手
白川津 中々
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人間の手は人をぶん殴るためについている。
鼻血を出しながらぶっ飛ぶクラスメイトを見て、俺はそう確信した。
治安が良くない地域に生まれた俺は幼少の頃から厳しく躾けられ、「やられる前にやれ」の教えを徹底してきた。舐められたら終わりの社会。一度下に見られたら恐喝、暴力、放火、なんでもありのアンダーグラウンドな環境では先手必勝なのである。生きていくには常に勝利していなければならない。それは学校も例外ではなかった。小学校に上がると、『密室』と呼ばれる裏の格闘イベントが始まる。学期毎に学年同士が総当たりで戦い、一番強い奴を決める違法試合である。密室は賭けの対象にもなっており教師も黙認していた。中には生徒とタニマチのような関係性を築く者もいて、いよいよ反社会的な様相であった。
小3の時、その密室で注目を浴びるクラスメイトがいた。
そいつは1年、2年の全期を無敗で進級しており、学校全体で一目置かれていたのだが、俺は進級後一発目の密室で、そいつと当たる事となった。
机と椅子。そして人で囲まれた教室。マットもロープも逃げ場もないリングで互いに拳を固める。殺し合いまで残り3.2.1……
「ぶっ殺してやる」
開始と同時に距離を詰められめった打にされる。「やられる前にやれ」の教えが通じない相手は初めてだった。ベアナックルでの打撃はガードをすり抜けていいところにヒットし肉が内部から断裂していく。痛みはあったが、それ以上に、喜びもあった。痛みの分だけ相手を憎めるという喜びが。
一方的に殴り続ける中でそいつは油断した。あるいは乱打の疲れが出たのかもしれない。一呼吸の間、完全に気の抜けたタイミングがあった。殺意しかない俺が殺せる瞬間を見逃せるわけがない。渾身のストレートを叩き込む。全体重を乗せた、致命の一撃。指から手首にかけて衝撃と快楽が走り射精したのかと思った。えも言えない躍動に目は冴え渡り、それまであった痛みが綺麗さっぱりとなくなったようだった。
鼻血を出しながら吹っ飛んだそいつを見下ろすと、頭からもろに落ちたようで泡を吹いていた。ゴングが鳴り、終了。勝利。
轟く歓声の中、静かに、確かに、絶対的に生じた価値観が、未だ手に残る破壊の感覚とともに俺の魂に染み込んでいった。
人間の手は人をぶん殴るためについている。
手は破壊と殺傷の部位である。
俺は今でも、そう確信している。
手 白川津 中々 @taka1212384
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