最強

 依頼のあった場所の近くまで到着した。


 ここは町から近い森であり、比較的人の通りが多い。

 そのため、通行の妨げとなる魔物退治の依頼を早くこなす必要がある。


 僕は森の通行用の道から逸れ、ゴブリンが居た痕跡を探し始める。


 まだ夜が明けたばかりだ。昼行性のゴブリンが巣から出たばかりの可能性が高い。

 その場合、ゴブリンは集団で固まっている可能性があるから気を付けないとな。


 うーん、ダモンに煽られて冷静さを欠いてしまった。本来ゴブリン退治はもう少し後に始めるものなんだけど……


 だがここまで来てしまったものは仕方がない。それに、五体同時でも怪我はしても死にはしないはずだ。大丈夫だ。


 僕はゴブリンの痕跡が無いか探す。


 一旦川に行くべきか?いや、川の周辺には魔物が集まる。今回のターゲットであるゴブリン以外にもDランクの魔物が居たりしたら大変だ。このままゴブリンの痕跡を見つける方が確実だろう。

 ん?あれは……


 見つけた。


 よし、運がいいぞ。僕は。


 僕の視線の先には、一匹のゴブリンがいた。


 ゴブリンは周囲を警戒するようにキョロキョロとあたりを見回している。


 なんだ、様子がおかしいな。

 でも、今がチャンスだ。ちょうどゴブリンは一匹。これなら僕でも……


 僕は身をうまく隠しながらゴブリンまで近付く。

 よし、今だ。


 ダッ!


「あれっ?」


 速っ……


 ズザザザザッ


 僕の体が地を蹴る強さについてこれず、前のめりに転んでしまった。


「ギャウ!!」


 ゴブリンが僕の姿に気付く。


 まぁ大丈夫だ。ゴブリンぐらいなら対面しても問題ない。


「炎魔法」


 僕は炎を剣にまとわせる。


 そしてゴブリンめがけて剣を振り下ろす。


 ブオンッ!!


 僕の剣がゴブリンを一刀両断した。


「……はぇ?」


 思わず間抜けな声が出る。


 速い。っていうか、さっきから体が明らかに軽い。剣も軽い。

 なのに、攻撃は重い。


 これ、どういうことだ?


 違和感が強すぎる。


 なんだ、明らかに以前の僕より……強いぞ?


 もしかして僕に特殊魔法が宿ったりしたのか?


 今まで基本魔法である炎、水、風以外の魔法は使えなかったはずだが……特殊魔法は突然芽生えたりするのだろうか?


「ギャウ!ギャウ!」


 木々の隙間から一体のゴブリンが現れた。


 僕は適当に剣を振るう。


「ギャウゥゥゥ!!!」


 僕の刃は異常にあっさりとゴブリンの体を切り裂く。


 明らかにおかしい。これは僕に特殊魔法が芽生えたと考えていいだろう。


 特殊魔法は先天的に使えるその人固有の魔法じゃなかったのか?

 しかし、なんだこの能力。発動条件も何も分からないぞ。


「ギャウ!」


 先ほどのゴブリンの悲鳴を聞きつけたのだろう、三体のゴブリンが出現した。


 僕は剣を振るい、軽々ゴブリンを倒していく。


「これさ……もしかして……」

「炎魔法」


 ブオゥッ!!


 過去最大の火力だ。

 近くの木に燃え移らなくてよかった。


「僕、強いかも……」


 思わず顔がほころぶ。


「ふふふ、ふふふふふ……」


 これであいつらを見返せるぞ。僕は強くなったんだ。


 僕は強くなって、強くなって……


(いつか俺らは勇者をも超えるパーティーになるぜ。付いてこい、アート)


 ……強くなって、なんだろうな。


 あれ?


 なんで僕はあいつらと一緒に居たんだっけ?


 僕は、僕は……


 ドスン!ドスン!


 背後から何かの足音がした。


 僕は後ろを振り向く。


「ブオォォォオオ!!」


 そして、雄たけびが周囲になり響いた。


 この声……オークか!!


 ギルドを出た時の胸騒ぎの正体はこれか!ゴブリンの討伐依頼の場所の近くにCランクのオークの討伐依頼があったんだ!


 オークのランクはC。僕より相当強い。


 オークが姿を現した。


 知ってることだが、デカいな。


 だが、今の僕なら、もしかしたら……


「倒せるかも、しれない」


 僕は剣を握る。


「風魔法」


 魔法剣士は風を吹かす方向で移動速度を上げる。


 大丈夫、僕なら勝てる。


 どうして強くなろうとしてるのか、今は考えなくていい。

 今はただ、生き残ることだけを考えろ。


 目の前の敵を倒せ。


「うおおおお!!!」


「ブオオオオ!!!」





「ハァ……ハァ……ハァ……」


 僕が地面に倒れこむ。


 僕の隣にあるのは、ボロボロになったオークの死体。


「勝った。勝ったぞ。僕は、勝ったんだ……」


 ゆっくりと地面を這いながら、オークを討伐した証である頭を抱きかかえる。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 少し、休もう。


 大丈夫、オーククラスの魔物が居たんなら周囲は安全だ。


 ちょっとだけ、目をつむろう。


 ちょっとだけ、ちょっとだけ…………


【特殊魔法”成長力無限”が本人にも完全に適応されました。】




「ちょっと!なによ急に走り出して!」


 森の中を駆けながら、魔法使いが文句を言う。


「こっちで戦闘音がしたんだ!」


 青年が走りながら返した。


「確かにしましたなぁ!しかし、他者の戦を奪うのは無粋では!?」


 屈強な体つきの男が言った。


「いや、かなり長引いてる。きっと苦戦してるんだ。助けてあげないと!」


 青年の速度がより一層早くなる。


「はー面倒くさい!このおせっかいマン!」


 魔法使いは文句を言うと立ち止まり、青年に杖を向ける。


「一人で行ってらっしゃい!」


 そして、突風を勇者の背中にぶつけた。


「うわああああ!!!」


 青年は木々を手でどかしたりよけたりしながら器用に直進する。


 そして、開けた場所に出て地面を転がった。


「いてて……あぁ、よかった」


 青年の視界に映ったのは、頭のないオークと一人の少年。


「無事討伐完了って感じかな」


 そして、少年、アートのことを背負う。


 青年の職業は勇者。


 聖剣に選ばれた、人類最強の男である。

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2026年1月14日 23:02

成長力無限のバッファー、追放され最強になる~僕が抜けて元パーティは壊滅した~ 社会の猫 @yauhshs

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