第4話 回天
太平洋に展開するアメリカの原子力空母「ジョージ・ワシントン」からF16が次々と発艦していく。
さらに、駆逐艦からトマホークが轟音をあげて発射された。
Freedom of the Eastern Seas作戦が開始された。
アメリカの空爆は「精密」という言葉を隠れ蓑に、碧江の大統領官邸ならびに主要な官庁の建物を粉砕した。
碧江の上空からUH-60ブラック・ホークヘリが襲来し、地下壕に退避していた台永良と満晩明を発見。
彼らは、M4カービンを携えた特殊部隊「デルタフォース」により拘束された。
数時間後、動きがあった。首都の独立記念広場に野党の海東国民党党首、陽健洋が姿を現した。
彼はアメリカを後ろ盾に民衆の英雄として壇上に上がった。
「国民の皆さん、国家は皆さんの下僕です!」
その演説に、江間角も、貞安も、誰もが新しい時代の幕開けを確信した。
しかし、程なくして、海東は再び動乱の渦に巻き込まれる。
アメリカによる軍事侵攻から半年後の事だった。
陽健洋は「資源は国民のものであり、不当な外資との契約は見直す」と宣言したのだ。
大統領府の会議室は、空調が効きすぎていた。
磨き上げられた長机の向こうで、アメリカ大使は指を組み、微笑みを崩さなかった。
「大統領閣下。我々は、解放のために多くを支払いました。今さら条件を変えるのは、同盟国として…、」
通訳の声が途切れる前に、陽健洋は手を上げた。
「その必要はありません。私は英語が分かります。」
会議室が静まり返る。
陽は机に置かれた契約書には触れず、窓の外の碧江に一瞬だけ目をやった。
「資源は、この国の地下にあります。地下は、国民のものです。」
大使の眉が、わずかに動いた。
「再交渉を求めます。採掘量、利益配分、環境基準。全てです。」
しばしの沈黙が部屋を支配した。
ただただ、空調の音だけが、規則正しく鳴っていた。
「閣下、それは…、」
「独立国家としての、最低限の話です。」
陽健洋の声は低く、感情を含んでいなかった。
だからこそ、重かったのだ。
アメリカ大使はゆっくりと背もたれに身を預け、微笑みを消した。
「大統領。あなたは、ご自分が何を踏み越えたか、理解しておられない。」
陽は答えなかった。
その沈黙が、すでに答えだった。
この瞬間から、彼を担ぎ上げたアメリカの態度は豹変する。
強硬的な態度にシフトしたアメリカと海東との攻防は続いた。
時に交渉し、時に決裂する。
双方の通商関係者が、両国を往来し、ASEANやAPECでの首脳会談も暗礁に乗り上げた。
ある雨の朝、アメリカの息がかかった軍部がクーデターを起こした。
首謀者は右派強硬派の将校、典界山(てんがいさん)少将であった。
反乱軍は陽健洋を拘束し、形式的な裁判で死刑を宣告する。
数日後、彼は刑場に立つ。
「目隠しは不要!」
これが彼の最期の言葉となった。
長年、彼の良き師であり、相談役でもあった、浄慶和尚もまた、幽閉され、仏教界から追放された。
彼は沈黙の中でこの世を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます