第3話『シングルタスクは職人?』
第3話『シングルタスクは職人?』
少し前まで、私はマルチタスクができないことを「悪」だと思っていた。
できない自分は劣っている、足りていない。そんな解釈を、いつの間にか当たり前のように抱えていた。
けれど、ふとした時に考えた。
一つのことに集中できる、というのは、もしかしたら職人なのではないか、と。
職人は、目の前の一つの作品に向き合い、余計なものを削ぎ落としながら、完成まで持っていく。流行や雑音に振り回されず、自らの感触だけを頼りに進む。その姿は、私のシングルタスクな生き方と、どこか重なって見えた。
作業中の職人の頭の中は、きっと静かだ。
やるべきことは一つだけで、今この瞬間に触れているもの以外は、いったん世界から消えている。集中とは、能力ではなく選択なのだと思う。何かを得るために、他を切り捨てる覚悟。その一点に、すべてを集める勇気。
私が一つのことしかできないのも、裏を返せば、一つのことを守るために、他を遠ざけているだけなのかもしれない。器用に並べられない代わりに、輪郭が崩れないよう、必死に支えている。その不器用さは、怠けではなく、方法論なのだと、少しだけ思えた。
ただ、すぐに別の考えも浮かぶ。
よく考えてみれば、職人は何も考えずに作っているわけではない。素材の癖、工程の順番、失敗したときの修正、時間配分。頭の中では、いくつもの計算が同時に走っているはずだ。
そう考えると、職人はマルチタスクなのかもしれない。
結局、呼び方の問題なのだろう。
シングルタスクか、マルチタスクか。
優れているか、劣っているか。
どれも、後から貼られたラベリングにすぎない。
こうやって、自分の中で考えを整理すること。それ自体が、同じ失敗を繰り返さないための、ささやかなアンチテーゼなのかもしれない。少なくとも、理由の分からない恐れは減った。
だから、もう恐れることはない。
――そう思っていた矢先だった。
カクヨムの短編投稿で、予約の日付を間違えた。
第1話の次に投稿されるはずだった第2話を飛ばして、なぜか第3話を先に公開してしまった。
おそらく、仕事のまとめをしているついでに操作したからだと思う。別のことを考えながら、別の作業をした。その結果がこれだ。
あれだけ、一つのことを終わらせてから次のことをやらないといけないと言っていた癖に。
人間は、そう簡単には変わらない。
その結果、本来、癒しのはずだったカクヨムが、その瞬間から、私の頭の中で「悩み」と「後悔」に占拠された。
だからこそ、こういうときは、ポジティブに考える。
スター・ウォーズだって、エピソード4・5・6から始まって、あとから1・2・3が公開されたじゃないか。順番が違っても、物語は成立している。むしろ、それが伝説になっている。
……まあ、だいぶ無理のある例えだという自覚はある。
でも、まあいい。
これも私なのだから。
シングルタスクで、順番を大事にして、たまに順番を盛大に間違える。
考えすぎて、落ち込んで、それでもなんとか前向きな理由を探す。
完璧じゃないけれど、嘘でもない。
この不器用さごと引き受けて、私は今日も一つずつ、物事を終わらせていく。
シングルタスク なかごころひつき @nakagokoro
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