かつて――
2020年。
異形の出現が“戦争”として認識され始めた年。
あの頃、前線に立っていたのは大人だった。
判断できる者。
引き金を引く重さを理解している者。
それでも、死んだ。
判断できたはずの者たちが。
覚悟していたはずの者たちが。
(だから、次は――子どもか)
胸の奥が、鈍く軋む。
学徒動員。
それは制度であり、現実であり、敗北の証明だ。
だが、もう時間がない。
母体の活動域は、確実に広がっている。
異形の行動は、明らかに“学習”を始めていた。
――そして、魂夢は応え始めている。
「……道具じゃない、か」
自分で言った言葉を、思い出す。
嘘ではない。
だが、真実でもない。
魂夢は、選ぶ。
人を。
心を。
覚悟を。
だからこそ、危険なのだ。
一色は、格納区画の最奥へと視線を向けた。
そこには、他の機体とは少し違うシルエットがある。
旧型。
魂無。
かつて、彼女自身が乗っていた機体。
(まだ……使わせない)
それは、彼女の戦場だ。
子どもたちの場所ではない。
だが――
そう思える時間は、もう長くはない。
「……すまない」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
眠る魂夢たちの中で、
ただ一機だけ、微かにコアが脈動した気がした。
それが、未来の合図なのか。
それとも――終わりの前触れなのか。
一色涼は、踵を返す。
彼女はまだ、命令を下していない。
だが、戦争はもう、始まっている。
静かに。
確実に。
――子どもたちの、すぐ隣で。
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無垢な異形 無垢にーさん @imo23
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