最強公爵令嬢の「はじめてのスローライフ」の護衛をすることになりましたが、これただの災害ですよね? ~貧乏冒険者の私が、無自覚お嬢様との楽しい冒険が好きになるまで!~
第2話 荷物が少ないと思ったら、国宝級のアイテムボックスが出てきました
第2話 荷物が少ないと思ったら、国宝級のアイテムボックスが出てきました
翌朝。私は眠い目をこすりながら、王都の南門で依頼人を待った。
背中には巨大なリュックサック。中には野営セット、保存食、水袋、予備の武器。
これから向かうのは、人類未踏の地『魔の樹海』だ。準備しすぎということはない、はず。
「おはようございます、ミラさん! 素晴らしい朝ですわね!」
爽やかな声で現れたのは、昨日と同じくキラキラと輝くレティシア様だった。
しかし、彼女の格好を見て、私は我が目を疑う。冒険者風の可愛らしい服に小さなポシェットが一つ。はい、以上。
終わったああああああ!!
「……その、レティシア様?」
「はい、なんでしょう?」
「お散歩ですか?」
「いいえ、旅立ちですわ!」
満面の笑みで即答された。
眩しい。後光が見えるようだ。
私はこめかみを押さえた。
「いやいやいや! 荷物は!? これから樹海に行くんですよ? 着替えは? 食料は? 水は? まさか『現地調達』とか言うつもりじゃないですよね?」
「まあ、ミラさんったら心配性ですこと。荷物なら、ちゃんとここにありますわ」
そう言って彼女は、左手の小指にはめた指輪を私に見せてくれた。大粒のサファイアが埋め込まれた、見るからに高そうな指輪だ。
「……指輪?」
「ええ。『
私は固まった。固まるに決まってる。
アイテムボックス。空間魔法の極致で失われた古代技術の産物だ。国宝級の魔道具で城が買えるほどの価値があるとか、ないとか。
それをこんな無造作に? 誕生日プレゼントで? 金銭感覚どうなってんのよ!
「……は、入る容量はどれくらいなんですか? 普通の鞄一つ分くらい?」
一般的に流通している少しお高めの収納鞄は、せいぜいリュック二つ分くらい。
私も欲しい。そんな考えがたまに頭をよぎるけど、これ以上高価な物に手を出すと、それこそ人生詰んじゃうので我慢していたりする。
「さあ? 試したことはありませんが、お屋敷の離れを丸ごと収納した時はまだ余裕がありましたわ」
「離れを!? 丸ごと!?」
規模がおかしい。容量無限じゃん。
「とりあえず、生活に必要なものは一通り入れてきましたの。ベッドでしょ、ソファでしょ、お気に入りのティーセットに、お風呂に、グランドピアノに……」
「待って待って! キャンプにグランドピアノはいらない!」
「え? でも、月明かりの下で奏でる音楽は風情がありますわよ?」
「魔物が寄ってきますって!」
彼女の「生活に必要なもの」の基準が一般庶民の「一生分の財産」レベルであることに目眩がした。
スローライフって、ほら、もっとこう、質素なものじゃないの?
「あ、もちろん食料も入っていますわよ。最高級の干し肉に王室御用達のワイン、それから……」
彼女が指輪を撫でると、ポンッという軽い音がした。すると、目の前の地面に巨大な木箱が出現した。中には、瓶詰めされた液体がぎっしりと詰まっている。
「これは……ポーション?」
「はい。『エリクサー』ですわ。万が一怪我をしたら大変ですので、地下倉庫にあった在庫を全部持ってきましたの」
私は膝から崩れ落ちそうになった。
エリクサー。
瀕死の重傷でも一瞬で完治させてしまう、欠損した手足さえ再生する、伝説の霊薬。
一本で小国の国家予算並みと言われるそれが木箱にぎっしり百本はある。すごすぎる……。
「……レティシア様」
「はい?」
「これ、一本売れば、国が買えますよ」
「まあ! 物価が上がったのかしら? 昔はお城一つ分と言われていましたのに」
「インフレの問題じゃない!」
私は震える手で木箱を指差した。
「しまってください。今すぐしまってください。こんなものを道端で広げないで! 盗賊どころか、隣国の軍隊が攻めてきますって!」
「あら、大げさですわねえ。でも、ミラさんがそう言うなら」
彼女が再び指輪を撫でると、木箱は瞬時に消えた。通行人の皆が「こいつらヤベェ!」みたいな目でこっちを見てるよ。
私は冷や汗を軽く拭った。
「はぁ……。先が思いやられるよ……」
「大丈夫ですわ、ミラさん! 準備万端、意気揚々! さあ、出発いたしましょう!」
彼女は私の腕を組み、ぐいぐいと引っ張っていく。
「ちょ、痛い! 腕が! 脱臼する!」
「まずは馬車の手配ですわ。私、乗り合い馬車というものに乗ってみたかったのです!」
「やめて! お嬢様が乗ったら、馬車が『戦車』と勘違いされて襲撃されるぅぅぅ!」
私の悲痛な叫びは、青い空に吸い込まれた。
荷物は少なくても、抱えている爆弾があまりにも大きすぎる。
この「アイテムボックス」の中には、たぶん彼女の家出によって生じた「国家規模のトラブル」が詰まっている。知らないけど。
私は大きなため息をついた。
口の中が苦く感じるのは気のせいかな?
これが私のスローライフの味なのかもしれない。
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最強公爵令嬢の「はじめてのスローライフ」の護衛をすることになりましたが、これただの災害ですよね? ~貧乏冒険者の私が、無自覚お嬢様との楽しい冒険が好きになるまで!~ 咲月ねむと @onikami-yuuki
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