第17話「新しい体」
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進化してから、一週間が経った。
新しい体にも、だいぶ慣れてきた。
「速い速い速い!」
飛行速度が、格段に上がっている。
前は逃げるのがやっとだった距離を、今は余裕で飛べる。
『楽しそうだな』
ドロルが、呆れたような感情を送ってくる。
「だって、本当に速いんだもん」
『分かった分かった。で、狩りはどうする』
「うん、行こう」
私たちは、いつもの狩場へ向かった。
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南側の空洞。
ここは、私たちの主要な狩場だ。
「今日は、少し遠くまで行ってみない?」
『遠く?』
「うん。いつもの場所より、もっと奥」
私は、前から気になっていた通路を指した。
南側の空洞から、さらに南へ続く道。
今まで、怖くて行けなかった。
『危険かもしれないぞ』
「分かってる。でも、いつまでも同じ場所じゃ成長できない」
『……』
ドロルは、少し考えた。
『いいだろう。ただし、危険を感じたらすぐに引き返す』
「うん。約束する」
私たちは、未知の通路へ足を踏み入れた。
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通路は、思ったより広かった。
天井が高い。
私が飛んでも、余裕がある。
「大型の魔物が通る道かな」
『可能性はある。警戒しろ』
ドロルが、鎌を構えながら進む。
私は、天井付近を飛びながら周囲を観察する。
『複眼』のおかげで、360度見渡せる。
「今のところ、何もいないね」
『油断するな』
分かってる。
でも、こうして二人で探索するのは、少しワクワクする。
一人の時は、怖くて新しい場所に行けなかった。
でも、今はドロルがいる。
「あ、何かいる」
前方に、動く影が見えた。
『なんだ』
「……トカゲ、かな」
大きなトカゲだった。
私の十倍くらい。
ドロルと同じくらいの大きさ。
『中型だな。俺が相手をする』
「待って」
私は、ドロルを止めた。
「私も戦いたい」
『お前が?』
「うん。進化して強くなったから、試してみたい」
ドロルは、少し迷った。
『……分かった。ただし、危なくなったら俺が入る』
「ありがとう」
私は、トカゲに向かって飛んだ。
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トカゲは、私に気づいた。
舌を出して、こちらを睨む。
「来な」
私は、トカゲの周りを旋回した。
速い。
前の私なら、追いつかれていた。
でも、今は違う。
トカゲが尻尾を振る。
回避。
余裕だ。
「隙あり」
私は、トカゲの背中に着地した。
口吻を突き刺す。
腐食毒を注入。
《腐食毒を付与しました》
「よし!」
トカゲが暴れる。
振り落とされる前に、離脱。
天井に張り付いて、様子を見る。
トカゲの動きが、徐々に鈍くなっていく。
毒が回っているのだ。
「効いてる効いてる」
『なかなかやるな』
ドロルが、感心したような感情を送ってくる。
「まだまだ」
私は、再び急降下した。
トカゲの頭部を狙う。
口吻を突き刺す。
追加の腐食毒を注入。
トカゲが、痙攣した。
そして、動かなくなった。
《経験値を獲得しました》
「やった!」
私は、初めて自力で中型の獲物を倒した。
『見事だ』
ドロルが、近づいてきた。
『進化の成果が出ているな』
「えへへ」
嬉しかった。
強くなった実感が、確かにあった。
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トカゲを食べながら、私たちは休憩した。
『この先、もう少し進んでみるか』
「うん。せっかくだし」
私たちは、さらに奥へ進んだ。
通路は、徐々に下り坂になっていた。
空気も、少し変わってきた気がする。
「なんか、湿っぽい」
『水が近いのかもしれない』
しばらく進むと、通路が開けた。
そこには。
「……うわ」
大きな地底湖があった。
暗い水面が、どこまでも広がっている。
『これは……』
ドロルも、驚いた感情を見せた。
「すごい」
私は、湖の上を飛んでみた。
広い。
どこまでも広い。
「端が見えない」
『気をつけろ。水中に何がいるか分からない』
「うん」
私は、慎重に岸に戻った。
『ここが、上層と中層の境目かもしれない』
「境目?」
『この湖の向こうが、中層だ。俺が逃げてきた場所』
ドロルの感情に、微かな緊張が混じった。
「……戻る?」
『いや。今日のところは、ここまでで十分だ。場所だけ覚えておこう』
「分かった」
私たちは、来た道を引き返した。
新しい発見があった日。
そして、中層への入り口を見つけた日。
いつか、あの湖を越える日が来るのだろうか。
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隠れ家に戻り、眠りにつく。
「ねえ、ドロル」
『なんだ』
「中層って、どんな場所?」
『……暗い。そして、強い魔物が多い』
ドロルの感情に、過去の記憶が蘇っているのが分かった。
『上層とは、比べ物にならない。俺でも、何度も死にかけた』
「怖い?」
『正直、あまり戻りたくはない』
「……」
『だが、いつかは行かなければならない。上層だけでは、成長に限界がある』
「一緒に行くよ」
『?』
「一人じゃないから。二人で行けば、なんとかなる」
ドロルは、少し黙った。
そして。
『……ありがとう』
小さな感謝の感情が、伝わってきた。
「おやすみ、ドロル」
『ああ。おやすみ、ペステル』
私たちは、眠りについた。
中層への道は、まだ先だ。
でも、いつか必ず。
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《ステータス》
名前:ペステル
種族:ポイズンフライ
レベル:3
HP:68/68
MP:40/40
攻撃力:21
防御力:14
素早さ:42
スキル:
飛行Lv4/複眼Lv5/共食絆Lv2/危機感知Lv4/消化液Lv4/腐食毒Lv5/毒耐性Lv3/感応Lv2
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今日、新しい場所を見つけた。
中層への入り口。
まだ、行く準備はできていない。
でも、いつか必ず。
二人で、あの湖を越える。
次の更新予定
転生したら蠅(ハエ)だったので、汚い手段で成り上がります @saijiiiji
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