第2話 運命
気まずさと針の音だけが教室に鳴り響く。カチカチとまるで俺の鼓動に合わさているかのように針の音だけが大きくなっていく。数秒程経つと彼女は小さく口を開いた。
「おはよ」
肩まで伸びた髪と綺麗な瞳。それだけが俺の脳を埋め尽くした。可愛いとか綺麗とかそういった感情はどこかに行っていたのだ。緊張から声が出し辛いが声を出す。
「おはよう」
上手く言えた気がしない。ちゃんと聞こえてるかな。そういった心配が胸に広がっていく。そして、今一度思い出す。俺は急いでノートに視線を戻した。
手で文字をなぞる。
「君が告白して失敗した彼女――樋口花と仲良くなる」
何度確認しても、こう書かれてあるだけだな。まてよ、どういうことだ? いや、その、言っている言葉は分かる。ただ起こる状況が分からない。振られた俺がどうして花と仲良くなるんだ?
分からない。だって気まずさだってあるはずだ。それらを打ち消してまでも仲良くなる、とでも言いたいのか? いや、何を真剣に考えているんだよ。そもそもこのノート自体が本物かなんて分からないじゃないか。俺は半信半疑のままノートを閉じた。
結局何も起こらなかった。気が付くと放課後になっていた。何かしら起こるんじゃないかとワクワクしていた俺を返してくれよ。そもそも仲良くなれるはずなんてないとは思っていたけど、どこかしらでは期待なんてするだろ。好きな子と仲良くなれることがどれだけの奇跡か。ため息を吐き窓を眺める。
この景色はいつも変わらない。
小さな木々たちが風に揺れているのが目に見えて分かる。この景色がなんていうか癒しだな。
元々社交的な性格ではなかった。人と話すのは好きだが上手く話すことができない。だから、別に嫌われたって良いと思っていた。噂なんてすぐに消えると思っていたけど、高校生と言う大人は噂を掘り返すことが好きな奴が多い。
消えかけていた噂が変な噂に変わって広まる。よくある話だ。周りの視線がそう言っている。その視線はクラスメイトに向ける視線なのかと問いたいところだけど、そんな無駄なことをしている時間なんてない。
横に掛けてある鞄を手に取り机に置く。そこで誰かの声が聞こえた。
「ねぇ。ちょっと話さない?」
右手で髪を撫でながら気恥ずかしそうにこっちを見ている花が立っていた。驚きのあまり顔を歪める。まてまて、何が起こっている? 早くなる心臓。熱くなっていく視線。それらを肌で感じながら言葉を探していく。
「わ! 分かった」
空き教室には二人の姿がある。一人は緊張のあまり、うまく座れていない男子――和樹。
そしてもう一人は真剣な顔つきで黒板の前に立っている――花。
先ほどまでとは違う雰囲気に息を呑み。俺はゆっくりと顔を上げた。
「その話って何ですか?」
もしかしたら友達になってください! とかそういう系かもしれない。なんて淡い期待をするな俺。
花はどこか悲しそうな表情を浮かべながら和樹を見つめた。綺麗な瞳が和樹の心を癒していく。悩みがストレスがそういった感情たちがゆっくりと消えて行く。
針の音が響く。耳を澄ませば軽音部の楽器が聞こえる。
花は視線を逸らしては和樹を見つめた。ゆっくりと口を開く。
青春のひと時が生まれ……
「私ね。未来ノートを持っているの…………それでね。和樹……あなたは一年後この世にいないの」
花は小さな雫を流した。透明で透き通っている小さな雫を。まだ希望と言うなの悪魔がそこにあることを知らずに。
未来ノートと共にハッピーエンドを @sink2525
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