第5話 牛丼2
レナが突然、牛丼屋に現れた。
テレビ、ラジオ、CMに出演しているアイドルがこんな片田舎の牛丼屋になぜいるのだろう。
それにレナとは昨晩、別れたはずなのに……。
* * *
レナは俺から一つ席を空けて座り、
サングラス越しに、俺の方をチラチラ見てくる。
今度はコップの水をがぶ飲み。
ん?
コップに残った氷も口に全部入れたぞ。
おお、結構な量の氷だぞ。
ほっぺたが膨らんでる。
「…………」
レナは俺を見ながら氷をガリガリッ噛み砕き始めた。うわ。
そして、「くぅ」と短くうめき、こめかみをおさえた。あ、『アイスクリーム頭痛』だ。
※アイスクリーム頭痛とは、かき氷などを食べた際にキーンと痛くなるあの現象だ。
「(小声)痛たたた……」
俺を見ながら言ってくる。
さっきから何かと俺のリアクションが見たがっている。
こいつ俺に、構ってほしい《・・・・・・》らしい。
ステージの上で見せる清楚で真面目そうな姿とはほど遠い、わがまま気質のレナの本性がそこにはある。
「えーと…………、大丈夫か?」
「……………は?声かけないでくれる?」
レナは牛丼を食べ始めた。
俺、
俺は牛丼にありついた。
パクパク食べ、もうそろそろあと一口となったところで、レナを見ると……
少々青白い顔して、無言で牛丼をガン見している。サラダと味噌汁は完食されていたが、牛丼は3分の1ほど残っている。
どうやらお腹がいっぱいらしい。
レナは、ゆっくりこちらを向き、一言こう言った。
「私の牛丼に、挑んでみませんか?」
まさかの『挑戦者求ム』というスタイル。
どこまでいっても負けず嫌いな性格だ。
「あのなあ、自分で食べ切れない量頼んでんじゃねーよ」
俺がそう言うと、レナはわかりやすいくらいに、ムスッとしてほっぺたを膨らませて言った。
「もとから、この牛丼は拓斗と分かち合う予定だったし」
さっきの挑戦者設定どこいった?
「どうするの?シェアするのしないの?」
カタカナで、ごまかせると思うな。
「人気アイドルの食べかけなんか最高じゃね?」
おごるな。
「残りのご飯に対して残りのお肉はちょっと少なめだけど、別にいいよね?」
レナ、ここではメリットについて話すべきだ。
最終的にレナは牛丼を一人で食べ切った。それは人として当然のことであり、とても大事なことだ。
レナは「ごちそうさま」と手を合わせた。
向かいに座っていたサラリーマンは、目の前にいる彼女があの有名なアイドルだとは気づく様子もなく、先に会計を済ませて店を出ていった。
レナが周囲の客や店員にアイドルだとバレなかったのは喜ばしいことだが、問題はそれで終わりではない。なぜ彼女が、わざわざ俺に会いに来たのかという点だ。
店の外に出ると、御手洗さんが黒い車の運転席からこちらを見ていた。
ここに至るまでの経緯は、おおよそ想像がつく。きっとレナが相当ゴネたのだろう。
フンとすねたレナは、黒い車の助手席に乗り込む際、俺に向かって
「てめえ、覚えてろよ」
と言い放ってドアを閉めた。
俺は車を見送ってから自転車で自宅へ帰る。
そして、しばらく経ってから、御手洗さんからメッセージ。
<お騒がせしました>
本当にその通りである。ちゃんとレナをコントロールしてほしい。
俺はレナのアイドル活動を邪魔しないために、こうして別れを承諾したんだ。
ちゃんとそれは遂行してもらわないと困る。
しかし、この数日をまさか地元にあるショッピングモールの中にある、ゲーセンでレナと遭遇するとは、この時の俺は思ってもいなかった……。
現在、話題沸騰中アイドルの九条原レナと結婚前提に付き合ってたけど別れました。それなのにこっそり頻繁に会いに来るんだが。 リロ、ジジジジ。 @rirozizizizi
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