第10話 特別管理探索者
翌朝、
学園の空気は、
目に見えて変わっていた。
廊下を歩くたび、
視線が、
わずかに逸れる。
ひそひそと、
抑えた声。
「……聞いた?」
「本当らしいよ」
内容までは、
聞こえない。
だが、
十分だった。
三橋さなえは、
特別管理探索者。
その肩書きは、
一夜にして、
学園中に広がっていた。
教室に入ると、
空気が、
一瞬止まる。
誰も、
露骨な態度は取らない。
だが、
距離は、
確実に生まれていた。
席に着き、
静かに息を吐く。
――想定内だ。
異世界でも、
強さは、
孤立を生んだ。
羽柴とおるが、
教室に入ってくる。
いつも通りの顔。
だが、
目だけが、
少しだけ、
真剣だった。
「……今日は、
特別授業だ」
そう告げると、
教室がざわつく。
「管理下ダンジョン、
実地演習を行う」
その言葉に、
生徒たちの顔が、
引き締まった。
管理下ダンジョン。
それは、
ギルドが完全に制御し、
危険度を、
人為的に抑えた場所。
実戦に近いが、
死のリスクは、
極限まで低い。
「今回は、
三橋を中心に、
班を組む」
その瞬間、
教室の視線が、
一斉に集まった。
さなえは、
何も言わない。
言えば、
余計な摩擦を生む。
集合場所は、
学園地下、
第二区画。
そこに、
見慣れない顔がいた。
「探索者ギルド、
監督官の、
毛利ゆきなです」
柔らかな声。
だが、
その瞳は、
鋭かった。
「今回の演習、
三橋さんの、
行動を、
全て記録します」
笑顔だが、
有無を言わせない。
「よろしくお願いします」
さなえは、
頭を下げた。
班員は、
三名。
槍使いの男子。
回復術士の女子。
盾役の男子。
どれも、
優秀だ。
だが、
緊張が、
隠せていない。
「……あの、
本当に、
一緒で大丈夫ですか?」
回復術士が、
小さく聞いてくる。
「問題ありません」
即答する。
「指示は、
最小限にします。
普段通り、
動いてください」
その落ち着いた口調に、
三人は、
少しだけ、
安心したようだった。
ゲートが開く。
管理下ダンジョン、
階層一。
内部は、
人工的に整えられた、
石造りの通路。
魔力濃度は、
低め。
「索敵、
開始」
さなえは、
小さく告げる。
感覚を、
研ぎ澄ます。
――いる。
三体。
角を曲がった先。
「前方、
ゴブリン三。
配置は――」
説明を終える前に、
班員が、
動き出した。
連携は、
良好。
盾が前に出て、
槍が突く。
さなえは、
後方で、
剣を構えたまま、
動かない。
必要がない。
だが、
一体が、
予想外の動きをした。
壁を蹴り、
回り込む。
「右!」
声と同時に、
さなえは、
一歩踏み出した。
剣を振る。
最小の動作。
それだけで、
ゴブリンは、
床に崩れ落ちた。
音も、
衝撃も、
ほとんどない。
班員たちが、
目を見開く。
「……今の」
「続行」
短く告げる。
それ以上、
何も言わせない。
その後も、
戦闘は、
滞りなく進んだ。
さなえは、
必要な時だけ、
剣を振る。
無駄は、
一切ない。
演習終了。
地上に戻ると、
毛利が、
端末を確認していた。
「……素晴らしいですね」
素直な感想。
「管理値、
完全に、
範囲内です」
「そうですか」
淡々と返す。
毛利は、
少しだけ、
表情を崩した。
「怖くないんですか?」
唐突な質問。
「何が?」
「その力が、
自分を、
縛ること」
さなえは、
少し考えた。
「……怖くないと言えば、
嘘になります」
正直な答え。
「でも、
剣を持てるなら、
それでいい」
毛利は、
小さく息を吸い、
頷いた。
その日の夕方。
学園長室に、
呼び出しがかかる。
そこには、
大森学園長と、
葛城あきらが、
並んでいた。
「三橋さなえ」
葛城が、
静かに告げる。
「君に、
正式な任務が入った」
「……任務?」
「管理下ではない、
通常ダンジョンだ」
空気が、
一段、
重くなる。
「もちろん、
条件付きだがな」
さなえは、
視線を上げた。
それは、
試されるということ。
探索者として。
そして、
この世界に、
剣神が、
必要かどうかを。
「……受けます」
即答だった。
葛城は、
満足そうに、
口角を上げた。
「いい目だ」
こうして、
三橋さなえは、
学園の枠を越え、
探索者として、
歩き出す。
特別管理探索者。
その名は、
守りであり、
鎖でもある。
だが、
彼女は、
剣を選んだ。
――進むために。
次に待つのは、
管理の外。
本当の、
ダンジョンだった。
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