わたしは釣り人
芹ナヅナ
第1話
風のおだやかな晴れた初秋の朝
車窓からまだ海は見えなくとも
潮の香りに心が踊る
過疎の進んだのどかな田舎の風景
山と海とが隣り合う
県道を走り
トンネルを抜けると
しっかりとした潮風と燦々と降り注ぐ太陽のもと
あちらの果樹園もこちらの果樹園も
元気いっぱい実っている
寂れた民宿と、ぱらぱらとした古い戸建てを通り過ぎ
人の少ない こじんまりとした漁港に辿り着く
車から釣具を手に持ち
はやる気持ちで波止へ向かう
魚はいるか
目をこらして
首を突き出し覗き込む
その海のなんと美しいこと
深くまで澄んでいて
数メートル下の海底の敷石まで見透せる
魚がいる!
子どもの時に感じた
ワクワクは大人になっても変わらない
ぎいぃぃぃ
小さな漁船たちは揺れて鳴いている
しゅっ!
誰かがルアーを投げている
ぴーぴょろろ〜
とんびが空から鳴いている
贅沢な自然に囲まれた中で
釣り糸を垂らす非日常はこの上なく優雅だ
コツコツっ…コツっ…
…… ぐんっ!
リールを巻いて魚とご対面
お魚たちの世界でも秋になると
‘食欲の秋’なのだろうか
海のいろんな魚がせわしなく食いついてくる
狙いの魚が釣れたり
外道が釣れたり
海のいろんな魚たちがわたしと対話をしてくれる
本命も外道も海のいろんなお魚たちよ、
わたしをたのしませてくれて本当にありがとう
海で釣り糸を垂れながら
ふと思いを馳せる
――君はヘラブナ
ヘラブナよ
釣り糸は垂れている
君も仕掛けをはっきり小突いてくれないか
この海のお魚たちのように
君もわたしに釣られてくれないか
この海のお魚たちのように
わたしは釣り人 芹ナヅナ @cradlekitty
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