第15話 世界裂け目・第一層
赤い空の下、
乾いた風が、
肌を打つ。
地面は、
岩と砂が、
入り混じり、
ひび割れている。
日本の湾岸とは、
到底、
思えない光景だ。
「……第一層、
という感じですね」
さなえは、
周囲を見渡す。
地形は、
単調。
だが、
空間そのものが、
歪んでいる。
距離感が、
曖昧だ。
歩いても、
近づいているのか、
離れているのか、
分からない。
「注意して」
レーシャの声が、
静かに響く。
「ここは、
世界の、
縫い目」
「縫い目?」
「現代世界と、
異界が、
無理やり、
縫い合わされてる」
専門用語ではない。
だが、
感覚的に、
理解できた。
剣を、
軽く振る。
空気が、
遅れて、
裂けた。
「……反応が、
鈍い」
いつもなら、
剣の動きに、
即座に、
世界が応える。
だが、
ここでは、
ワンテンポ、
遅れる。
「剣神の力が、
減衰してる?」
「正確には、
拒否されてる」
レーシャは、
苦笑する。
「この層は、
まだ、
世界じゃない」
「境界、
そのものだよ」
その瞬間。
地面が、
盛り上がった。
砂が、
吹き上がる。
「――来る!」
反射的に、
後退。
地中から、
這い出てきたのは、
獣型の魔物。
四足。
だが、
関節の向きが、
おかしい。
首が、
前後、
両方に、
曲がっている。
「……気持ち悪い」
だが、
視線は、
冷静だ。
魔物が、
吠えた。
音が、
遅れて、
耳に届く。
「音速も、
歪んでる」
踏み込む。
剣を、
水平に振る。
――だが。
刃が、
すり抜けた。
「っ!」
実体が、
ない。
いや、
ある。
だが、
位相が、
ズレている。
専門用語で言えば、
位相とは、
存在の位置。
同じ場所に、
いても、
重ならなければ、
触れられない。
魔物の爪が、
迫る。
紙一重で、
回避。
頬を、
風が、
掠めた。
「……なるほど」
笑みが、
浮かぶ。
恐怖より、
理解が、
先に来た。
「合わせれば、
いい」
呼吸を、
整える。
剣神として、
学んだこと。
剣は、
世界に、
合わせるもの。
ならば――。
世界が、
歪んでいるなら、
剣も、
歪ませる。
意識を、
刃に、
集中。
刃先が、
揺らぐ。
現実と、
ずれた、
輪郭。
魔物が、
再び、
飛びかかる。
今度は、
避けない。
剣を、
突き出す。
――ズン。
鈍い感触。
手応え。
刃が、
魔物の核を、
貫いた。
遅れて、
血が、
噴き出す。
魔物は、
悲鳴を上げ、
崩れ落ちた。
砂に、
溶けるように、
消える。
「成功、
ですね」
「うん。
さすが」
レーシャの声が、
少し、
安心した調子になる。
だが――。
地面が、
再び、
震えた。
今度は、
一体ではない。
複数。
四方から、
気配。
「……群れ」
息を、
吐く。
「第一層で、
これですか」
剣を、
構える。
腕が、
軽い。
力は、
まだ、
抑えられている。
だが、
技は、
残っている。
「レーシャ」
「なに?」
「ここ、
長居すると、
まずいですね」
「うん。
世界が、
あなたを、
学習し始めてる」
魔物たちが、
じりじりと、
距離を詰める。
赤い空が、
さらに、
濃くなる。
「――なら、
先へ進む」
さなえは、
一歩、
踏み出した。
逃げではない。
前進だ。
この裂け目の、
奥に、
原因が、
ある。
第一層は、
ただの、
入り口。
剣神の力が、
通じないなら、
通じる形に、
変えるだけ。
魔物が、
一斉に、
襲いかかる。
その中心へ、
飛び込む。
剣が、
歪み、
世界を、
切り裂いた。
血と、
砂が、
舞う。
そして――。
空間の、
奥に、
もう一つの、
裂け目が、
見えた。
「……次が、
第二層」
呟く。
第一層は、
突破した。
だが、
ここからが、
本当の、
世界裂け目。
三橋さなえは、
剣を握り、
赤い空の下、
進み続ける。
剣神として。
そして、
一人の、
探索者として。
戦いは、
まだ、
始まったばかりだ。
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