第16話 世界裂け目・第二層
第二層へ、
足を踏み入れた瞬間、
感覚が、
裏返った。
上下が、
曖昧。
地面を、
踏んでいるはずなのに、
身体は、
落下しているように、
感じる。
「……反転、
してますね」
視界の端で、
空と地面が、
ゆっくり、
入れ替わる。
赤かった空は、
黒に近い紫へ。
代わりに、
足元が、
ぼんやりと、
光っている。
「ここは、
法則が、
逆」
レーシャの声が、
慎重になる。
「重いものが、
軽く、
軽いものが、
重い」
「……剣が、
重い」
さなえは、
腕を振る。
いつもなら、
身体の一部のように、
動く剣が、
鈍い。
「力を、
込めるほど、
動かない」
「そう」
レーシャは、
肯定した。
「この層では、
意思が、
抵抗になる」
意味は、
すぐに分かった。
剣を、
強く握ると、
腕が、
沈む。
逆に、
力を抜くと、
ふわりと、
浮いた。
「……なるほど」
さなえは、
深く息を吐く。
剣神として、
何度も、
極限を、
越えてきた。
力を、
足すのではない。
削ぎ落とす。
構えを、
解く。
剣を、
握っているだけ。
斬ろうと、
しない。
その瞬間、
剣が、
自然に、
動いた。
「……軽い」
足元の光が、
揺らぐ。
そこから、
人影が、
立ち上がった。
いや――。
人に、
似ているだけ。
顔が、
ない。
代わりに、
胸の中央に、
大きな、
穴。
「第二層の、
守護体」
レーシャが、
告げる。
「存在を、
否定された、
残骸」
人影が、
歩み寄る。
一歩ごとに、
周囲の色が、
薄くなる。
「……世界を、
消してる」
剣を、
構えない。
ただ、
立つ。
人影の手が、
伸びる。
触れられれば、
存在そのものを、
削られる。
だが、
恐れは、
なかった。
剣神は、
斬る前に、
理解する。
「あなたは、
敵じゃない」
静かに、
語りかける。
人影が、
止まった。
穴の奥が、
わずかに、
揺れる。
「……迷子、
ですね」
剣を、
そっと、
差し出す。
斬るためではない。
境界を、
示すため。
剣の輪郭が、
淡く、
光った。
人影は、
その光に、
触れ――
崩れた。
消滅ではない。
溶けるように、
地面へ、
還る。
同時に、
周囲の色が、
戻った。
「……救済、
した?」
「うん」
レーシャの声が、
少し、
優しくなる。
「剣神の、
本質だね」
「斬るだけが、
剣じゃない」
その瞬間。
頭の奥に、
映像が、
流れ込んだ。
――異世界。
血に、
染まった、
戦場。
剣を、
振るう、
男。
バッカス。
自分自身。
「……これは」
「記憶」
レーシャが、
告げる。
「この層は、
過去を、
引き出す」
映像の中で、
バッカスは、
勝ち続けていた。
敵を、
斬り。
仲間を、
守り。
だが――。
最後は、
孤独だった。
剣を、
握る手は、
一人。
「……強すぎた」
さなえは、
呟く。
「だから、
滅びた」
映像が、
消える。
目の前に、
巨大な、
門。
第二層の、
終端。
門には、
文字が、
刻まれている。
――力を、
求める者は、
入るな。
――守る者のみ、
進め。
「……試されてますね」
剣を、
背中に、
収める。
そして、
門に、
手を置いた。
重く、
だが、
拒絶は、
ない。
門が、
静かに、
開く。
その先に、
感じる気配。
強大。
だが、
邪悪ではない。
「第三層……」
レーシャが、
呟く。
「世界裂け目の、
中核だ」
さなえは、
一歩、
踏み出した。
過去を、
背負い。
剣神の、
記憶を、
抱え。
それでも、
前へ。
今度は、
一人ではない。
この世界で、
守るものが、
ある。
だから、
三橋さなえは、
進む。
剣を、
振るう理由を、
はっきりと、
胸に抱いて。
世界裂け目、
第二層。
その試練は、
確かに、
乗り越えられた。
だが、
本当の、
敵は――
まだ、
姿を、
現していない。
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