第14話 独立探索者
国家との契約は、
想像以上に、
静かに行われた。
場所は、
都内にある、
旧研究施設。
外見は、
ただの老朽ビル。
だが、
地下へ降りるほど、
空気が、
重くなる。
「ここが、
国家探索局、
特別管理区画だ」
葛城あきらが、
淡々と説明する。
同行しているのは、
あのスーツの男。
名は、
鷹宮 恒一。
国家監査官。
感情を、
表に出さない人物だ。
「三橋さなえ」
名前を呼ばれ、
足を止める。
「本日付で、
あなたは、
特別独立探索者に、
認定されます」
端末が、
差し出された。
契約文書。
長い。
だが、
核心は、
単純だ。
――国家は、
命令できない。
――だが、
拒否すれば、
監視は、
厳しくなる。
剣を、
奪われない。
それだけで、
十分だった。
「異議は?」
鷹宮が、
確認する。
「ありません」
即答。
指先で、
電子署名を、
入力した。
ピッ、
という音。
それだけで、
立場が、
変わった。
「これで、
正式だ」
葛城が、
小さく息を吐く。
「おめでとう、
と言うべきかは、
分からんがな」
「構いません」
さなえは、
前を向いた。
部屋を出ると、
別室へ、
案内される。
中には、
一人の老人。
背筋は、
驚くほど、
真っ直ぐだ。
「久しいな」
低く、
よく通る声。
「……学園長?」
大森喜助。
探索者育成学園の、
学園長。
「驚いた顔だ」
「なぜ、
ここに?」
「わしは、
国家探索局の、
顧問も、
やっとる」
さらりと、
とんでもない事を言う。
「君は、
これから、
忙しくなる」
大森は、
机の上に、
一枚の資料を置いた。
「世界同時多発、
異常ダンジョン」
文字を見た瞬間、
背筋が、
冷える。
「通称、
世界裂け目」
「ダンジョンが、
都市部に、
直接、
出現している」
「日本だけ、
ではない」
写真が、
いくつも並ぶ。
欧州、
北米、
中東。
規模は、
すべて、
特級。
「既存の、
探索者では、
対応不能だ」
大森の目が、
鋭く光る。
「君の、
限定解除は、
世界に、
波紋を、
広げた」
「だから、
呼ばれた?」
「そうだ」
沈黙。
さなえは、
資料を、
閉じた。
「行けば、
戻れませんか?」
「戻れる」
即答。
「だが、
元の世界とは、
違う」
それで、
十分だった。
「……分かりました」
頷く。
大森は、
満足そうに、
目を細めた。
「では、
準備だ」
「まずは、
日本国内、
第一裂け目」
場所は、
湾岸地区。
人口密集地。
最悪の、
条件だ。
現地。
規制線の向こうに、
歪む空間。
空が、
割れているように、
見える。
「……本当に、
裂け目だな」
山岡が、
呟く。
同行するのは、
精鋭のみ。
葛城、
数名の上位探索者、
そして、
さなえ。
「入れるのは、
三橋さんだけだ」
葛城の声が、
低くなる。
「内部の、
圧が、
異常だ」
さなえは、
前に出る。
裂け目の前で、
剣を抜いた。
――バッカス。
かつての名が、
胸をよぎる。
だが、
今は違う。
「三橋さなえ、
行きます」
踏み出す。
空間が、
ねじれ、
視界が、
白くなる。
次の瞬間。
赤い空。
荒れた大地。
異世界に、
よく似ている。
だが、
どこか、
違う。
「……混ざってる」
レーシャの声。
「世界が、
重なり始めてる」
遠くで、
何かが、
動いた。
巨大な影。
ドラゴンに、
似ているが、
違う。
「新種、
ですか」
「うん。
世界の、
歪みそのもの」
剣を、
握り直す。
恐怖は、
ない。
むしろ、
懐かしい。
「――来なさい」
静かに、
言った。
影が、
咆哮を上げる。
空が、
震えた。
独立探索者、
三橋さなえ。
その名が、
世界に、
刻まれる瞬間は、
もう、
始まっている。
剣神の、
覚醒は、
まだ、
序章に過ぎない。
戦いは、
これから、
世界規模へ、
拡がっていく。
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