第2話
遊ぼうよ。
そう言って、
僕は包みを差し出した。
布でくるんだそれを、
少しだけ持ち上げる。
ほら。
これ。
君は、ちらっと視線を落とした。
一瞬。
本当に一瞬だけだったけど、
君の目が、そこで止まったのが分かった。
……花札か。
うん。
ママに教えてもらったんだ。
それは嘘じゃなかった。
店の奥で、
暇な夜に何度も教えてもらった。
君は黙ったまま、
布の包みを見ている。
……それは、
人の遊びではない。
そう言われて、
少し意外だった。
え?
でも、遊びでしょ。
楽しいから、やるんだよ。
君は、何も言わなかった。
でも、
視線はまだ札の上にあった。
……くだらぬ。
そう言いながら、
君は手を伸ばさない。
拒まれているはずなのに、
完全には突き放されていない。
できる?
君も。
そう聞くと、
君の眉が、わずかに動いた。
……できるか、だと。
声が低くなる。
なんで?
できそうだけど。
君は、少しだけ間を置いた。
……主。
勘違いするな。
そう言って、
札を一枚、指で弾いた。
私がやる。
教えてやろう。
その遊びが、
どんなものか。
え。
ほんと?
思わず声が明るくなる。
やった。
じゃあ、君が最初ね。
……勝手なやつだ。
そう言いながら、
君は札を取った。
手つきは、
迷いがなくて、
なんだか当たり前みたいだった。
札を切る音が、
静かな境内に落ちる。
ほら。
差し出された札を、
僕は受け取る。
よく分からないけど、
なんとなく真似をした。
最初は、
僕の方がよく間違えた。
それでも、
君は何も言わなかった。
取った札を並べるたび、
君の指が、
少しだけ止まる。
……そこだ。
短く言われて、
僕は札を見る。
あ、
そっか。
君は何も言わない。
でも、
否定もしない。
勝ったのは、
たぶん君だった。
最後の札を取ったあと、
君は、少しだけ息を吐いた。
……これでいい。
え?
もう終わり?
……今日は、な。
そう言って、
君は札をまとめる。
つまらなそうでも、
怒ってもいない。
またやろうよ。
そう言うと、
君は視線を逸らした。
……気が向けばな。
それだけだった。
でも、
完全な否定じゃなかった。
僕は、札を布に包みながら、
ちょっとだけ嬉しかった。
君と、
同じものを見て、
同じ時間を使った気がしたから。
それが、
遊びってことなんだと思った。
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