第3話 学園へ


 


 黒塗りの車が、

 静かに正門前で停まった。


 


 車窓の外に広がる光景を見て、

 三橋さなえは、

 わずかに息を吐く。


 


 ――ここが、

 探索者育成学園。


 


 敷地は広大で、

 校舎は近代的な造りをしている。

 だが、

 どこか張り詰めた空気が漂っていた。


 


 命を扱う場所。

 それを、

 肌で感じ取れる。


 


 「お嬢様、

 到着いたしました」


 


 運転手の声に、

 短く頷く。


 


 「ありがとう」


 


 車を降りた瞬間、

 周囲の視線が集まった。


 


 四星財団の令嬢。

 それだけで、

 注目を浴びる理由になる。


 


 だが、

 気にする余裕はなかった。


 


 視線の中に、

 武器を見る者の目がある。


 


 探索者の卵たち。

 甘さと、

 焦りが混じった眼差し。


 


 ――悪くない。


 


 受付を済ませ、

 案内されたのは、

 第一訓練棟だった。


 


 広いホールに、

 同年代の生徒が集まっている。


 


 ざわめき。

 期待。

 不安。


 


 かつて、

 自分もこの空気を

 何度か味わった。


 


 異世界でも、

 そして今も。


 


 「――静かに」


 


 低く、

 だがよく通る声が響いた。


 


 一瞬で、

 場が静まり返る。


 


 前に立っていたのは、

 体格のいい老人だった。


 


 白髪混じりの短髪。

 背筋は伸び、

 眼光が鋭い。


 


 「学園長の、

 大森喜助だ」


 


 名乗っただけで、

 圧が伝わってくる。


 


 歴戦の探索者。

 それが、

 一目で分かった。


 


 「ここに立っているということは、

 お前たちは全員、

 ダンジョンに足を踏み入れる覚悟がある、

 ということだ」


 


 言葉は簡潔だが、

 重い。


 


 「覚悟のない者は、

 今すぐ帰れ。

 命は、

 やり直しがきかん」


 


 数秒の沈黙。


 


 誰も動かなかった。


 


 大森は、

 満足そうに頷いた。


 


 「よし。

 では――

 生き残れ」


 


 その言葉で、

 式は終わった。


 


 続いて、

 各クラスへと分かれる。


 


 さなえのクラスを担当するのは、

 若い男だった。


 


 「一年三組担任、

 羽柴とおるだ」


 


 二十代前半。

 まだ学生の面影が残るが、

 目は真剣だ。


 


 「君たちには、

 探索者としての基礎を、

 徹底的に叩き込む」


 


 淡々とした説明の後、

 最初の授業は、

 基礎体力測定となった。


 


 走力、

 筋力、

 反射神経。


 


 どれも、

 一般人を大きく上回る。


 


 だが、

 さなえの番になると、

 空気が変わった。


 


 計測器が、

 異音を立てる。


 


 「……え?」


 


 羽柴が、

 端末を二度見した。


 


 数値は、

 突出している。


 


 だが、

 限界を超えてはいない。


 


 「測定ミスか?」


 


 再測定。


 


 結果は、

 変わらなかった。


 


 「……身体能力は高いが、

 スキル反応が、

 ほぼゼロ?」


 


 羽柴は、

 本気で困惑していた。


 


 周囲の生徒も、

 ざわつく。


 


 「次は、

 武器適性だ」


 


 訓練場に移動し、

 模擬武器が並べられる。


 


 剣、

 槍、

 斧。


 


 さなえは、

 迷わず剣を取った。


 


 柄を握った瞬間、

 世界が静まる。


 


 ――来た。


 


 足運び。

 重心。

 呼吸。


 


 身体が、

 勝手に最適解を選ぶ。


 


 軽く、

 一振り。


 


 空気が裂けた。


 


 音が、

 明らかに違う。


 


 羽柴が、

 目を見開いた。


 


 「……構えが、

 完成している」


 


 誰かが、

 ごくりと唾を飲んだ。


 


 さなえは、

 剣を収める。


 


 ――やはり。


 


 この身体でも、

 剣は裏切らない。


 


 その様子を、

 少し離れた場所から、

 大森喜助が見ていた。


 


 腕を組み、

 小さく笑う。


 


 「……面白い」


 


 剣神の魂は、

 まだ眠っている。


 


 だが、

 確実に目覚めへ向かっていた。


 


 探索者育成学園での生活が、

 本格的に始まろうとしていた。


 


 嵐の前触れのように、

 静かに。

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