第2話
イヤホンの話を避けるように会話を誘導して、昼休みを乗り切った。
午後はいつも通り、眠気と憂鬱を纏った音を鳴らす教師の声を聞きながらの授業。まあ、先生も人間だからそこはしょうがない。
放課後になれば、至福の音がそこかしこで鳴っている。
私としてはここからが長い。
今、他の皆と同じように帰路に着くと、音が多すぎる。それを避けるために、私はいつも教室で運動部が帰る手前くらいの時間を狙って帰っていた。
この時間は長いけど、嫌いじゃない。
バラバラに聴こえる欠陥品だからこそ、楽しめるものもある。
「あの人の音、とても楽しそう。最近調子良いもんね」
「今投げてるピッチャーさんは次のエースかな。他の人とミットに当たる音が違う」
「またあのトランペット、音が外れてる」
夕焼けと部活動を眺めるだけの時間。教室には私一人。こんな独り言を言っても、誰が聞く訳でもない。同時並行で動く世界をまとめて聴くというのは、この耳ならではだろう。
まあ、これのせいで校内ゴシップも山ほど手に入れてしまったけど。
そういえば、一年の頃にこの放課後の時間に酷い濡れ衣現場に遭遇したこともあったっけ。
真実の音だけで訴えていた生徒を、大多数で囲って疑っていて、かなり不愉快だったことは覚えている。
あの後どうなったんだっけ。覚えてないってことは、大したことにはならなかったんだろう。
ひとしきり夕焼けと音を楽しんだ後、一番静かなタイミングで私は教室を出た。
そうだ、新しいノイキャンイヤホンを買っておこう。昼間は咄嗟についた嘘だったけど、実際壊れた時に予備が無いと困る。あまり気乗りはしないけど、私は一つ隣の駅の家電量販店へと向かった。
イヤホンを買って店の外に出ると、聞き慣れない音が流れていた。
曲……だと思うけど、音が一つしかない?
なんとなく気になって、音がする方向へと足を進めた。近付いている最中、曲に合わせて歌声も聴こえてきた。この声、どこかで聞いたことがある気がする。
♪〜
駅に入るロータリーで、その音は発生していた。
「伊加田……さん?」
音を鳴らしていたのは、今日唯一、私に心配の音を届けた彼女だった。
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