紙ヒコーキ告白
朝、彼の下駄箱に手紙を入れる。
それを読んだ彼が翌日、返事を書いて、私の下駄箱に入れる。
最近はそれをずっと繰り返している。
彼の字は下手くそだけど、何度も消しゴムで消した跡があって、すごい丁寧に書いているのがわかって、ああ、たしかに手で書かないと伝わらないことってあるなぁって思った。
悪くないなって感じてきていた。手で字を書いて、思いを伝え合うのも。彼のことも。
手紙を送り合い続けているうちに、いつしか私は彼のことを好きになっていた。
こんな恋愛も悪くないなってようやく思えてきた。
でも、そんな日々は突然終わりを告げることになる。
彼と親しくなって半年くらい経ったころ、日本が劣勢という情報が入ってきた。そして高校生の男子まで戦場に駆り出されることになってしまったようだ。
それが決定した日、私は彼を屋上に呼び出した。
私が屋上に行くと、すでに彼はそこにいて、紙ヒコーキを飛ばしていた。
「また一人で飛ばしているのね」
「ああ、こうしていると自由になれる気がするんだ」
「楽しい? そんなことして?」
「君もやってみるといい。そうすればわかる」
私はノートのページを破って、紙ヒコーキを作って、屋上の中央くらいから、校舎の外に向かって投げた。
しかし、それはあまり飛ばず、縁にあるフェンスにぶち当たってしまった。
「ああっ……もう少しで超えたのに」
「あんな不格好な紙ヒコーキじゃそりゃあな、君は案外手先が不器用なようだ」
「ムッ、なによ、ならあなたがやってみなさいよ」
そう言うと、彼は同じようにノートの何も書いてないページを破って、それで紙ヒコーキを作り、飛ばした。
それはびゅうんと飛んでいき、楽々とフェンスを越えていった。
「あんなに飛ぶものなのね」
青々とした空を駆けていく紙ヒコーキに見惚れていると、彼が得意げな顔になった。
「すごいだろ?」
「ええ、そうね」
「ああ……俺もあんな風に自由に空を飛べたらなぁ」
なんて言って紙ヒコーキを見つめる彼の横顔が、なんだかすごく儚く見えて、私は急に不安になってしまった。
「ねぇ、あなたは死なないよね?」
「死ぬかもしれない」
「そんな……それでも行くの?」
「行かないわけにはいかないさ」
「死ぬかもしれないんだよ、どうして国のためにそこまでできるの?」
と言うと、彼は首をゆっくりと左右に振った。
「国のためじゃない、君を守るために僕は行くんだよ」
ドキッとしてしまう。
ずるい。そんなこと急に言ってくるなんて。
顔が熱い。彼の顔を直視できない……。
「羽崎君……」
「なんてな、なに感動してるんだ?」
と言って、彼がからかうように笑ってきた。
「へ?」
「僕は後方勤務なんだ、まず死ぬことはない、だから大丈夫だ」
「はぁ、なによそれ、心配して損した!」
もう知らない、こんな奴!
彼に背を向けて歩き出すと、背後から声がかかる。
「どこへ行くんだ?」
「帰るのよ、もう!」
そう言って屋上を出ようとしたとき、何かが後頭部に当たった。
振り返ると、地面に紙ヒコーキが落ちていた。
「なにするのよ、ばかぁっ、ぶっ殺してやる!」
「はははは、それは逃げないとなぁ」
狭い屋上で彼を追いかけるが、彼は足が速く、あっという間に私から離れて、屋上から出て行ってしまう。
まったくもう、今度会ったら、私もやり返してやる。
そう思って紙ヒコーキを拾う。
少しクシャッとなってしまっていたので、折りなおそうと開いたとき、そこに何かが書かれていることに気づいた。
君のことを愛しています
そう書かれていた。
……ばか、普通に言いなさいよ。
そして次の日、彼は戦場へ行った。
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