第11話 管理外ダンジョン


 


 管理外ダンジョンは、

 空気が違った。


 


 湿り気を含んだ風。

 鼻を刺す鉄の匂い。


 


 それだけで、

 ここが

 「守られていない場所」だと

 理解できる。


 


 入口前に立つ

 金属製のゲート。


 


 探索者ギルドの紋章が、

 鈍く光っていた。


 


 「……ここから先は、

 本当に実戦です」


 


 毛利ゆきなが、

 確認するように言う。


 


 今日の任務は、

 学園実習ではない。


 


 ギルド正式依頼。

 危険度ランクC。


 


 浅層ではあるが、

 事故死も報告されている

 ダンジョンだった。


 


 編成は、

 四人。


 


 三橋さなえ。

 槍使いの青年、篠崎。

 盾役の中年探索者、山岡。

 回復術士の女性、柊。


 


 全員、

 学園外の探索者。


 


 さなえだけが、

 学生であり、

 特別管理対象。


 


 その事実が、

 微妙な距離感を

 生んでいた。


 


 「……噂の子、か」


 


 山岡が、

 さなえを横目で見る。


 


 敵意ではない。

 だが、

 警戒は隠していない。


 


 「無理はしないでくれ。

 俺たちは、

 実績を積みに来たんだ」


 


 「承知しています」


 


 さなえは、

 淡々と答えた。


 


 「私も、

 同じです」


 


 毛利が、

 端末を操作する。


 


 「制限条件、

 再確認します」


 


 「三橋さんは、

 限定解放のみ。

 出力上限、

 二〇%」


 


 その数字に、

 篠崎が、

 小さく眉を上げた。


 


 「……二〇で、

 あの評価?」


 


 「口に出さない」


 


 毛利が、

 ぴしりと言う。


 


 ゲートが、

 ゆっくりと開く。


 


 中は、

 自然洞窟型。


 


 天井は高く、

 足場は悪い。


 


 「先行します」


 


 さなえが、

 一歩踏み出す。


 


 反対されるかと

 思ったが、

 誰も止めなかった。


 


 ――察している。


 


 自分が、

 索敵要員として

 最適だと。


 


 感覚を広げる。


 


 魔力の流れ。

 空気の歪み。

 微かな音。


 


 「……前方、

 魔物反応。

 数、五」


 


 その瞬間、

 全員の動きが

 引き締まった。


 


 「配置は?」


 


 「散開。

 距離は、

 やや広め」


 


 「了解」


 


 篠崎が、

 槍を構える。


 


 山岡が、

 盾を前に出す。


 


 角を曲がった先で、

 魔物が現れた。


 


 オーク。


 


 浅層にしては、

 珍しい。


 


 体格が良く、

 武器も持っている。


 


 「……想定より、

 上だぞ」


 


 山岡が、

 低く唸る。


 


 「下がりますか?」


 


 柊が、

 問いかける。


 


 「いいえ」


 


 さなえが、

 答えた。


 


 「行けます」


 


 短い言葉。


 


 だが、

 迷いはなかった。


 


 「……信じるぞ」


 


 山岡が、

 前に出る。


 


 戦闘開始。


 


 盾が、

 最初の一撃を受け止める。


 


 衝撃音。


 


 篠崎の槍が、

 脇腹を狙う。


 


 だが、

 一体が、

 さなえの方へ

 突進してきた。


 


 ――速い。


 


 だが、

 驚きはない。


 


 一歩、

 踏み込む。


 


 剣を、

 振る。


 


 制限下。


 


 だが、

 刃は、

 確実に急所を

 捉えた。


 


 オークが、

 崩れ落ちる。


 


 「……っ!」


 


 篠崎が、

 一瞬、

 動きを止めた。


 


 その隙を、

 別のオークが

 突く。


 


 「篠崎!」


 


 山岡の声。


 


 間に合わない。


 


 さなえは、

 考えるより先に

 動いていた。


 


 距離を詰める。


 


 剣を、

 横に払う。


 


 だが――


 


 刃が、

 止まった。


 


 見えない壁。


 


 【制限警告】

 【出力超過】


 


 「……っ」


 


 次の瞬間、

 衝撃が来た。


 


 オークの一撃が、

 さなえを

 弾き飛ばす。


 


 「三橋!」


 


 地面を転がり、

 すぐに体勢を立て直す。


 


 痛みは、

 軽い。


 


 だが、

 内側が、

 ざわついた。


 


 ――足りない。


 


 この制限では、

 仲間を

 守りきれない。


 


 その感情に、

 世界が

 反応した。


 


 視界が、

 一瞬だけ

 白くなる。


 


 【世界干渉率:上昇】


 


 「……レーシャ」


 


 心の中で

 名を呼ぶ。


 


 返事は、

 ない。


 


 だが、

 代わりに

 「圧」を感じた。


 


 上から、

 見られている。


 


 「柊、

 回復!」


 


 山岡の声で、

 意識を戻す。


 


 「了解!」


 


 光が走る。


 


 戦闘は、

 辛うじて

 持ち直した。


 


 最後の一体を

 倒した時、

 全員が

 荒く息をしていた。


 


 「……助かった」


 


 篠崎が、

 深く頭を下げる。


 


 「俺のミスだ」


 


 「いいえ」


 


 さなえは、

 首を振った。


 


 「私が、

 止められなかった」


 


 その言葉に、

 山岡が、

 じっと

 さなえを見る。


 


 「……制限、

 きついんだな」


 


 「はい」


 


 短く答える。


 


 「それでも、

 前に出る」


 


 その言葉に、

 誰も

 反論しなかった。


 


 だが、

 さなえは

 感じていた。


 


 管理外では、

 制限は

 足枷になる。


 


 世界は、

 それを

 試している。


 


 剣神を、

 必要とするか。


 


 それとも、

 拒むか。


 


 管理外ダンジョンは、

 静かに、

 答えを

 迫っていた。


 


 ――次に限界を迎えるのは、

 いつか。


 


 三橋さなえは、

 剣を握り直し、

 奥へと進んだ。


 


 試練は、

 まだ

 始まったばかりだった。

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