第15話第「二人の狩り」



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目が覚めた。


隣を見る。


カマキリが、まだ眠っていた。


「……本当にいるんだ」


昨日のことが、夢じゃなかった証拠。


傷だらけの体。


時折走る、小さな痙攣。


ウェルミスが、眠っている間も喰い続けているのだろう。


「大変だな……」


私は、静かにカマキリを観察した。


鎌は、二本とも健在。


でも、刃こぼれが目立つ。


体のあちこちに、古い傷と新しい傷。


中層での戦いが、どれだけ壮絶だったか分かる。


『……起きていたのか』


カマキリが、目を開けた。


『感応』を通じて、意識が繋がる。


「おはよう」


『ああ。おはよう』


カマキリは、ゆっくりと体を起こした。


その動きは、少しぎこちない。


「体、大丈夫?」


『問題ない。昨日の毒は、もう抜けた』


「そっか。よかった」


私は、少しほっとした。


『それより』


カマキリが、私を見た。


『腹が減った』


「……だよね」


私も、同じだった。


昨日は色々あって、ろくに食べていない。


「狩りに行こう」


『ああ』


私たちは、隠れ家を出た。


---


「こっちが、私の狩場」


南側の空洞に案内する。


『広いな』


「うん。小虫が多くて、効率がいいんだ」


『なるほど』


カマキリは、周囲を見回した。


その目は、獲物を探す狩人の目だった。


「あ、いた」


私は、壁を這うヤスデを見つけた。


私の三倍くらいの大きさ。


いつもの獲物だ。


「私が毒を打つから、動きが止まったら――」


『待て』


カマキリが、私を止めた。


『俺がやる』


「え?」


『見ていろ』


カマキリが、静かに動いた。


音もなく、ヤスデに近づく。


ヤスデは気づいていない。


そして。


一閃。


鎌が閃いた瞬間、ヤスデは真っ二つになっていた。


「……速い」


『この程度は、造作もない』


カマキリは、淡々と言った。


でも、その動きには無駄がなかった。


一撃で仕留める。


それが、カマキリの狩りだった。


『食え』


「え、いいの?」


『俺は、もっと大きな獲物を狩る。これは、お前の分だ』


「……ありがとう」


私は、ヤスデに近づいた。


口吻を刺し、消化液を流し込む。


《経験値を獲得しました》


「おいしい……」


いつもより、おいしく感じた。


誰かに分けてもらった食事は、こんなに違うのか。


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その後、私たちは一緒に狩りを続けた。


カマキリは、大きな獲物を担当した。


私より三倍、四倍の大きさの虫を、次々と仕留めていく。


私は、小さな獲物を担当した。


カマキリでは狙いにくい、小さな虫を狩る。


『効率がいいな』


「うん」


私一人の時より、明らかに効率が上がっていた。


カマキリの戦闘力。


私の機動力と毒。


お互いの弱点を、補い合っている。


「ねえ」


『なんだ』


「一緒に狩ると、楽しいね」


『……そうか』


カマキリは、少し戸惑った感情を見せた。


『俺は、一緒に狩りをしたことがない。ずっと一人だったから』


「私も」


『そうだったな』


私たちは、同じだった。


ずっと一人で、生き延びてきた。


でも、今は二人。


「これからは、一緒だね」


『……ああ』


カマキリの感情に、微かな温かさが混じった。


---


狩りを終えて、隠れ家に戻る。


今日の収穫は、かなり多かった。


「お腹いっぱい」


『ああ。久しぶりに、まともに食べた気がする』


カマキリは、満足そうだった。


でも、その体は相変わらず痙攣している。


「ウェルミスも、満足した?」


『……どうだろうな』


カマキリは、自分の腹を見た。


『こいつは、俺を喰う。俺が何を食べようと、関係ない』


「じゃあ、何のために食べるの?」


『俺が生きるためだ。俺が死ねば、こいつも死ぬ。だから、俺は食べる。再生するために』


「……複雑だね」


『慣れた』


カマキリは、淡々と言った。


でも、その奥には長い年月の重みがあった。


「ねえ、一つ聞いていい?」


『なんだ』


「ウェルミスって、意思はあるの?」


『……分からない』


カマキリは、少し考えた。


『言葉は通じない。感情も、感じない。ただ、たまに……』


「たまに?」


『動きが変わる時がある。俺が危険な時、こいつの動きが激しくなる』


「守ろうとしてる、とか?」


『分からない。ただの本能かもしれない。宿主が死ねば、自分も死ぬから』


「……でも、もしかしたら」


『ああ。もしかしたら、な』


カマキリは、それ以上言わなかった。


でも、その感情には少しだけ期待があった。


ウェルミスが、ただの寄生虫ではないかもしれない。


そんな、小さな希望。


---


「そろそろ寝よう」


『ああ』


私たちは、隠れ家の奥に並んだ。


「明日も、一緒に狩りしようね」


『ああ。頼む』


「うん。おやすみ」


『おやすみ』


目を閉じる。


隣に、誰かがいる。


その気配が、こんなに安心するとは思わなかった。


---


《ステータス》

名前:なし

種族:スモールポイズンフライ

レベル:9

HP:45/45

MP:22/22

攻撃力:14

防御力:10

素早さ:32


スキル:

飛行Lv3/複眼Lv4/屍食Lv3/危機感知Lv3/消化液Lv3/腐食毒Lv3/毒耐性Lv2/感応Lv1


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二人での初めての狩り。


一人の時より、ずっと効率が良かった。


そして、ずっと楽しかった。


「明日も、頑張ろう」


私は、そう思いながら眠りについた。

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