第12話「観察者」
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進化してから、一ヶ月が経った。
レベルは8になった。あと少しで10だ。
この頃、私は狩り以外のことにも時間を使うようになっていた。
「観察」だ。
「あのネズミ、また来てる」
天井から、下を見下ろす。
大きなネズミの魔物が、通路を歩いている。私の何十倍もあるサイズ。
こいつは、毎日同じ時間にここを通る。たぶん、縄張りの巡回をしているんだろう。
「習性を知ることは、大事」
いつ、どこに、どんな魔物がいるか。
それを知っていれば、危険を避けられる。効率よく狩りができる。
私は最近、狩り以外の時間を観察に使っていた。
上層の魔物たちの行動パターン。縄張りの境界線。活発になる時間帯。
全部、頭に叩き込んでいる。
「知識は武器」
何度も自分に言い聞かせてきた言葉。
弱者が生き延びるには、強者より多くを知らなければいけない。
ネズミが去っていく。
次は——
「お、珍しいのが来た」
通路の奥から、見慣れない魔物が現れた。
カマキリだ。
緑色の体。鋭い鎌。私の十倍くらいのサイズ。
「カマキリの魔物なんて、初めて見た」
上層では、あまり見かけない種類だ。中層から来たのかもしれない。
私は興味を持って、観察を続けた。
カマキリは、ゆっくりと通路を進んでいる。
動きが——おかしい。
「怪我してる……?」
よく見ると、カマキリの体には傷がいくつもあった。
体液が滲んでいる。
「何かと戦ったのかな」
中層で負けて、上層に逃げてきた。そんなところだろうか。
カマキリが、急に立ち止まった。
「……?」
何かを見つけたらしい。
カマキリの視線の先には——ネズミがいた。
さっきのネズミじゃない。もっと小さいやつ。カマキリの半分くらいのサイズ。
ネズミもカマキリに気づいた。
威嚇の声を上げる。
「キィィッ!」
カマキリは動かない。じっとネズミを見ている。
ネズミが飛びかかった。
「速い——」
でも、カマキリの方が速かった。
鎌が一閃。
ネズミの首が、飛んだ。
「……っ」
一撃。
あの傷だらけの体で、一撃で仕留めた。
「強い……」
カマキリは、ネズミの死体を食べ始めた。
黙々と。淡々と。
私は天井から、その光景を見ていた。
「……あれが、捕食者か」
私も狩りをする。でも、私の獲物は小さな虫だ。
あのカマキリは、自分より大きな相手を狩れる。一撃で殺せる。
レベルが違う。
「いつか、私もああなれるのかな」
分からない。蠅がどこまで強くなれるのか、見当もつかない。
でも——
「目指す価値はある」
目標が、また一つ増えた。
カマキリは食事を終えると、どこかへ去っていった。
傷だらけの体を引きずりながら。
「……また会えるかな」
なぜか、そう思った。
あのカマキリには、何か惹かれるものがあった。
傷だらけでも、戦い続けている姿。
弱っていても、獲物を仕留める強さ。
「私も、ああなりたい」
そう思わせる何かが、あのカマキリにはあった。
「……さて」
感傷に浸っている場合じゃない。
今日も狩りをしないと。
私は南側の空洞に向かった。
いつものように、小さな虫を狩る。
ナメクジ。ヤスデ。ダンゴムシ。
一匹ずつ、確実に。
《経験値を獲得しました》
《経験値を獲得しました》
「……」
狩りをしながら、さっきのカマキリのことを考えていた。
あいつは、なぜ傷だらけだったんだろう。
中層で何かに負けたのか。それとも、別の理由があるのか。
「気になるな」
また見かけたら、観察してみよう。
私は隠れ家に戻り、体を丸めた。
「今日は、いい観察ができた」
新しい狩場の情報。魔物たちの行動パターン。そして、あのカマキリ。
知識が増えた。それだけで、今日は良い一日だ。
「明日も、頑張ろう」
私は眠りについた。
あのカマキリの姿が、頭から離れなかった。
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