かごの鳥
モナお姉さまに掴みかかろうとする王子。僕には手が無い。なので足で王子の腕をつかんだ。
「んぬぁっ!? ちびっ子鳥が僕に足で掴みかかるとか、躾がぬぁってぬぁいどぅえわぬぁいくぁ!! 死刑どぅあっ!!」
「させません!! 言ったでしょう!? この子は私の弟です。殿下には関係ありません!!」
「ぬあにうぉ言ってるんだぁ!? ふぉら! くぉれうぉ見てよ!? つぃい(血)が出てるんだお!? くぉいつぁ死刑どぅあろ!?」
どうやら王子は興奮すると口調がおかしくなるようだ。
「ここは私の国です。殿下、もうお引き取りください」
「むぉおおおぬぁあああ!? ふんぎやあああああっ!!」
完全に目がイッてしまってる王子が、再びお姉さまに掴みかかろうとしたので、足で思い切り掴んでやった。爪がたるんだ肉にくい込んでいる。
「ロイヤルガード!! ボクを守れ!!」
バタン!
厳しい形相で部屋に入ってきた、王子のロイヤルガードたち。
たちまち僕は取り押さえられ、お姉さまと引き離された。
「ハル!」
「お姉さま!」
二人、手を伸ばすが到底届きそうにはない。
「ロイヤルガード、そのまま抑えておけ!!」
「「「はっ!」」」
王子のパンパンに膨れた手が僕に近づく。指をワキワキさせて掴む気満々だ。
怖い。『手』が怖い。
「やめて! ハルに手を出さないで!!」
「よく見ておけ、モナ! ボクに逆らうと君もこうなるのだ!!」
ブチブチブチブチ!!
「うあああっ!!」
両手いっぱいに鷲掴みされた僕の羽根がむしり取られた。
「ハルッ!? なんてことを!!」
ハラハラと僕の羽根がお姉さまの足もとに散らばる。
ブチブチブチブチ!!
「うああああああっ!!」
「ハルうううううっ!!」
ブチッブチッブチッブチチッ!!
「ぶひゃはははは!! ボクの偉大さを思い知るがいい!!」
僕はあまりの痛さに気が遠くなる。肩から先を見ると、乱暴にむしり取られたせいで血が滲んでいる。
「ぶはっ!? 羽根が無くなると『手』でも出てくるのかと思ったが、なんとも見窄らしいものだなっ!? しょせん鳥人間。どちらにも成り損なったバケモノめ!」
ああ、ダメだ。意識が⋯⋯お姉さま!
「さあ、バケモノは大人しくなったな? ロイヤルガード、縛っておけ!」
「はっ!」
「殿下! それ以上の狼藉を働くというのであれば、私はこの場で自害します!! 他の婚約者をお探しください!!」
お姉さまがくだものナイフをその細いのど元に突き立てた。
「も、モナ!? ボクのかわいいお人形さんを傷をつけちゃいけない!! わ、わかったから、そのナイフをいったん置こう! なっ?」
「私はあなたのお人形なんかではありません! こんな私でも人間なのです。弟が傷つけば悲しむし、婚約者が酷いことをすれば悲しみます! これ以上私を悲しませないでください! 殿下、どうか、どうか今日はこのままお引き取りを!」
「モナ? お前はバカか!? 人形は人形だ! 物言わずボクの言うことを聞いておけば良いのだ!」
「では、お別れですね?」
つ⋯⋯。お姉さまの首に当てられたナイフの切っ先からひとすじの赤い雫が垂れる。
「⋯⋯んま、ま、待てい! わかった! 今日のところは引き上げよう! だが良いか? お前はボクの許嫁だ! お前が成人すれば完全に僕のものだ! それだけは揺るがない事実だ! 忘れるなよ!?」
「ええ、覚えておりますとも。私はこの国のために帝国の餌になるのでしょう?」
「ぬぁっはははは! 判っておるではないか! 結婚すればこの僕が貪り食ってやる! それまでにその『希望』の無い『胸』を膨らませておけ!? わかったか!?」
「ええ、勿論ですとも! 牝牛のようにムダ肉でたわわにしてみせますわ!? その時を愉しみにお待ちあそばせ!」
「ふぐはっ!! ⋯⋯ハァ、ハァ、ハァ、よしっ、ボクは帝国に戻って風呂に入る。入浴係を用意しろ!」
「はっ!」
⋯⋯。
ドタバタと
部屋に沈黙が訪れる。
痛さで朦朧とするものの、僅かに意識がある。
お姉さまは僕の隣に来て、カラン、とナイフを落とし、崩れるように床にへたり込み、やさしく僕を抱きしめた。
「ハル⋯⋯」
僕には『手』が無い。
もう、お姉さまを包み込めるような羽根も無い。見窄らしい血染めの鳥肌が痛々しくさらけ出されているだけだった。
僕にも『手』があれば、お姉さまを抱きしめてあげられるのに。
「モナお姉さま⋯⋯」
どうやら僕たちは姉弟揃ってかごの鳥のようだ。
自由なんて、どこにも無かった。
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