第14話「至高の土俵へ」

航は馬体本体の小さな装飾を削り出そうと、

手元で悪戦苦闘していた。三角刀の先がわずかに跳ね、

思うような線にならない。


「航くん、小さなパーツは別に削り出した方がいいぞ」

誠が横から手を添え、刃の角度を示す。


「接合は、どうすればいいんですか?」

航は少し戸惑いながら尋ねた。


「ほぞを切って差し込み、接着する。接着面は木工パテで整えて、

最後に木目を書き込めば違和感は出ん」


「なるほど……やってみます」


一息ついた航が、ふと思い出したように顔を上げる。

「そういえば……昔の艦内では、こういう娯楽はあったんですか?」


「居住区域は狭いし、寝床はハンモックが中心でな。道具を広げる余裕もない」

誠は遠くを見る目になった。

「もっぱらトランプや花札だ。……だが、たまに相撲大会なんぞもやっておった」


響は思わず身を乗り出す。

「その話、ちょっと聞いてみたい」


「よかろう。では、少し昔に戻ろうかの——」


航は削りかけの馬体をそっと机に置いた。

削り屑が微かに舞う。誠の声に耳を澄ますうち、時間はゆっくりと過去へ溶けていった。



居住区の一角、誠と秀樹は花札に興じていた。


「誠、悪いな……勝負は、四光だ」

秀樹が静かに札を置く。

その瞬間、周囲から思わず息を飲むようなどよめきが起こった。


「おまえは昔から、こういうのが得意だよな……勝てる気がしない」

誠は苦笑し、札を伏せる。


「運も実力のうちだろ」

秀樹は肩をすくめる。


背後で、若い兵士たちが声を潜めて囁き合う。


「……まただ」

「“死神”ってやつだろ。秀樹の撃墜した相手、みんな頭部をやられてるって話だ」

「嘘だろ……やっぱあいつ、化け物だ。縁起でもねえ」


誠の耳にも、その囁きは届いた。

秀樹も気づいたのか、札を持つ手が一瞬止まる。


「……誠」

低く、抑えた声だった。


「聞こえたか」

「聞こえた」


秀樹は立ち上がり、噂話をしていた兵士の方へ静かに歩み寄る。

その歩き方が、かえって周囲を緊張させた。


「おい」

呼ばれた兵士が、びくりと肩を震わせる。


「めんどくさい奴だな……消えたいのか」

声は荒れていない。だが艦内の空気が、一段冷えた。


その瞬間、誠がすっと間に入る。


「待て、秀樹」

穏やかだが、はっきりした声だった。

「艦内で刃傷沙汰はご法度じゃ。どうしても決着をつけたいなら——」


誠はにやりと笑う。

「相撲でやれ。正々堂々とな」


周囲がどっと沸いた。

「相撲かよ!」

「久しぶりだな!」

「負けた方が居住区清掃、肩代わりだ!」


横で聞いていた砲術長・岩谷雄太も、即座に口を挟む。

「その程度の話なら、艦内の武術訓練として大会を開こう。酒保から、成績優秀者には景品も出す」


「やったぞ!」

「うおおおおお!」

「腕が鳴るわい!」


こうして、羽黒艦内武術訓練——通称『相撲大会』が開催されることとなった。

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