第1話

数日間、僕は神社へ通った。


朝でもなく、夕方でもない。

村の大人たちが畑や家に引っ込んで、

子供の声だけが、少し遠くなる時間。


古い神社の石段を上ると、

いつも、同じ場所に君がいた。


御神体の下。

木漏れ日が落ちる影の中で、

君は和服の裾を整えて、目を閉じている。


……また来たのか


声をかけると、

君は目を開けずにそう言った。


怒っているようで、

でも、本気で追い返す気はなさそうだった。


こんにちは


挨拶をすると、

君は少しだけ黙る。


返すかどうか、

迷っているみたいな間。


ここは

遊ぶ場所ではない

何度も言ったはずだ


うん

でも、君がいるから来たんだよ


そう言うと、

君は小さく舌打ちした。


その仕草が、

不思議と子供みたいに見えた。


……好きにしろ

だが、近づくな


そう言いながら、

君は、ほんの少しだけ場所を空ける。


座るな、という距離。

でも、追い出すほどじゃない。


僕は石段に腰を下ろした。


ねえ

君って、毎日ここにいるの?


……違う


少し間を置いてから、

君は答えた。


ここは、休むための場所だ

屋敷は、息が詰まる


屋敷?


聞き返すと、

君は一瞬、しまったという顔をした。


……何でもない

お前が知る必要はない


そう言われると、

余計に気になる。


でも、それ以上は聞かなかった。


じゃあ

ここ、秘密の場所なんだね


……勝手に決めるな


そう言いながら、

否定はしなかった。


君は、怒りっぽくて、

偉そうで、

でも、ひとりでいるのが好きそうだった。


妖怪って、

たぶん、こんな感じなんだと思った。


だから――

一緒にいてあげた方がいい気がした。


ねえ

今日も一緒に遊ぼうよ


……遊ぶなど、くだらぬ


そう言って、

君は視線を遠くへ向ける。


でも、その横顔は、

昨日より、ほんの少しだけ柔らかかった。


理由は、分からなかった。


分からなかったけど、

悪い気はしなかった。


数日間、

君はここに来ていた。


数日間、

僕は君に会いに来ていた。


それが、

どれくらい短い時間なのかなんて、

そのときは、考えもしなかった。

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