第2話 陰と陽

首都・碧江の賓館。


豪華なシャンデリアの下で、政権党の海東民主人民戦線 議長にして大統領の台永良(たいえいりょう)が、中国国家主席、朱明英(ジューミィンイェン)と向き合っていた。


「大統領、我々は古い友人だ」


朱主席は静かに茶を啜り、本題を切り出した。


「貴国の資源採掘権を我が国に独占的に任せていただけるなら、碧江に最新の高速道路と巨大な港湾を建設しましょう。建設費用はすべて我が国が持ち、労働者もこちらで手配する。貴方の懐を痛める必要は一切ない」


台永良は、目の前の「利権」という名の黄金に目が眩んでいた。


「……それは素晴らしい。我が国も近代化を急がねばなりません。アメリカがうるさく口を出す前に、契約を済ませましょう」


二人の握手によって、海東民国の山々は「インフラ」という名目で切り売りされることが決まった。


それは、国家の独立を差し出す儀式でもあった。


さて、ここに国家の腐敗と堕落を憂う一人の国士がいた。


野党・海東国民党の党首、陽健洋(ようけんよう)である。


精錬潔白にして不正を憎む彼のモットーは「国家は国民の下僕」「政治家と役人は国民の従者」である。


この日、彼は先祖代々の遺骨が安置されている古刹を訪ねていた。


ここには、彼が長年世話になり、良き師にして相談役でもある、浄慶(じょうけい)和尚が庵を構えていた。


「大師、良き政(まつりごと)とは何ぞや?」


振る舞われた茶を飲みながら陽が尋ねると、和尚はにこやかに答えた。


「「慈悲と寛容」こそ天下国家の背骨なり。」


浄慶。


この高僧は、仏教国・海東民国の仏法を司る総責任者であった。


「人皆凡夫なり、故に他力によってのみ救われる。」


和尚の言葉に陽健洋は返す。


「即ちその「他力」の役目こそ政治の役目…。」


和尚は静かに頷いた。

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