第5話 救いの後
極寒の冬が終わる。
雪山も春を彩る木々の色が蘇っていく。龍は歌い、風も歌う。冬と違い二つの勢力のコンチェルトが耳心地のいい音になる。
ラトスが来て一か月、恋心が実りの春を迎える。それを祝う様に龍が鳴く、風も歌う。少し残る雪も歩くたびに祝いの声をパリッと上げる。二人の歩く道はすべてが祝いの声が上がった。枝の折れる音、緑の葉の擦れる音、石と石の当たる音、そのすべてが二人の幸せに導く。
その音はビートにも届く、背中のドラゴンの卵がとても温かく脈打つ。二人を見て大喜びのビートと同じようにドラゴンの卵もまた、幸せを感じて沸騰している。
ビートを温めるドラゴンの卵は更に熱をあげて祝いの熱とした。
「ビート。君は特別な力を持ってる」
一緒に暮らすようになったラトスがビートの視線に合わせて腰を落とす。そして、告げる。
町で得た知識を彼に教えていく中で、しっかりとビートは特別なのを知らせる。
ラトスでも割れないドラゴンの卵。冒険者でもある彼は剣を持っていた。この世界では剣を持つのは当たり前のこと。魔物いる世界、自分の身は自分しか守れないから。
そんな彼でも割れない卵。本当にドラゴンの卵なのかもしれないとラトスは告げる。
そして、その卵がビートを選んだ。彼はそう言ってビートの頭を撫でる。
「冒険者になりたいんだよね? 町に行くならわかっている必要がある。力だけじゃ危険だ」
ビートと話す中で、彼の夢を知った。父親の影響で冒険者に夢を見ていたビートに、ラトスは苦言を述べる。『決して夢見るような職業じゃない』。
下を向き、申し訳なさそうに告げられる夢の評価にビートは顔を曇らせる。
続けてラトスは『貴族や王族を優先する世界。正義なんてないんだ。僕は医者もしていたからね。流行り病の時に貴族を助けるために平民をないがしろにした』。
罪を話す罪人のように後ろめたく告げる彼はとても悲しく拳を作る。
それが嫌で彼は旅をしながら医者と冒険者を続けていた。それを聞いてビートは目を輝かせる。
「ラトス凄い!」
東で病を治して、西で魔物を倒す。北で男性を助けて、南で女性を助ける。そんな彼の姿にビートは大興奮。『僕もラトスみたいになりたい!』そう言って鼻息荒く笑う。
無邪気な彼に罪を感じていたラトスはクスッと笑った。
彼は自分を卑下していたことをおかしく感じた。思ってみれば助けられる力があるから悩めるんだ。選択できるから悩める。
その力があるのだから助ければいい。それが恥ずかしいことなどと思うことがおかしかった。シーナとビートとの出会いもまたこの力のおかげ。
町に来たノットンが必死に医者を探していた。それを見た彼が手をあげて安い金額で来てくれた。その出会いのおかげでシーナとビートは幸せになった。ラトスも同じだった。
自分を攻めて酒におぼれる日もあった。そんな日は一日として訪れることのないシーナとビートとの日々。彼もまた幸運。
「ふふ、ビートったら」
冒険者の現実と、ラトスの過去を聞いたビートは、居てもたっても居られなかった。卵を背中に背負って雪の溶け切った木々を渡り走る。
山の頂上と家を行ったり来たり、自然と訓練を始める。ドラゴンの卵はそれを応援するように彼の周りを温める。
春が芽吹き、ビートの精神も成長を遂げていく。風を感じ、龍を感じ踊るように走る。
ラトスから剣を借りて風きりの音を龍にプレゼントする。嬉しく揺れるドラゴンの卵は今か今かと揺れる。
それに嬉しく呼応するビートは日が落ちるまで剣を振った。
「ビート。楽しいのはいいけれど、そろそろ休みなさい」
「そうだよビート。休むのも体の作る仕組みのひとつなんだから」
いつも一つだった彼を迎える声。二つに増えて喜びが倍になった。
たまに帰ってくる人よりも、毎日迎えてくれる声の方がいい。子供ながらにビートはそう思いニッコリと微笑む。
ビートの訓練は更に厳しさを上げていく。山脈の尾根を走り、クレパスを越えて、いつもの森とは別の森を歩く。
人のはいれないような険しい森。動物も一回り大きく、魔物も住んでいる森。誰もが恐れる森、だけどビートの前では森に変化なしだった。
「……みんな逃げてく」
ビートを見つけると逃げていく緑色の肌の小人、ゴブリンだ。ビートもゴブリンだと思って剣を構えた。恐怖が先行して逃げようかと思ったら離れていくゴブリン。
人が怖いのかな? 単純にこんな森にいるんだから逃げてきた魔物かもしれない。可愛そうだから何もしないであげよう。
ビートはそう思い散策を再開させた。熊が出た、逃げた、シカが出た、逃げた。緑色の肌を持つ巨人が出た、逃げた。
視覚からの刺激は楽しいけど、訓練にならないとため息をつくビート。
「僕は怖くないよね。ドラゴンの卵が怖いのかな?」
温かさが涼しさに変わるドラゴンの卵。すべての脅威からビートを守ってくれてる。
それが魔物や動物は敏感だからわかってしまうんだ。人にはわからない感覚。嬉しいんだけど、なんだかつまらない。
ビートは山々をかけて、森を散策していく。それは春を越えて夏になっても変わらなかった。
春と夏は短く秋になるとすぐに雪が帰ってくる。いつもの風景にビートは胸を躍らせる。
雪山には龍がいるからだ。6歳の冬、ビートはその謎に迫る。
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