ノンケを好きになった女
宮吉 龍
ノンケを好きになった
酒気を帯びた脚。
酒気を帯びた腹。
酒気を帯びた腕。
酒気を帯びた胸。
酒気を帯びた首。
酒気を帯びた耳。
酒気を帯びた首、口元。
吸い寄せられるように手が伸びて、ピタリと頬に触れる。
ぬるい。
目じりを親指の腹でこすって、赤い粘膜の内側がちらりと覗く。
きれい。
口。
眠った半開きの口。
隙間から歯が隠れているように挨拶を繰り返して、間に挟まった舌が時折小さく動く。
指を入れた。
熱い。
でろりと粘膜が絡みついて、指に吸い付くようにざらりと舌が動く。
上気した冬の息が隙間から漏れて、白い霧を作る。
犬歯と奥歯に噛みつかれ、指に歯型と熱い痛みが快感がゾクリと走り。
舌を押しつぶすように押さえつけて、裏側をこすると唾液が溢れて口の隙間からつーっと垂れていく。
耳までつたったそれを反対の手で
私の服にこすりつけて、シミとなって広がる。
ゆっくり、寝ている女が起きないように、ゆっくり指を引き抜く。
銀色の泡が数個くっついた糸が指から垂れて、千冬さんの顔にぺとっとひっつく、
ティッシュを二枚、ほっぺたにこすりつけて綺麗にした。
まだ、起きない。
起きないから、やってもいい。
起きたら、すべてがおしまい。
「千冬さん」
声を発した。
ここで起きてくれれば、この先のことをやらずにすむ。
片思いの相手に、最低なことをしなくてすむ。
でも、起きない。
千冬さんはお酒を飲んで眠ると何をしても起きやしない。
首元のボタンを外す。
下着に触れる。
こんな私に触られるなんてかわいそう、ごめんなさい。
手が止まる。
この一線は超えられない。
ボタンを元に戻して髪に触れる、
さらさらして少し短いボブヘア。
頭の横に両腕をついて、そのぬくもりを体で感じる。
顔が近くて。
歯の隙間から見える舌に意識がいく。
我慢……。
我慢できない。
「千冬さん、します……から」
口にキスをした。
初めは小さく。
唇に触れた。
少し半開きだから私も半開きで。
顔を離す。
部屋は酒臭くて息をするたびに、モヒートのミントが鼻をくすぐる。
どんなあじだろうって。
だから。
舌を入れてやる。
私の舌が千冬のに当たって、ざらりと奥に入れたら、ちろちろと舐め返してくる。
それが気持ちよくて背徳的で。
頭がおかしくなりそうだった。
前歯を押しのけて、上顎にくっつける。
ごつごつして骨っぽい感じがしてひっかかりがある。
私だけが知った、私だけが今、知ってしまった千冬の口。
舌を歯と歯の間から引き抜いて。
唇が離れる。
ちゅ、と。
水音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いた気がして、肩が跳ねた。
慌てて身を引く。
心臓が肋骨を内側から殴りつけるように脈打っている。
うるさい。
この音が千冬さんに聞こえてしまうんじゃないかと思うほど、うるさい。
けれど、千冬さんは起きない。
「ん……」
小さく呻いて、眉間にしわを寄せただけ。
寝返りを打って、無防備な背中を私に向けた。
安堵と、失望。
助かった、と思うのと同時に、私の存在なんてその程度のものなのだと突きつけられる。
口元を手で覆った。
唇に残る感触。
柔らかくて、少し乾燥していて、熱かった。
舌先で自分の唇を舐めてみる。
ライムの苦味と、ラムの甘ったるさ。
それから、千冬さんの味。
乾いた笑いが漏れる。
最悪だ。
本当に、最低だ。
背中を向けた千冬さんの髪が、枕に散らばってベッドと同化する。
髪の隙間から覗くうなじが白くて、そこに赤い、痕をつけてやりたいという衝動が、頭に強く浮かんだ。
だめだ。
これ以上は、戻れなくなる。
私は大きく息を吐き出して、体の中にこもった熱を逃がそうとした。
でも、吸い込んだ空気さえも酒臭くて、千冬さんの匂いがして、逃げ場なんてどこにもない。
その場で正座して、千冬さんの体に、毛布をかけ直す。
肩までしっかりと。
「おやすみなさい、千冬さん」
明日の朝、千冬さんは二日酔いの頭を抱えて起きてくるだろう。
「昨日はごめんね、可憐、何か変なことしなかった?」なんて、無邪気に笑うかもしれない。
その時、私はどんな顔をすればいい?
ノンケを好きになった女 宮吉 龍 @oobayasiutimata
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