第3話 雨音のある夜
今日は朝からツイてない。電車が遅れて遅刻しそうになり、お弁当を忘れてお昼抜き。部活を終えて急いで本屋さんに来てみれば欲しかった本も売り切れていた。本屋さんを出る頃にはあたりはすっかり暗くなっていて、まさか雨に降られるなんて。
「傘なんて持ってないよ……」どっと疲れて本屋さんの軒下でしゃがみ込む。どうしようと思って顔を上げると灯りが見えた。
こんなところに喫茶店なんてあったっけ?
不思議に思いながら足を向けてみる。なんだか良い匂いがする。ちょうど良い。ここで雨宿りをして帰ろう。そう思いながら扉を開けてみると「いらっしゃいませ」と中から声が聞こえた。
雨音と共に、真っ白に髪を染めた白い頭の店員のお兄さんが出迎えてくれて、お好きな席へどうぞと言われる。
レトロな雰囲気の店内には僕の他に誰もお客さんが居なかった。ラジオの音だけが静かな店内に流れている。先ほどの白い頭のお兄さんがおしぼりとお水と、良かったらどうぞとタオルを渡してくれて「お決まりになりましたらお呼びください」と柔らかく笑って離れていく。店員さんも一人だけのようだ。
有難く渡されたタオルで少しだけ濡れた髪や制服を拭く。机の上にあるメニューを片手に悩んで決めかねていたら、白い頭のお兄さんが「これが当店のおすすめです」とメニューに指を添えて教えてくれた。とてもおいしそうなのでそれにする。家に帰ればあるであろう夕飯のことは、ひとまず帰ってから考えることにした。
「店長ー!オムライスひとつお願いします」
「はーい」
白い頭のお兄さんがお店の奥へ声を掛ける。もう一人、店員さんが居たらしい。
返事がした方に顔を向けると、水色の蝶ネクタイをした大きな白くまがお店の奥のソファーからのっそりと立ち上がったのが見えた。
「白くま!?」
驚いて叫んで飛び上がると、ここは白くまの喫茶店です。自分も白くまです。と白い頭を指差しながらお兄さんが言う。どうみても人間だが?
話を聞くと、どこまでも不思議だった。カウンターの中のキッチンで料理を作り終えた白くま店長が「ごゆっくり」と言い残して、再びお店の奥へいそいそと戻って行った。続きがどうしても気になる本があるらしい。僕と同じでここの店長さんもかなりの本好きのようだ。
だけど、運ばれて来た出来たての大きな黄色いオムライスはふわふわでトロトロでとてもおいしかった。
「そんな日もあるよね。ちょうど良い雨宿りになって良かったね」
今日一日の出来事を愚痴として白い頭のお兄さんに聞いて貰いながら食事をする。からからと笑いながらそう言われて、まあ、そんなに濡れなかったし、空腹が凌げてご飯もおいしかったし、本も待てば次の入荷がある……。そう気持ちを切り替えていると雨が止んで、僕の食事も終わっていた。
「またどうぞ」
そう言われて扉を開けると、森に居た。この喫茶店は街の中に入口があって森の中に存在しているらしい。歩いていたら、運が良ければ家の近くに辿り着くと言われて、雨上がりの夜空を見ながら僕は一歩を踏み出した。
白くまと夜の喫茶店 くまのこ @kumanoko_note
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