第2話 夜の道案内

 今日はもう何をしてもダメな日だ。最近ちょっと調子が出ない日が続いている。

 あたしは日々生きる事に疲れた人間の学生だ。一人暮らしの大学生。このままでは良くないと分かっているけど、どうしたら良いか分からない。

 だけどそんな風に思った日は決まって学校から家までの帰路の途中で猫と出会える。夜しか会えない不思議な猫は黒い姿で白い手袋と白い靴下をはいたような模様をしている。見逃さないように注意深く街を歩いていたらどこからか声を掛けられた。


「にゃー」


 あたしと目が合うと、てくてくと歩き出す。たまに後ろを振り返りながら道案内をしてくれる猫の背中を追いかけて、気が付くといつの間にか暗い森の中を歩いていた。


 ホーッホーッ


 森の中で来客を知らせるふくろうが二度鳴いて、森を抜けた先にある大きな丘の上に建つ喫茶店が見えて来た。夜に浮かぶようにポツンと暖かな明かりが灯っている。見ているとホッとする優しい灯りだ。そこには水色の蝶ネクタイを付けた大きな白くまの店長がいる。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは」

 白くまの店長がカウンター越しに空いてる席へどうぞと声を掛けてくれてる。いつもの奥まった席は使用中だったので、窓辺の席へ座った。ここは不思議な喫茶店で、なぜかあたしは道案内の猫が居ないとここには来られない。黒猫の店員さんに尋ねる。

「今日の日替わりは何ですか?」

「今日はハンバーグです。お子様ランチ風でスパゲティとポテトとサラダとスープ付き」

「ぜひそれをお願いします」

 そう言って、軽くあたりを見渡すと先客の三角帽子に赤と黄色のしましまのベストを着た白くまがご機嫌でデザートのプリンを食べている。今日のデザートはプリンも良いなあ。


 ここは時間がゆっくり流れていて、店長さんが作る料理やラジオの音だけしか聞こえない。店長さんに何か話そうと思ってた。最近何となくうまくいかない理由や原因を聞きたかった。だけどそれはハッキリと分からないけど、言わなくても答えがなんとなく自分の中にある気がする。

 席の近くにあった新聞を何気なく手に取り、料理が出来る間に読んでみる。新聞の名前は「白くま通信」不思議な事にここで読んだ内容は帰宅したら忘れている。それでも読んでみる。

 しばらくして料理が来て、新聞を畳み。出来たての料理をおいしく食べた。いつの間にか道案内の靴下猫(こちらは四足歩行)があたしの膝の上で丸くなって寝ていたけど、気にせず食べた。静かだけど寂しくない食事はとても久しぶりで嬉しい。

 あっという間に食べ終えて、膝の上の気持ち良さそうに眠る靴下猫を撫でていたら今度は自分が眠たくなって来た。眠たい……早く帰ろう。  

 早く帰って、今日はもう寝てしまおう。明日の事は全部明日しよう!

 出来れば明日はいつもより早く起きて朝ごはんを食べよう……。


「ごちそうさまでした。おいしかったです!」

「またいつでもどうぞ」


 ホーッホーッホーッ


 森の中でお客さんの帰りを知らせるふくろうが三度鳴いた。

 空を見上げると行きには気付かなかった月が見えた。まんまるだった。

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