白くまと夜の喫茶店
くまのこ
第1話 夜にだけ開く喫茶店
夜になると、街のどこかに喫茶店が現れる。
そこに入れるのは、少しだけ疲れてしまった『お客さん』だけだ。
僕はその夜、理由も分からないまま、その扉を開けていた。
「あれ?」
さっきまで、仕事帰りの僕は商店街を歩いていた。
今日もクタクタに疲れ果て、ヨロヨロと自宅に向かって歩いていたはずだ。
なぜか喫茶店の中にいる。
少し薄暗い店内はあまり視界が良いとは言えない。
「どこだここ」
「いらっしゃい、お好きな席へどうぞ」
店主らしき声を聞いて適当に目についたカウンター席へ座ると、白いエプロンを付けた二足歩行の黒猫がおしぼりとお冷を運んで来た。
驚いて立ち上がり、先ほどの声がした方を見るとカウンター越しに水色の蝶ネクタイをした大きな白くまが居た。思わず声が出た。
「白くま!?」
「こちらがメニューです」
そこには読める文字で、普通にありきたりな喫茶店メニューが並んでいた。すると奥まった席から声が掛かる。
「そこのお兄さん、ここ初めて?」
常連さんらしき、自分と同じくらいの年齢で学生っぽいお客さんが言うには。
ここは不思議な喫茶店で、来ようと思っても来られなくて、何かしらの条件が揃うと入る事が出来て、ここで食べる店長や従業員さんたちの作る食事はとてもおいしいのだと。
「あたし、苦学生でね。三日間くらい何も食べられなくて気を失いそうになりながら街を歩いていたらここに居たの。それが最初。まあ、ゴハンがおいしかったら何でも良いじゃん」
そう軽く言って、おススメは店長の作るオムライスと黒猫の作る焼き菓子だと教えてくれた。自分は一番それが好きなのだと言うのでそれをそのまま注文する。
やがて、大きな黄色の満月のようなオムライスが黒猫の店員さんによって運ばれて来た。揺れるしっぽが可愛い。ふわふわで湯気が立ってて、いただきますと小声で呟き、一口食べると何となく懐かしい味がした。
「おいしいでしょ?」
僕は静かに頷いて、黙々と食べた。
スープも出されてお腹の奥から温まる。
学生さんは隣の席で食後のコーヒーを飲みながらのんびりと新聞を読んでいた。ここを出ると内容は忘れてしまうけど、動物たちのニュースが読んでて楽しいらしい。
食後のデザートで頼んでいた焼き菓子が出て来た。
赤いジャムが真ん中にある丸い形のプレーンのクッキー。甘さ控えめでサクサクで、これも素朴な味でおいしい。森で採れた野苺で作ったジャムだと黒猫の店員さんが教えてくれたが、近くに森があるのだろうか?
ラジオの音だけが流れる店内で僕は食事を終えると黒猫の店員さんにお代を渡し、おいしかったと感想を伝えた。親切にあれこれ教えてくれた学生さんにお礼を言って、喫茶店のドアを開けたら森の中に居た。
「大丈夫よ、帰りは森の中を抜けて行って。運が良ければ家の近くだから」
学生さんの言うとおり、森を歩いていたら気付いたら街にいた。
ただし、駅前まで戻っていた。
驚いてきょろきょろとあたりを見渡す。何は変わりはない。どういう仕組みか全く分からないけど、今の僕は満腹で満足で家までの足取りは軽かった。
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