第4話 ぽこりん。
通路を進む。
ひかり石を片手に持っているおかげで、真っ暗というほどではない。
淡い光が石壁をぼんやり照らしている。
「……」
数歩進んで、ふと足を止めた。
なんとなく。
本当になんとなく。
振り返る。
そこにあるのは石の台座。
指輪が収まっていた、あの場所だ。
「……」
……気になる。
理由は分からないけど、妙に引っかかる。
俺は引き返し、台座の前に立った。
ひかり石を近づけて表面をよく見る。
「……あ?」
石の表面に……何かが刻まれている?
模様……いや、文字、か?
掠れていて読みづらい。
でも、目を凝らしていくと、
「……ぽ……こ……?」
線が繋がる。
「……りん?」
ぽこりん。
「……」
思わず、口の中でそのまま呟いていた。
「……ぽこりん」
――ぶる
背後で気配が揺れた。
「……!?」
ばっと振り返る。
白い二体は相変わらず、ぴったり距離を保ったまま立っている。
じっっっっ。
でも、よく見ると。
「……ん?」
二体のうち、一体が。
ほんの、ほんの少しだけ。
首を、傾げた……ような?
「……気の所為、か?」
じっと見つめ返す。
白い顔。
三つの穴。
∵
「……まぁ、いいか」
元々得体のしれない化け物なんだ。
どうこう考えても分からないし、分かるはずもないだろ。
でも。
ぽこりん。
もう一度、心の中で呼んでみる。
クエスト表示では■■■■ってなってるけど、正直読めないし言いにくい。
つーか、■■■■ってなんて呼べばいいんだよ。
なんにしても、名前として使うには不便すぎる。
ぽこりん。
台座に刻まれていた文字っぽい模様が、平仮名でそう読めたってだけだけど……
こいつら、ぽこっと生まれたし、ぽこっと生むし。
響きも、まぁ……かわいい、し?
「……いや、全然似合ってねぇけどな」
だって怖いもの。
見た目普通にホラーだし。
おまけに距離感ゼロだし。
でも。
「……ぽこりん、な」
呟くと、二体は相変わらず無言のまま。
ただ、じっと俺を見ている。
……反応あった気がしたの、やっぱ気の所為か。
「ま、いいや」
俺は踵を返し、通路の奥へと向き直った。
一本道だ。
左右に枝道はない。
あるのは苔と石。
そればっかり。
進む途中、壁や地面にひかり苔を見つけるたびに。
「……ぽこりん、回収」
無言。 きゅぽん。
苔、ゲット。
「……石も」
きゅぽん。
小石、ゲット。
だんだん慣れてきた自分が怖い。
コイツラも"ぽこりん"で指示が通るし。
そして、素材がある程度溜まったところで、
「……ぽこりん。クラフトして。ひかり石」
指示すると。
ぶるぶるぶるぶる。
ぽこっ。
白く光る石が一つ、地面に転がる。
「……よし」
それを拾って、ぽいっと通路の端に置く。
淡い光がその場を照らす。
目印だ。
そして、明かり。
「……来た道、分からなくなるのは嫌だしな」
進む。
拾う。
作る。
置く。
単調だけど、確実に前へ進んでいる感じはある。
ひかり石は一つ、常に手に持つ。
明かり代わりだ。
熱はないけど、ないよりは全然いい。
明るいってだけで気持ちに余裕が生まれる。
「……ぶぇっくしょい!」
……盛大なくしゃみが出た。
鼻がつーんとする。
寒気も相変わらずだ。
「……マジで、どうにかしないと」
濡れたパジャマが体に張り付く。
体が冷えていってるのが分かる。
「……このままじゃ、普通に風邪ひくぞ……」
通路は相変わらず一本道。
苔と石ばかり。
まったく変化はない。
「……火、欲しいな」
切実に。
心の底から。
ひかり石は光るだけだし、温かくはならない。
「……ゲームっぽい感じなら、焚き火とか作れないもんかね」
ぼやきながら足を進める。
白い二体――ぽこりんたちは、変わらずぴったり後ろ。
じっっっっ。
近いな。
相変わらず近いぞ。
でも今は、それよりも。
「……あったかいもんが、欲しい……」
それだけだった。
通路の奥はまだ暗い。
けれど、確実に続いている。
嫌でも進むしかなさそうだよなぁ……。
☆
それからしばらく、ひかり石をクラフトしながら一本道を進んだ。
淡い光に照らされた通路に、ぽこりんたちの「きゅぽん」「ぽこっ」って音が定期的に響いている。
いい加減、火が欲しい。
火じゃなくてもいい。
何か温かいものなら。
火を求めて通路を進む。
すると、少し足音が変わった気がする。
こつ、ではなく、こつぅんと。
ちょっとだけ響く感じだ。
「……ん?」
顔を上げる。
天井が……高い?
壁の距離もさっきまでとは明らかに違う。
進むにつれて空間が広がっているようだ。
「……この先になんかあるのか?」
数歩進むと通路が終わった。
その先にあったのは―― 不自然なくらい、開けた空間。
円形に近く、地面は比較的平坦。
壁はぐるりと囲っていて、崩落も多少はあるが危ない気配はしない。
そして。
「……苔、多っ」
ひかり苔が壁にも床にも、いたるところに点々と生えている。
通路より明らかに多い。
まるで、ここだけ意図的に配置されたみたいだ。
「……露骨だな」
ぽつりと漏れた。
"チュートリアル"のことを考えると……まるでこう言われてるみたいだ。
――ここで何かしろ
と。
「……」
入り口にひかり石を一つ置く。
淡い光が辺りを照らす。
何かしろと言うなら……するしかないんだけど。
現実問題、この指輪のチュートリアルに従うくらいしかやることないしな。
無視して自力で現状をどうにかできる自信ないし。
「ぶぇっくしょぉぉい! ……ずび」
……風邪もひきそうだしな。
鼻水も出てきたし。
絞ったとはいえ、濡れたパジャマは乾く気配がない。
「なにか、暖かくて、落ち着いて休めるところ……」
――ぴこん
はい、来ました。
視界の端に文字。
《チュートリアル⑤》
《おうちを作ろう!》
「……おうち?」
おうち……おうちと来たか……。
思わず読み上げてしまった。
このタイミングで出たのはなんでだ?
通路を歩いてるときは、いくら呟いても何も反応なかったのに。
この広い空間に来たから、か?
まぁ、流れ的に次は拠点あたりかなとは思っていたが。
やってること、まんまクラフトゲームだし。
続けて視界の文字列に変化。
《素材を加工して、石壁を作ろう!》
《素材を加工して、石床を作ろう!》
「……壁に、床ねぇ……」
床敷き詰めて壁で囲えば、はい家の出来上がりってか?
屋根はどうすんだ?
マイ◯ラってよりビル◯ーズっぽい感じか……。
たしか屋根なかったしな、あのゲーム。
ぽこりんたちを見る。
お前ら、やれんのか? て視線を向けてみる。
向けたところで、じっと見つめられるだけなんだけど。
「……はい、じゃあ、ぽこりんたち。石の壁と床を作りたい。そこら辺の石でも岩でも、とにかくたくさん集めてきて」
返事はない。
だが、反応は早かった。
二体とも俺の指示を受け、すぐに動き出した。
その辺に転がっている石なんかを手当たり次第に吸い込んでる。
広い空間にきゅぽんという音が反響していく。
一通り見える範囲の素材をきゅぽったぽこりんたちが、とてとてと俺の元へと軽快な足取りで戻ってきた。
「おい、まだあっちにあるぞ。あっちの暗い方も行って素材回収してきて」
足りなくなったらまた行くんだし、こういうのはある程度余裕持ちたい。
しかし、
じっっっ。
指示したのに、ぽこりんたちは首を傾げて動かない。
「……ふむ?」
コイツラの行動範囲がなんとなく分かった気がする。
もしかしたら……俺から一定以上は離れられないのかもしれない。
落ち着いたらその辺りも要検証だな。
「じゃあ、おうちを作るのにいい感じの場所を探そうか。歩きながら素材の回収も」
俺はぽこりんたちを引き連れて歩き出す。
おうち――つまり拠点だと思うが、それを作るならどこがいいんだろう。
水場の近くとかなら色々と捗りそうなものだけど。
歩きながら素材を回収させつつ、良さげな場所を探して回る。
「もうここでいいか……」
ひかり苔が多くて、比較的平らそうな場所で足を止める。
まずは床だな。
直接地面に寝ると辛そうだし。
冷えが直で伝わってくるのは避けたい。
「ぽこりん、石床作ってここに並べて置いてくれ」
指示してみたものの、こんな曖昧な指示で俺の思ったとおりにいけるんかね?
ぶるぶるぶるぶる。
ぽこっ、ぽこっ。
白い石材が次々と吐き出され、地面に並んでいく。
パズルのピースみたいに、隙間なく。
数分もしないうちに、足元が石で覆われた。
「……」
その上に立ってみる。
「……あ」
冷たさが、少しだけ和らいだ。
完全に寒くなくなったわけじゃない。
でも、直接地面に立っていたときよりはマシだ。
「……なるほどな」
石の床。
これだけでも、だいぶ意味はある。
ぽこりんたちは仕事を終えて俺を見上げている。
じっっっっ。
「あぁ……悪くないぞ」
返事はない。
だが、なぜか今は、それでいい気がした。
よし、次は壁だ。
ぽこりん YT @hyt-0107
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