第13話「再会」
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あのカマキリを見てから、三日が経った。
私は、いつも通り狩りをしていた。
でも、どこかであのカマキリのことを気にしていた。
「また、いないかな」
あの時見た広い空間を、何度か覗いてみた。
でも、カマキリの姿はなかった。
「どこか別の場所に行ったのかな」
上層は広い。
あのカマキリがどこにいるかなんて、分かるはずもない。
「まあ、いいか」
今日も狩りだ。
南側の空洞に向かう。
ここは私の主要な狩場。
小さな虫が多くて、効率がいい。
「今日は何匹いけるかな」
天井に張り付いて、獲物を探す。
いた。
ヤスデだ。
私の三倍くらいの大きさ。
ちょうどいい。
急降下。
背中に着地。
口吻を突き刺す。
腐食毒を注入。
「よし」
ヤスデが暴れる。
でも、もう遅い。
毒が回れば、動きは止まる。
あと少し――
その時だった。
《危機感知》が、かつてないほど激しく反応した。
「!?」
振り向く暇もなかった。
緑色の何かが、視界を横切った。
鎌。
あの、鎌だ。
「カマキリ!?」
私は咄嗟にヤスデから離れ、天井へ逃げた。
間一髪。
鎌が、さっきまで私がいた場所を切り裂いた。
「な、なんで!?」
見下ろす。
あのカマキリだった。
間違いない。
傷だらけの体。
時折痙攣する、あの動き。
でも、様子がおかしい。
目に、光がない。
理性が、感じられない。
そして、異常なほど痩せていた。
「飢えてる……?」
カマキリは、私が毒を打ったヤスデを一瞬で食い尽くした。
でも、足りないらしい。
こちらを見上げる。
その目は、獲物を見る目だった。
「ちょ、待っ――」
カマキリが跳んだ。
天井まで届く跳躍。
鎌が振り下ろされる。
「速い!」
回避。
でも、翅を掠められた。
《ダメージを受けました。HP 45/45 → 38/45》
痛い。
これは、まずい。
「逃げなきゃ」
全速力で飛ぶ。
でも、カマキリも速い。
追いつかれる。
「くそっ」
狭い通路に逃げ込む。
カマキリの体は大きい。
入ってこれないはず。
でも。
カマキリは、無理やり体を押し込んできた。
外殻が軋む音がする。
自分の体を傷つけてでも、追ってくる。
「本当に理性がない……!」
このままじゃ、殺される。
逃げ切れない。
なら。
「やるしかない」
私は、振り返った。
狭い通路。
カマキリは体を押し込みながら、こちらに迫ってくる。
鎌は使えない。
でも、顎がある。
噛み殺すつもりだ。
「こっちだって、牙はある」
私は、カマキリの顔面に向かって突進した。
「うおおおお!」
口吻を、カマキリの複眼の横に突き刺す。
そして。
腐食毒を、全力で注入した。
《腐食毒を付与しました》
カマキリの動きが、止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
私は、口吻を抜いて距離を取った。
カマキリは、動かない。
でも、死んではいない。
殺すほどの量は、打っていない。
「……」
私は、天井に張り付いて、カマキリを見下ろした。
動かない。
毒が回って、動けないんだ。
「殺す、か……?」
今なら、殺せる。
毒を追加で打てば、確実に死ぬ。
でも。
「……」
私は、動けなかった。
なぜか、殺す気になれなかった。
あの時見た、鮮やかな狩り。
一撃でネズミを仕留めた、あの姿。
強くて、美しくて。
私が憧れた、姿。
「……なんで、こんなことになったんだよ」
分からない。
分からないけど。
私は、このカマキリを殺したくなかった。
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どれくらい、時間が経っただろう。
カマキリが、動いた。
「!」
私は身構えた。
でも、カマキリは襲ってこなかった。
ゆっくりと、頭を上げる。
その目には。
光が、戻っていた。
「……」
カマキリが、私を見た。
その瞬間。
何かが、流れ込んできた。
《スキル『感応』を獲得しました》
「え?」
頭の中に、声が響いた。
声じゃない。
意思。
感情。
イメージ。
それが、直接流れ込んでくる。
『……すまない』
カマキリの、声だった。
いや、声じゃない。
心だ。
カマキリの心が、直接伝わってくる。
「な、なにこれ……」
『毒を通じて、繋がったようだ』
カマキリの意思が、また流れ込んでくる。
困惑。
そして、深い後悔。
『我を失っていた。飢えで、理性を失っていた』
「……」
『お前を、殺そうとした。すまない』
謝罪の感情が、強く伝わってくる。
本心だ。
嘘じゃない。
この『感応』というスキルは、相手の心を直接感じ取れるらしい。
だから、分かる。
このカマキリは、本当に申し訳ないと思っている。
「……なんで、あんなことになったの?」
私は、恐る恐る尋ねた。
声に出しても伝わるか分からない。
でも、伝わった。
『感応』は、双方向らしい。
『……長い話になる』
カマキリは、ゆっくりと体を起こした。
まだ毒が残っているのか、動きがぎこちない。
『聞いてくれるか』
「……」
私は、少し迷った。
でも。
「うん」
聞きたかった。
このカマキリのことを、知りたかった。
『感謝する』
カマキリは、壁にもたれかかった。
そして、語り始めた。。
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