第3話 開庭 甲
第三話 開庭 甲
「
そのふざけた声が弾けた瞬間、凌之助の耳の奥で何かがブチリと音を立てて切れた。
それは理性の糸ではなく、彼をこの世界に繋ぎ止めていた「安全」という名の鎖だった。
目の前で砕け散った知人の頭蓋。飛び散った鮮紅色の飛沫が、凌之助の頬を熱く濡らす。
「ひっ、あ……あ、あ……!!」
悲鳴さえまともに出ない。
膝が笑い、視界が激しく明滅する。
――……逃げなきゃ。ここにいたら死ぬ。殺される――っ!
周囲が「獲物」を探す獣の群れへと変貌していく中、凌之助は本能だけで走り出した。
教室を飛び出し学食を抜け、入り乱れる怒号と肉を断つ音を背に受けながら、無我夢中でキャンパスの境界を目指す。
人が多すぎる場所は死地だ。
慌てふためくも、思考は空前に高速で正確に回転していた。
彼は喉を焼くような呼吸を繰り返し、大学に隣接する小規模な公園へと滑り込んだ。
そこには街頭モニターが設置されており、普段は街のニュースや広告を無機質に流し続けている場所だった。
ここにくれば、人を裂けながら情報を仕入れられるかもしれない。
「はぁ、はぁ……っ、た、助けて……誰か……!」
モニターを見上げる。だが、そこに映し出されていたのは、希望ではなく絶望の延長だった。
画面は激しい砂嵐に飲み込まれ、時折、現実世界のニュースキャスターが顔を歪ませて何かを叫んでいる様子が、音を失ったまま断片的に表示される。
「まじかよッッ……」
スマホを取り出すが、アンテナは一本も立っていない。電波障害ではない。
物理的に「隔離」されているのだ。
「……嘘だろ。外と……繋がってないのか?」
呆然と立ち尽くす凌之助の背後から、激しい足音が近づいてきた。
「いたぞ! 和田毅だ!」
反射的に身を竦めた凌之助の前に現れたのは、先ほどまで学食で合コンの話をしていたサークルの学生たちだった。
彼らは手元に、歪な形状のバールやナイフを握りしめている。
「!! お、お前ら……」
「ワダツミ! お前もこっちに来い! 向こうに、なんか光ってる『穴』があるんだ!」
「穴?!」
一人の学生が指差した先。
公園の植え込みの空間が、不自然に歪み、青白い光を放つ『
社をモデルにしているのか、和風なデザインの門だ。
あの男の台詞が脳内によぎる。
「あ、あれが……出口……!」
希望が胸を衝く。
あそこを潜れば、この悪夢から覚められる。
凌之助は彼らと共に門へ向かって駆け出した。
「さっき、生徒を殺してた先輩は……?!」
「置いてったに決まってんだろ……!」
全力で走りながら、息も絶え絶えに応答をする。
出口は目の前、希望の光である。
しかし、門に到達する直前。
光の漏れる門は一人分が通れるほどの大きさにまで急速に閉じ始めた。
「待て! 急げ、閉まるぞ!」
「どけっ! 俺が先だ!」
焦燥が、彼らの薄い友情を完全に食い破った。
凌之助が門へ手を伸ばそうとした瞬間、横から激しい衝撃が走った。
「あぐっ……!?」
サークルの先輩だった男が、なりふり構わず凌之助の胸元を突き飛ばしたのだ。
「おい、何を……っ!」
「悪いな和田毅! 俺らが先に助かるんだよ。お前は、そう……後でいいだろ!?」
「そうだ、お前みたいな冴えない奴より、俺らの方が生き残る価値があるんだよ!」
学生たちは、縋り付こうとする凌之助の手を冷酷に振り払い、彼を地面に叩きつけた。
一人、また一人と光の中に消えていく。
最後に残った一人が、歪んだ嘲笑を浮かべて凌之助を見下ろした。
「じゃあな、ワダツミ。……お前はそこで、せいぜい隠れてやり過ごせよ」
直後、門は霧散するように消失した。
公園に残されたのは、静まり返った空気と、地面に這いつくばる凌之助一人だけだった。
――…………っ……!!
唇を噛み、力なく地面に手を付く。
「……は、はは……っ」
笑いが漏れた。
乾いた、砂のような笑いだ。
知っていたはずだ。自分はいつだって「端っこ」の人間で、いざという時には真っ先に切り捨てられる、優先順位の低い存在なのだと。
学食での薄っぺらい相槌。
無理に合わせた笑い。
その代償が、これだ。
「……おぃいっ……ふざけんなよ。……ふざけんなよ!!」
誰もいない公園で、凌之助は地面を殴りつけた。
悔しさと、それ以上に、自分を見捨てた連中への殺意に近い憎悪が、胸の奥でドロリと熱を帯びる。
だが、遠くから肉を裂く悲鳴が再び聞こえ始めた。
「うっ……」
凌之助はガタガタと震える体を抱え、公園の公衆トイレの裏、暗い植え込みの隙間に潜り込んだ。
――死にたくない……。まだ、死ねない。……あいつら、絶対、許さない……。けど、怖いいっ。
暗闇の中で、凌之助は自分の鼓動だけを聞いていた。
その耳に、先ほど莉瑠蘭が言った言葉が蘇る。
凌之助。いい名前だね。……僕も、そんな名前が良かったなぁ。
その記憶だけが、今の彼を正気という名の地獄に繋ぎ止めていた。
「なんなんだよ……、何をさせられてるんだよ……!!!」
二
「――
その一言が告げられた瞬間、世界は裏返った。
キャンパスに満ちていた日常の空気は、悲鳴と血臭に塗り替えられ、理性は一斉に崩壊する。
自習室は阿鼻叫喚の地獄と化し、椅子が倒れ、机が引きずられ、泣き叫ぶ声が四方から押し寄せた。
――ウソ……!? もうみんな、暴れて……。
「みんな、落ち着いて! アタシについてきて!」
凛咲の声が、混乱の渦の中心で鋭く響いた。
喉が裂けるほど張り上げた叫び。
だが、それでも声は震えなかった。
彼女は近くにいた友人の手首を掴み、半ば引きずるようにして出口へ向かう。
「り、凛咲ぃ……!!」
泣きじゃくる者、立ちすくむ者、意味もなく笑い続ける者――それらを一瞥し、判断を捨てる。
――考えるな。今は、生き残ることだけ……。
出口付近で、異様な光景が待ち構えていた。
血走った目を剥き、同学部の女子学生が、カッターナイフを振り回して通路を塞いでいる。
口元は歪み、泡を吹きながら意味不明な言葉を吐き散らしていた。
「どいて! 正気に戻って!」
「うるさい……殺さないと……殺さないと、私が死ぬのよ!!」
ナイフが閃く。
凛咲は一歩、斜めに踏み込み、刃の軌道を紙一重で外した。
無駄のない動きで手首を掴み、関節の可動限界まで捻り上げる。
「ぐあああっ!!」
悲鳴とともに、ナイフが床に転がった。
凛咲は視線すら向けず、近くに落ちていた鉄パイプらしき物を拾い上げる。
冷たく、硬質な感触。
剣道で培った手の内が、瞬時にそれを武器として理解した。
「……ごめん」
突き出された二本目の刃を、パイプの腹で叩き落とし、体重を乗せた一撃を鳩尾へ――殺さないが、確実に落とす。
女子学生は白目を剥いて崩れ落ちた。
それからは、ほとんど記憶がない
襲い来る暴徒をかわし、いなし、叩き伏せ、五人の友人を引き連れてキャンパスを脱出する。
辿り着いたのは、大学裏にある、半ばシャッター街と化した古いショッピングモールだった。
埃の積もった床。
非常灯だけが灯る、薄暗い通路。
「……はぁ、はぁ……ここなら……」
安堵の息を漏らし、凛咲は振り返った。
「みんな、とりあえず一安心だからね……」
その瞬間。
「おや。随分と活きのいいのが混じっているな」
背後から届いたのは、氷のように冷たく、異様なほど落ち着いた男の声。
次の瞬間、鈍い肉の破砕音が連続して響いた。
「……え?」
凛咲のすぐ後ろにいた三人の友人が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
腹部は抉り取られ、赤黒い内臓が床に散っていた。
「イヤああぁぁぁあッ!!!」
友人らが叫び声を発する。
黒いコートを纏い、両手に鋼鉄の爪を備えたガントレットを装着した男が、そこに立っていた。
男は返り血に濡れた爪を、愛おしそうに眺め、歪んだ笑みを浮かべる。
その背丈は、2mに達するかの如く偉丈夫だ。
「
「……なんっ……お前……!!」
驚き、怒りが、視界を焼いた。
――なに……?! こいつッ。バケモノ?!
しかし、目の前の男は、異形的な雰囲気を出しているが、紛れもなく人間だ。
凛咲は残った二人を背後に庇い、鉄パイプを正眼に構える。
剣道三段。
極限でも、構えは微塵も揺れない。
だが、
爪が空を裂き、鉄パイプを削り取る。
火花が散った。
――速っっ!?
「いいな。それは人を守るための技術だ。
俺のは人を殺すための技術。勝負にならん」
追撃。回避。衝撃。
――こんなの、……無理、勝てない……!
凛咲は後退しながら、必死に出口を探す。
「逃げろ!! 二人とも、早く!!」
裏階段へ。
狭く暗い通路。
資材置き場に滑り込み、息を殺す。
「………………!!っ!」
だが、
「お、見つけた」
シャッターが紙のように裂ける。
「いやあああ!!」
一人が貫かれた。
「サチ……っ!!」
跳ね返った一撃が、もう一人――ハルを薙ぐ。
深い裂傷。
大量出血。
――まずい!!、ハルッ!!
その瞬間、凛咲の脳裏に、資材置き場に置かれた荷物のタグ、ドラッグストアという文字がフラッシュバックした。
箱を無造作に破り、物色をする。
彼女は躊躇なく中身を掴み、男へと叩きつける。
粉末が舞う。
消毒用エタノール、過酸化水素、刺激性外用薬――混合による強烈な粘膜刺激。
「……なっ、チッ!」
男が一瞬、顔を背けた。
それで十分だった。
ハルを連れ、全速で逃げる。
「くそ、なんだこれは……」
闇に紛れ、男は姿を消した。
「……っ、ハル!!」
救急箱を叩き割り、即席の処置。
薬学徒としての知識が、冷酷に現実を突きつける。
――……たしか、これは。腹部大動脈……多発性外傷……この環境じゃ……。
「い、いや…………。しに、た、死にたくっな………………」
「喋らないで! 大丈夫、アタシが絶対に助けるから……!」
だが、体温は失われていく。
「……ごめん……駅前の……ケーキ……」
それが、最後の言葉だった。
光が、消えた。
凛咲の世界から、色が失われる。
正義は、意味を持たなかった。
努力も、信念も、守る技も。
友人の遺体を抱きしめ、鉄パイプを強く握る。
「……許さない」
正義が通じないなら、自分が罰になればいい。
その日、一人の修羅が生まれた。
通じずとも、宿る正義感は一片の曇りなく、確固たる勇気を、怒りを、凛咲に植え付けた。
三
「……ット、セー。ルスティガ・アット・セー」
跳ねるような、奇妙なリズムの歌が聞こえてくる。
それは、聞いたこともないほど美しい、けれど心臓を冷たい指で撫でられるような不気味な音節の羅列だった。
莉瑠蘭は、血の海と化したアスファルトの上で、ステップを踏んでいた。
「……スモー・グロードルナ、スモー・グロードルナ……」
「さっさと死んでくれよッッ!! なんなんだよガキがぁあ」
襲いかかってきた長身の男の刃物を、彼女は紙一重でかわす。
重力さえ無視したような流麗な動き。
彼は男の懐に滑り込むと、流れる水のように、水中を泳ぐ海蛇のように滑らかで素早い手つきで、人差し指と中指を左目に突き刺した。
ブチュんという音が響き、破裂した眼球から、粘性のある透明なゲル、硝子体が溢れ出る。
血が混じり、それは一瞬で濁った暗色へと変わった。
刺した瞬間、更にグリっと指をねじ込み、即座に抜き取る。
ごぼり、と溢れる鮮血。
莉瑠蘭はその赤を顔に浴び、恍惚とした表情で歌を続ける。
「エイ・エーロン、エイ・エーロン、エイ・スヴァンサル……」
「いっあぁあああがゃあああっ!!」
男は左目を抑えながら、絶叫を発する。
しかし、
「念の為」
そう呟いた莉瑠蘭は、右目にも、指を突き立てる。
瞼を貫通し、またもやドロっとした血と液体が吹き出た。
「あぁ、あォ……」
2回目の叫び声は無かった。
眼動脈へのダメージと、迷走神経反射により、男の意識は失われ地面へと沈んだ。
倒れた男から奪い取ったのは、無骨なタクティカルナイフだった。
彼はそれを逆手に持つと、次に迫る二人組の方へと向き直る。
「ひぁっ……」
一人が恐怖に駆られ、手にした鉄パイプを振り回す。
「か、な、怪物があぁっ!」
莉瑠蘭はその動作の初動を完全に見切り、パイプの軌道の内側を、音楽に合わせて滑るように通り抜けた。
「――
薄い微笑みと、短く吐き捨てられた、鋭利な一言。
直後、莉瑠蘭の腕が閃光のように動いた。
一人目の膝の裏を切り裂き、崩れ落ちた男の首筋にナイフを深々と突き立てる。
「ぅグ、ぶっ」
「てめぇ……!」
二人目が背後から組み付こうとするが、彼は驚異的な柔軟性でその腕をすり抜け、拾ったばかりの折れたフェンスの破片を、男の眼窩へ躊躇なく叩き込んだ。
「……ハーヴァ・デ。イヒヒ……っ、あははは」
歌声と笑い声が混ざり合う。
彼の戦いには、迷いも、怒りも、慈悲もない。
あるのは、「効率」と、それを楽しむための「嗜虐性」だけだ。
莉瑠蘭は、男の首からナイフを抜き取り、手近な死体の服で刀身の血を拭うと、それをポイと放り捨てた。
「……やっぱり。しっくりこないな」
艶消しの黒いサイドゴアブーツを鳴らしながら、歩き出す。
足元の死体など気にせず、小石を無意識に踏むように頭や足を踏んずけて軽快に進む。
「……Ej öron, ej öron, ej svansar……ハーヴァ・デ……」
流暢で透き通った歌声を零し、フラフラと目的地も何も考えずに道路を歩む。
先程までの、億劫そうに大講義棟に向かう周りに一切の関心を示さなかった莉瑠蘭とは、大層な差があった。
血濡れた住宅街を優雅に闊歩する様子は、この世界を、この庭園の居心地を満喫しているようだ。
「…………あぁ。」
突然立ち止まり、鼻を鳴らす。
スンスン。
ネコ科の捕食動物が獲物を見つけたかの如き、眼光の鋭さ。
「……ここかな」
本能的な勘か、予感を嗅ぐ嗅覚か。
莉瑠蘭の足は、1つの大きな建物の前で止まった。
大学付近にある、一部シャッター街と化したショッピングモールだ。
ショッピングモールの自動ドアは、すでにその機能を失い、粉々に砕け散っていた。
根城にする者、獲物を探す者、または逃げ込んだ人々がいたのだろうか。
かなり荒らされてしまっている。
かつては家族連れやカップルの笑い声が満ちていた吹き抜けのホールには、今や重く湿った死の匂いと、壊れたスピーカーが繰り返す、無機質な緊急放送のノイズだけが反響している。
薄暗く、灯りが点滅している場所もあるが、殆どのエリアが暗く、冷たいシャッターで囲まれていた。
流石に人は見当たらないが、閉じていない店舗の商品棚や、散乱した商品のポップがなんとも虚しく痛ましい。
冷たいタイルに、靴の音が波紋のように広がる。
ゲームの展開は速く、世が混乱に陥っているもののモールの中は静かだ。
「……………………。」
独り言すら喋らず、静かに莉瑠蘭は周りを見渡す。
通路。
階段。
止まったエスカレーター。
薄暗いドラッグストア。
「………………………………。」
ただ無表情に、冷静に狩りをする獣の雰囲気だ。
カン……。
微かな足音を、莉瑠蘭の耳は聞き逃さなかった。
音が届いた瞬間左耳がピクリと小さく動く。
目を細め、音の方向へ顔を向けた。
足音はもう鳴らない。今は、空気の張り詰める不穏な色が蔓延している。
――…………。
「なんだ、また子羊か」
突如、低い男の声がモール内に反響した。
莉瑠蘭の目線の先には、いつの間にか長身の男が佇んでいた。
「先程は羊に蹴られたところだからな……。憂さ晴らしにもうってつけか」
薄暗い空間から現れたのは、コートを着た偉丈夫。
日本人らしからぬ身長と体型。そして堀の深い顔立ち。
髪の毛はオールバックに後ろで結んでいる。
しかし、何より目を奪われるのは彼が装着している『篭手』だった。
黒鉄色に薄明かりを反射しているそのガントレットは非常に大きく重厚で、爪のような棘の装飾が成されている。
「こんばんは。あー、こんにちは……?
その何もかもが異様な光景に、一切の物怖じを感じていない様子の莉瑠蘭は後頭部を摩っていた。
「どちらでも結構。好きな方で良い。お嬢さん……、青年……」
男は眉間に皺を寄せ、莉瑠蘭の顔をじっくりと眺める。
「そちらこそ、どちらでも構いません」
莉瑠蘭は口角を上げ、小さく右手を上げた。
「所で……、見た感じアナタって"慣れてる"よね? 境界の揺籃について教えてくれませんか」
何をするのかと思いきや、素朴な疑問が出されるのみだった。
それに対し、男は軽く鼻で笑う。
「最初のルール説明が全てだろう」
「嘘だね。大抵の規約とかに興味は無いけど、特に僕が知りたいのは、その武器だ」
そう言って男の篭手を指さす。
「道行く人に聞いても適当なことしか言わないし、なんなら鳴き声しか上げないし。……だから、その強そーな武器が何処で配布されてるのか、アナタから聞きたいんですよ」
白くて柔らかい頬に手を添える。
口には未だに薄い、微細な笑みが滲んでいた。
「……なるほど、ふむ」
静かに莉瑠蘭の話を聴いていた男は、顎を摩る。
「……では、この武器を何処で入手したのかを、まずは教えてやろうか」
―――……ふーん。条件提示でもするのかな。こんな手法とるなんて、ゲームに適応したか、元からそういう事してた人か……。
莉瑠蘭の目が、何かを探るように鋭く光る。
「ガントレットはここ、モール内で手に入れたものだ」
まるで篭手を自慢するように掲げ、小さく笑みを浮かべた。
この情報に対し、莉瑠蘭は何の反応も見せなかった。
「へー……」
そう呟いてモール内を見渡す。
――『色んな所に武器が置かれてる』ってのは当ってたのか……。重要なのは、『色んな所』ていうのは、『各地にある特別なエリア』や『ゲームの集積所』みたいなもんじゃなくて、完全にランダムな場所に湧くってコトかな。
冷静に情報を処理し、思考を回す。
「そーなんだ」
自身の考察に納得を付けるように、男の言に相槌を打った。
気怠げに頭を傾け、黒目で男の顔を見つめる。
「……で? 他の説明は何をしたら貰えるんですか?」
「察しが良いじゃあないか」
満足するかのように、微笑みを浮かべた男は、説明を続けた。
「唐突に始まった『
俺はな、いち早く適応し、確実な力をつける事が最も重要だと踏んでいる。確実な力とは、仲間を増やし、拠点を構えることだと断言できる」
その微笑みは徐々に大きくなっていった。
堂々。そう表現できる口調である。
「俺と協力しよう」
「………………。」
そう言って男は手を差し伸べた。
「見たところお前、只者じゃないだろ。是非ともお前のような強い奴が欲しい。既に協力者は集まっている」
莉瑠蘭は依然として、沈黙している。
「強者は仲間へ、雑魚は
更に男の口角が上がる。
すると突然、
「オレは反対だな」
ガントレット男の横、薄暗闇から若い男性の声が響いてきた。
足音を鳴らせて近づいて来る。
「ウィル……、よく見ろよ、細い女だ。戦力になる訳ねぇだろ」
「ハルカ、あのガキ共を探せと言ったはずだが」
ハルカと呼ばれた男は、金髪をハーフアップにしており、前髪から除く邪険で鋭い目つきを莉瑠蘭に向けていた。
彼らの、「逃げ足が速すぎた」、「彼女の返り血が見えないのか?」などの口論を聞き流しながら、莉瑠蘭は小さくため息を付く。
「で、どうする」
「……え?」
余所見をしていた莉瑠蘭は、ウィルと呼ばれた男の問いかけに、ほんの一拍遅れて視線だけを向けた。
反応というより、音に気づいた――それに近い。
ハルカの視線は変わらず刺々しいままだが、ウィルは相変わらず、底の知れない微笑みを貼り付けている。
「あー……」
莉瑠蘭は短く、気の抜けた声を漏らした。
答えを探している様子ではない。ただ、返事をする必要があるかを考えているだけだ。
眠たげな半目のまま、二人を順番に見る。
視線は浅く、焦点も合っていない。
首を傾けた拍子に前髪が目にかかるが、払おうともしなかった。
そして――小さく、無邪気に。
どこか退屈そうに、莉瑠蘭は笑った。
「はっ……」
笑いというより、息が漏れただけに近い。
「雑魚が寄り添い合っても、意味ないでしょ」
感情は込めない。言い切りでもない。
事実を一つ確認するような、淡々とした声音。
「傷を舐め合って、安心した気になって。
で、少ししたらまとめて踏み潰される」
視線が、二人から外れる。
もう興味を失ったかのように、虚空を見たまま続けた。
「そんな慰め合いにさ……」
肩をすくめる。
「僕が混ざる理由、ある?」
とんどてもなくつまらない愚問に、気怠げさを顕にしながら答えるかのようだった。
言葉が、そこで途切れた。
返答はなかった。
拒絶も、了承も、説明もない。
ただ、空気だけが落ちる。
風の音すら遠のいたような錯覚の中で、場は静寂に包まれた。
先ほどまで張り付いていた緊張が、逆に重く沈殿していく。
ウィルも、ハルカも動かない。
まるで時間そのものを測るように、二人は莉瑠蘭を見つめていた。
警戒ではない。
観察――あるいは、確認。
莉瑠蘭は、その視線を受け止めない。
半目のまま、どこでもない一点を眺めている。
「…………。」
小さく、息を吐いた。
それは溜め息というには短く、
落胆というには感情が薄すぎた。
沈黙が、さらに深まる。
その中で――
莉瑠蘭の口元が、ほんのわずかに緩んだ。
笑み、と呼ぶには淡すぎる。
だが確かに、そこには形があった。
退屈をやり過ごす者が、
ようやく何かを見つけた時の、そんな薄い表情。
ウィルの視線が、一瞬だけ揺れる。
次の瞬間、彼は何も言わず、ただ指先を軽く持ち上げた。
合図。
空気が、裂ける。
莉瑠蘭の背後。
音もなく、殺意だけが迫る。
それでも彼は振り向かない。
微笑みを残したまま、静寂の中に立ち続けていた。
まるで――
その一撃すら、もう織り込み済みであるかのように。
四
微かに、音がした。
床を擦るほどでもない、
意識していなければ聞き逃すような足音。
続いて、金属が革に触れる、ほんの小さな擦過音。
刃物を握り直す時にしか鳴らない音だった。
莉瑠蘭は、動かない。
呼吸も、姿勢も、そのまま。
ただ顔だけを、ゆっくりと横に向けた。
真後ろ。
振り返る必要すらない。
横顔だけが、闇に浮かぶ。
切れ長の瞳が、半目のまま細められ、
口元に、張り付くような笑みが浮かんでいた。
楽しげで、
そして、決定的に不気味な笑み。
「――……っ!!!」
奇襲を仕掛けるはずだった男が、息を詰まらせる。
――コイツ………………!!!!
気づかれている。
その事実が、刃よりも深く突き刺さった。
冷や汗が、首筋を伝う。
だが、今さら引けない。
男は歯を食いしばり、片手斧を振り上げた。
「がァァっ……!!」
空を裂く音。
次の瞬間。
金属音は、鳴らなかった。
莉瑠蘭は、斧の軌道に入らない。
入る必要がない。
半歩、体を沈める。
刃が空を切るのと同時に、男の手首に触れる。
掴まない。
叩きもしない。
ただ、関節の向きを「正しくない方向」へ送った。
「――ゥっ」
音は低く、短い。
斧が床に落ちる前に、
莉瑠蘭の膝が、男の体重を奪っていた。
続く動きは、流れるようで、静かだった。
肘。
喉元。
そして、後頭部。
どれも、最小限。
男は声を上げることもなく、
糸を断たれたように崩れ落ちた。
音は、ほとんどしなかった。
静寂が、元に戻る。
莉瑠蘭は、ゆっくりと体を正面に戻す。
その表情は、何一つ変わっていない。
まるで、
背後で何かが起きたこと自体、些細な出来事だったかのように。
「…………!」
ウィルが、初めて言葉を失った。
ハルカもまた、無意識に息を止めている。
想定していた『強さの範疇』を、明確に踏み越えていた。
武器なし。
躊躇なし。
そして、何より、無関心。
莉瑠蘭は、再び小さく息を吐いた。
退屈そうに。
しかし、恍惚と……。
それだけだった。
「……ちょっと鈍ったかな……」
――あのガキっ……、まじか……!!
ハルカが、腰に携帯している武器に手を掛ける。
倒れ伏した男は、まだ息をしていた。
浅く、途切れがちな呼吸。
莉瑠蘭は、その様子を一瞬だけ確認する。
迷いはない。
憐れみも、躊躇も、考慮に値しない。
膝をつき、男の側へ。
視線が、致命点をなぞるように静かに落ちる。
彼の扇情的な美しい指が、男の首横、喉仏近く。暖かく、ドクドクと脈打つ「内頸動脈」に触れる。
「……………………。」
滑らかな流れで、指に力を入れ、肉を、筋を、脈を抉り取った。
動きは短く、些細だった。
力は必要最小限。
知っている者の、それだけで足りる動作。
首からは多量の赤い液体が氾濫している。
男の身体が、わずかにぐったりと脱力した様に見えた。
それきりだった。
数秒、様子を見る。
呼吸は止まり、緊張も、反応も戻らない。
確認が終わると、莉瑠蘭は何事もなかったように立ち上がる。
その所作はあまりに手慣れていて、
「仕上げた」という事実だけが、あとに残った。
男は、たった数秒の間に制圧され、確実に絶命したのだ。
「っッッ……!!!」
ハルカの鼓動が大きく跳ね上がる。
冷や汗が身体中の毛穴から吹きだし、焦燥感と共に溢れ出した。
顔を顰め、歯を食いしばる。
「やりやがったな! 糞ガキィッ!」
ハルカが声を荒らげながら、止まっているエスカレーターを降りて来る。
「何モンか知らーけど、責任は取ってもらうぞ」
「そちらが先に仕掛けたんでしょうに」
莉瑠蘭はその怒号を受け流すように肩を竦める。
エスカレーターの上ではウィルが笑みを浮かべて見下ろしている。
「断るなら、君は今から仲間ではなく、カルマだな」
皮肉を言うように、告げる。
「ハルカ、殺して構わない」
「うるせぇよ、元からそのつもりだっ」
静寂な空気は破裂し、遂に殺し合いが行われる。
ハルカが怒鳴りながら、腰から得物を取り出した。そのまま、高速で莉瑠蘭に斬りかかる。
逆手に持たれたその刃物は、ナイフにしては等身が長く、刃先が根元より比較的幅広だ。
「覚悟しろ」
そう告げられた刹那、その物騒な刃が莉瑠蘭に突き刺さった――否、
「…………。」
ハルカの刃物を持った手の、尺骨茎状突起部分を莉瑠蘭は前腕で抑え、攻撃を難なく止めていた。
何も言わず、細めた目をウィルに向ける。
「そうだな……。冗談は無しに、『仲間に入れて』と懇願すれば考えてやろうか」
嘲笑するように上から余裕の態度を見せつける。
「……先程説明しましたよね」
うんざりとする態度を隠さず、莉瑠蘭は低い声で言葉を吐いた。
「死ねオラァっ!」
ハルカが一拍距離をとり、刃物を大振りに斬りかかる。
莉瑠蘭はユラリと、上半身を後ろに倒し回避した。
彼の口が、億劫さを表すように曲がった。
「…………。
紙一重で、しかし確実な動きで刃を回避した瞬間、予想外の体勢から横蹴りが炸裂する。
「っグ……」
ハルカの意識と視界の外から的確に鳩尾へとブーツがめり込んだ。
堪らず、即座に距離を取る。
「その武器、マチェーテじゃないですか。良いなー、ちょうだいよ」
顔を顰めるハルカとは対照的に、莉瑠蘭は楽しげな笑みを浮かべている。
そして、言いながらハルカが距離を置いた事を利用し、構えを取っていた。前後に足を置いており、広すぎず、狭すぎず――逃げにも突進にも転ばない距離。
踵は床に預けきらず、わずかに浮いている。
だが重心は軽くない。腰の芯が沈み、身体全体が安定していた。
肘は自然に折り畳まれ、拳は顎か目の高さへ。肩は落ち、首筋に力はない。
一見すれば静止している。だが膝も、肘も、脛も、すべてが次の瞬間に凶器へ変わる位置に収まっていた。
素人の不格好な構えには到底見えなかった。
「黙れ、自分で拾え」
ハルカはその様子を警戒し、ゆっくりと距離を詰める。
莉瑠蘭は動くつもりがないのか、カウンター狙いか、じっくりと様子を伺っていた。
――………………。
マチェーテを前に構え、踏み込む。
莉瑠蘭は素手、ハルカは物騒な刃物。特段の警戒は不必要と考え、大きく距離を縮め懐まで潜り込んだ。
狙うは首元。
しかし、莉瑠蘭の左手が、またもや刃物を握った腕、その手首を下から抑えつけ、そのまま上へと軌道を反らせた。
先程の強烈な横蹴りのカウンターを、反射的に警戒し、反対の手と膝を構えようとする。
その、反射頼りの予想は大きく外れた。
莉瑠蘭は刃物の軌道を変えた寸陰に、体を回転させた。
回し蹴りか。
その予想も外れる。これほどの近い距離で回し蹴りはあまり有効ではない。
飛んで来たのは、背を見せる一瞬で叩き込まれる「肘」。ソーク・クラップだった。
「ごっッッ……、オグっ……」
肘は、左の胸骨頭辺りへと鋭く刺さる。
瞬間の痛みと嗚咽を我慢し、首を抑えながら後ずさる。頭部に当たれば失神は免れない。幸運である。
「
頭を傾げ、疑問を口にする。
この空気感に合わない、マイペースで呑気な呟きだった。
「………………。」
首を摩りながら、ハルカは舌打ちをした。
苛立ちを込めた視線で目の前の、正体不明の化け物――莉瑠蘭を睨め付ける。
「マジでよ……、何者なんだテメェ」
――クソっ、クソが! さっきから攻撃が当たんねぇし、むしろ距離を遠ざけられる……! 間合い管理と身のこなしが人外だっ。
またもや、莉瑠蘭は距離を開けたまま、攻撃を仕掛けず様子を見ていた。
ステップやリズムは取らず、静止した状態で体は軽く、次のカウンターを狙っている。
――……見た感じ、格闘技齧ってんな、構えのポーズはムエタイか。つうかなんで、素手の戦闘術で武器持ちを去なせるんだよっ、なにか俺の知らん流派でも持ってんのか……!
苛立ちと慄きで、冷や汗を流しながら歯を食いしばった。
その様子を、モールの2階、上からの見物を貫いているウィルは仲間のハルカではなく、莉瑠蘭をじっくりと観察していた。
顎を摩り、
「ふむ……」
と感嘆符を残す。
――……あの
乾いたタイルの上で、二人の靴が音を反響させる。依然として、遊ばれていると言っても過言では無い程度にハルカは劣勢のままだ。
「クソっ」
――……これなら……。
マチェーテを強く握り直し、莉瑠蘭へと突進をする。
一見無策。
しかし、心做しか状態を低くしている。
下からマチェーテを構え、腹部目掛けて腕を伸ばす。
「………………。」
察知した莉瑠蘭は、腰を落とした。踏み出した相手の足が床に触れた、その瞬間、鎌や長物のなぎ祓いを連想させる足技が炸裂した。
少林拳の
いずれも、相手の足元を刈る攻撃性の高い技だ。古流空手の足刈りのように、似た型の技には組手競技にて禁止されるほどの危険がある技である。
姿勢を低くしたハルカの、足を含め腰を刈り取るように放たれた足技。
しかし、ハルカの思惑通りであった。
「……お?」
その驚くべき柔軟性と体幹は全て空ぶったのだ。
見れば、ハルカは低姿勢からの跳躍でその刈りを回避していた。
「バカがァっ!!」
莉瑠蘭は床に伏す程の低姿勢、加えて空ぶった反動で技の後隙が大きく出ている。
上から、大振りのマチェーテが襲いかかってきた。
――上手いのが災いしたなァ!! 完全に引っかかりやがった、このまま後隙を切り落とす!
跳躍からの落下を利用した、マチェーテという大きな刃の殺傷力を底上げする全力の大振り。
莉瑠蘭を嘲る単語を吐いたハルカは、勝利を悟った。
「????、?!!」
刹那。
視界がグリンと一転する。
脳が揺れ、何が起きたのか処理が終わるまでに数秒のラグが生じた。
蹴られたのだ。しかも、頭部を。
どうやって。
思考せずとも、頭のなかでそのセリフを呟く前に、体と脳みそが「どうやって」という単語を感覚として感じた。
莉瑠蘭に目をやる。下、距離はさほど空いていない。
その、彼がとった技による構え、その形を理解できなかった。
あの体勢と後隙から発せられた技。
荒唐無稽である。
だが、彼の踵は確実にハルカの顎を穿っていたのだった。
非現実的、しかし事実だ。
莉瑠蘭は、足刈りが空ぶったと判断した瞬間、その勢いのまま、体を床とほぼ平行でスレスレのまま
そして、その信じ難い身体能力でマチェーテが到達するよりも早く、その地を這っていた脚が、顎を狙って跳ね上がった。
予想外の位置と体勢から放たれたその足技は。
――まさか……!? 今のは……
ウィルが目を見開き、面食らう。
技名としては、メイア・ルーア・ジ・コンパッソのアレンジ。
「カポエイラか!」
驚愕と昂りを抑えられず、無意識にその名前を口に出す。
ハルカの口元は僅かに変形した。
口は閉ざす事が出来なくなり、鈍痛が遅れて襲う。
「あ、ゥ……ゲッ……」
目まぐるしく揺れる視界と意識。
ハルカの体は蒟蒻のようにグラグラと揺らめき、失神は免れるも、力の入らない身体はマチェーテを落としてしまった。
足元がおぼつかない。
「あぁ……っ、あにを、しァがった……」
顎を抑え、ハルカは懸命に体勢を立て直そうとする。
しかし、
「?!」
莉瑠蘭が、視界の目の前に、まるで瞬間移動の如き速さで迫っていた。
崩れかけた体勢に、腕が脚が、するりと絡みつく。
押すでも引くでもない。
ただ、体重と回転が、自然に首へと収束していく。
枝に登る蛇のように、莉瑠蘭の体は頭に向かってするすると上昇する。
体に体重を感じさせないほどに、華麗な動きでハルカの肩に乗り、頭部へ手を絡ませた。
「ぎィっ……、ァアなせッッ!!! ハっなぜぇ!!!」
滑らかな動きとは裏腹に、その腕はビクともしない。
抵抗が形になる前に、音がひとつ、短く鳴った。
「ヵっ……………………」
莉瑠蘭は何事もなかったかのように、その身体を手放す。
ハルカの頭は、顎と頭頂部が真反対と言える程に回転していた。
身体が床に崩れ落ちる音が、やけに大きく響いた。
上階からそれを見ていたウィルは、思わず息を呑む。
次の瞬間、莉瑠蘭が、ゆっくりと顔を上げた。
その表情を見た刹那、ウィルの喉が鳴る。
笑っていた、猟奇的に。
目を細め、頬を緩め、まるで――
甘美な記憶を反芻するかのように。
理性はそこにある。
判断力も、冷静さも失われていない。
それでも、その笑顔だけは異常だった。
人の死を踏み台にして、自分の内側が満たされていくのを楽しんでいる顔。
口角が限界まで引き上げられ、唇が弧を描く。
隠されていた歯列が一斉に覗き、白い歯の中で、鋭い犬歯だけが異様に目立っていた。
まるで、笑顔という器が耐えきれず、内側から破れてしまったかのようだった。
それは作り物ではない。
力んでもいない。
子どもが、どうしようもなく楽しい出来事に出会ったとき。理由もなく、声を上げて笑ってしまう――
その無邪気さと、寸分違わぬ構造をしている。
だが、決定的に違う点がひとつあった。
瞳だ。
切長の目は口角に押され三日月のように歪み、潤んだ光を宿している。
快楽に震えているようにも見える。
それでいて、その奥には一切の曇りも、ためらいもない。
これが楽しい。
これ以上は、要らない。
そう言い切っている目だった。
骨の折れる感覚が残る掌を気にも留めず、まるで遊び終えたあとに、満足そうに振り返る子どものように。
莉瑠蘭は、心から愉しげに笑っていた。
その笑顔は、感情の爆発であり、同時に完成形でもあった。
理性も、計算も、残酷さも、すべてを内包したまま――「無邪気」という皮を被った、最悪の笑顔が、そこにあった。
ウィルは、ようやく気づく。
これは怪物ではない。
怪物であることを自覚した人間だ。
だからこそ、背筋が凍った。
あぁダメだ、という脳からの警告が響く。
あれは、強者ではない。一線を大きく踏み越えた、もう"戻れない"何かだ。
庭園の欠落進化論 西奈 喜楽 @Kig4
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